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それってパクリじゃないですか?第5話

それってパクリじゃないですか?』の第5話が放送されましたので、引き続きこのnoteでも取り上げたいと思います。

まず、本第5話では、なかなか特許にならない甘酒の特許出願の問題がありましたね。

拒絶理由は実施可能要件違反(特許法第36条第4項第1号)で、北脇さんの提案もあり、拒絶理由に対する応答案の説明のためということで、審査官との面接を行うことになりました。
1回目であれば、拒絶理由の内容と面接をしたい理由にもよりますが、基本的に、審査官に面接の申し込みを断られることはありません。面接の詳細が気になる方は、特許庁の「面接ガイドライン【特許審査編】」をご覧ください。
拒絶理由とされた実施可能要件違反について書き始めると、それだけで終わってしまうのですが、要するに、出願明細書に沿ってその発明が再現できるのかどうか、また、その発明が再現できていると判断できるのかどうか、という観点での要件です。

特許法36条(特許出願)
4 ・・・発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。

実施可能要件について定める特許法第36条第4項第1号


実際に、亜季と、その同期である開発部の窪地(弟)とで霞が関の特許庁総合庁舎での審査官面接に行き、持参の応答案(注:事前に電子メール等で送付しておくのが通常)に基づいて発明の効果を主張していましたが、「オリゴ糖に関して、学術的データの裏付けが必要になります」として有田審査官にバッサリ切られていました。

審査官というのは、特許出願、意匠登録出願、商標登録出願の審査などを行う特許庁の役人です。この点について、たとえば、特許法には以下の規定があります。

特許法47条(審査官による審査)
1 特許庁長官は、審査官に特許出願を審査させなければならない。
2 審査官の資格は、政令で定める。

審査官による審査を定めた特許法上の規定

なお、亜季が特許庁総合庁舎前で「東京特許許可局」と呟いていましたが、残念ながら「東京特許許可局」は実在しません。

その後、この頑なな対応の背景には、有田審査官の上司が、月夜野ドリンクの出願に特許を認めてしまうと、類似の出願についても特許しなければならなくなるが、これらのうちどれかが特許侵害訴訟・無効審判等でひっくり返って無効となったら困る、というようなことを懸念しており、これを有田審査官にネチネチと(?)伝えていたということが明らかになりました。

この上司の方の役職が、審査第三部(有機化学)の審査長ないしは審査管理官なのか、それとも上席審査官なのかも気になるところですが、1つ思ったのは、反対に、月夜野ドリンクの出願を審査段階で特許せずに、拒絶査定不服審判や(拒絶審決の)審決取消訴訟でひっくり返ってしまう可能性は気にしていなかった、という点です。当該拒絶査定不服審判や審決取消訴訟の結果、審査段階における判断がひっくり返ると、他の類似する特許出願についても、拒絶としていた結論がひっくり返ってしまうリスクがあると思われます。
この点については、従来の考え方からは特許しない方向が自然だというような表現がチラッと出ていたように記憶していますので、自分で新しい判断はしたくないが、上で新しい判断が出る分には仕方ない、ということなのでしょうか。あるいは、無効(拒絶)が有効になるのに比べると、一度権利として認めたものが一斉に無効になるというのは影響がより大きいと考えたためなのでしょうか。

いずれにせよ、今回のところは、発酵(ポリフェノールの働きが活性化)と熟成(オリゴ糖が増加)についての発明がもともと明細書に記載されていて、熟成の方の発明は窪地(兄)の協力が得られず直ちに権利化し難いことから、発酵の方の発明で分割出願して早期の権利化を目指す、ということになりました。

正直なところ、発酵と熟成を両方明細書に書いていたのであれば、熟成の方について審査が難航しているから発酵の方でも権利化を目指すというのは直ちに思いつくべきことであり、また、分割出願というのもごく自然な方法であるため、弁理士である北脇さんが「あ!その手があったか」というような顔をするようなものではないようには思われます。考えられるとすれば、明細書に両方の発明を記載したこと自体を忘れていたということなのでしょうか。

第44条(特許出願の分割)
1 特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
一 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。
二 特許をすべき旨の査定・・・の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。
三 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。
2 前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。・・・(以下略)

分割出願についての特許法の規定(抜粋)


また、ドラマであったような、これから出願する分割出願の明細書を原出願の審査官に見せて、その場で意見をもらうというシチュエーションは想像しがたいです。
そもそも、特許請求の範囲をほぼそのまま書き写したリクレーム部分を除いて、基本的に、当初明細書や分割出願直前の明細書(親出願の明細書)と、分割出願の明細書(子出願の明細書)と、は同一にするのが通常であり、分割明細書案を見て「非の打ち所のない明細書ですね」といった感想になることはないと思われます。これは、ドラマ上の演出でしょうかね。
(それとも、発酵の方については実施可能要件違反は問題とはならない様子であったにもかかわらず、当初明細書の範囲内で、分割明細書における発明の詳細な説明の表現を練り直したのでしょうか?もし、仮にそうであるならば、分割要件違反とならないようにするために相当の力量が必要だと思いますし、それを見せられた審査官が、即座に「非の打ち所のない明細書ですね」と反応することもできないと思われます。)

他方で、審査官面接において、将来的な分割出願(の「特許請求の範囲」)についてのヒントを得るということであれば、実務上、ないわけではないと思います。
私も過去に、(親)出願の審査官面接の際、本題についての議論が権利化OKの方向で終わった後の “雑談” の中で、今後分割出願するネタに関するヒントをいただいたことがあります。基本的に審査官は明細書を細かく検討していますので、例えば、「本願明細書の段落○○に記載の・・・は、珍しい構成ですね」等のヒントを引き出すことができるかもしれません。
(場合によっては、そのような「珍しい」などと言っていただいた構成を含む特許請求の範囲の文言を考えて分割出願をすることになります。もちろん弁理士が自分で責任をもって検討することが一番重要ですね。)

なお、分割出願ではなく、今係属している出願を生かして、特許請求の範囲の補正で何とか発酵の特許が取れないのか?と思われた方もいるかもしれません。
特許請求の範囲の補正というのは、要するに、権利化したい内容を変えるということです。
ただ、補正には時期的な制限と、内容的な制限があり、補正が許される範囲は、審査が進行するにつれて次第に狭くなります。

①まず、拒絶理由通知が来るまでは、新規事項(要するに当初明細書等に記載されていない新しい技術的事項)の追加でなければ、補正することができます(特許法第17条の2第3項)。この時期の補正は拒絶理由通知を出されていないのに出願人が行う補正ですので、一般に「自発補正」と呼ばれています。
②続いて、最初に拒絶理由通知が来た後は、上記に加え、「発明の特別な技術的特徴を変更する補正」が許されなくなります。(拒絶理由通知を起案するために審査官も相応の時間等を費やしており、もし自由に補正ができるとすると、その時間等が無駄になってしまいます。)
③そして、「最後の拒絶理由通知」が来た後は、請求項の削除か、限定的減縮か、誤記訂正か、明瞭でない記載の釈明しか許されなくなり、非常に限られた補正しかできなくなります。最後の拒絶理由通知が来ると、非常にがっかりしますね。

今回は、(最初の)拒絶理由通知が打たれた後ですので、「発明の特別な技術的特徴を変更する補正」というものができず、そのため、特許請求の範囲について、熟成の発明から、発酵の発明に書き改めることができない、という状況にあった、だから発酵については補正ではなく分割で権利化を目指した、ということだと思われます。

その他、カメレオンティーのポスターについて、社長がブログから見つけてきた写真を権利者に許諾を得ることなく使用していることについても問題になっていましたね。
著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいうとされ(著作権法第2条第1項第1号)、例えば、小説、脚本、論文、講演、音楽、舞踊、絵画、版画、建築、写真、映画、漫画、コンピュータプログラムなどの、人の知的活動、精神的活動によって「創作」されたものを指します。

プロ、アマチュア関係なく、その人の個性が創作的に表現されたものであれば、著作物に該当し得ますし、極端な話、幼児が書いた絵でも、個性が発揮されていれば著作物として保護されます。
登録制度もあるにはありますが、権利として認められるための登録は不要で、著作者が著作物を創作した時点から著作者の死後70年を経過するまで保護されます。
そして、権利者がNOと言えば、私的利用、図書館・教育機関・試験問題での複製、引用、教科書への掲載などの著作権法上の例外を除き、著作物を第三者が利用することはできないわけです。
これらの観点から、著作権は非常に強力な権利だと言えます。
(著作権法にも様々な面白い論点があるので、今後、著作権をテーマにするお話があることを期待して、その際に、詳しいお話ができたら嬉しいです!)
今回のお話では、結果的に、両者が権利を許諾し合う、「クロスライセンス」ということで落ち着きましたね。

なお、クロスライセンスは実務上、多々見かけますが、私個人としては、著作権1件と特許権1件とでのクロスライセンス契約というのは見たことがありません。包括的なクロスライセンスの中で複数種類の権利が混じっているものであれば見たことはあります。
もう1つ、赤いドレスの女性が写真に写っていたので肖像権との関係も気にはなりましたが、ブログ主が適切に権利処理をしている、という設定なのでしょうか。

個人的に気になっていた「ふてぶてリリィ」についても、無効審判においてパリーク社が答弁書を出さず、口頭審理にも欠席したことで、非常に良い方向に進んでおり、安堵しました。

以上のとおり、本第5話も非常に楽しく見ることができました。
次回第6話は共同研究開発と特許が問題になるようで、そちらもとても楽しみにしています。

文責:鈴木佑一郎


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