めくるめく現代短歌の世界
こんにちは!
株式会社LOCKER ROOMでWEBTOONのプロデューサーをしている久保田大地です。
普段はマンガ作りに携わっていますが、今回は趣味の話を少し。
現代短歌が面白い!
短歌について馴染みがある、という方は正直少ないのではないでしょうか。
堅苦しいものに感じる、読んでも理解できないだろう、古くさい、色々な見方があると思います。
断じてそんなことはない!!
僕も齧っている程度の若輩歌人風情ではありますが、短歌の世界は実は広く開かれているので、先達のマウントなんてものはありません。自由な感性で楽しめばいいのです。
今回は短歌の面白さを語らせていただきます。
そもそも短歌って?
短歌とは読んでそのまま「短い(詩)歌」なのですが、よく混同されがちな形式の詩がいくつかありますね。「俳句」や「和歌」「川柳」などです。
「短歌」は「五・七・五・七・七」の31文字で構成される短い詩。大枠このリズムに則っていれば基本的には何を歌っても自由です。
同じリズムのものでは「和歌」があります。
和歌は古今和歌集や万葉集に載っているような平安時代前後に成立したもの。百人一首で馴染みがあると思いますが、和歌は現代に生きる我々にとっては文法や技術が複雑で、少々ハードルが高く感じられるのではないでしょうか。
対して俳句はテレビ番組やお茶のラベルでよく目にする、現在でもお馴染みの詩。
こちらは「五・七・五」の17文字で構成されますが、俳句にしかない特徴は季語を用いなければならないこと。季語は歳時記という季語辞典に収録されていますが、要は四季を連想させる言葉を入れないといけません。
わずか17文字の中に季語を入れて成立させるのは、やってみると実はなかなか難しいです。
川柳は俳句と同様に「五・七・五」の形式ですが、俳句が季語を用い四季折々の風情を詠むのに対し、川柳は人間の生活・営みに根ざした詩。
サラリーマン川柳などが有名ですが、ありのままの生活を皮肉まじりに詠むスタイルが一般的です。
ここで短歌に戻ると、他の短詩と比べてすごく自由な詩だということがわかると思います。
文字数も31文字と十分にあり、ジャンルや指定のワードといった制約もない。といって普通の詩になるとあまりに自由すぎて何から始めればいいのかわからない。
実は短歌は詩ビギナーにとって、読むのも作るのもとっかかりやすい文学なのです。どうでしょう、少し興味が湧いたのではないでしょうか。
短歌を読んでみよう
前提を長々と話してしまいましたが、短歌はやはり読んでみるのが一番。
僕の好きな短歌を3つ紹介します。
現代短歌の雄、岡野大嗣氏と木下龍也氏がリレー形式で書いた歌集「玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ」に掲載されている短歌。
子供の頃どうしても取り出したかった瓶ラムネの中のビー玉。なんとか取り出したビー玉を宝物の缶の中に大切にしまっていた、それほどにあの淡いブルーのガラス玉に魅了されたのは一体何故だったか。
「夏のすべてをつかさどる玉」。この言葉を目にした時、あの日の情景が「ああ、そういうことか」という納得感とともにすっと胸に降りてきました。
同著から、木下氏の一句です。
高校生が詠んだ短歌という設定ですが、まだ自分のアイデンティティーを模索しているようなこの時に、どこかでずっと「物足りなさ」や「空虚さ」を感じていた人も少なくないのではないでしょうか。
その空虚さを、洋画のタイトルから消えたTHEで表現することの衝撃。
「THE」にピッタリと符合する日本語はないから、邦題になる際に当たり前のように切られてしまう。思春期に感じる言葉にならない空虚さを表すのに、これ以上美しい言い回しを僕は他に知りません。
こちらはまた打って変わって少女漫画の一節のような、淡い情景が浮かび上がってくるようです。「葉の匂い」を「ざあと浴びる」という文学的な表現が、まだ初々しい男女のもどかしいようなやり取りを美しく彩ります。
多くの情報が含まれているわけではないのに、文脈から様々なことを想起させ、二人の行く末に思いを馳せさせる素敵な一句です。
短歌はエンタメコンテンツと通じている
短歌に触れる中で、僕の中で好きな短歌には共通することがあることに気づきました。
それは、「あるあるの中の、ないない」です。
全く意味がわからないと思いますが、説明します。
あるあるはお笑いでよく用いられる言葉ですが、「あぁこんなことあるある」と人に共感させる部分です。誰もが一度は経験したことだったり、経験していなくても共通意識として想起されるシチュエーションや感情が題材として組み込まれていると、受け取り手はスムーズに受け入れることができます。
しかしあまりにも普遍的で手垢がついたテーマは、同時に既視感がありすぎてつまらなく感じてしまいます。そこで登場するのが「ないない」です。
多くの人が共感できる題材を取り上げながらも、独自の目線で世界を切り取る。「そんな見方もあるのか!」と、その感覚が自分の感覚と一致した時、または新たな発見を得た時に人は感動やカタルシスを覚えるのではないでしょうか。
そしてこの構造は映画や漫画などのエンタメコンテンツにも共通しているのではないでしょうか。
全く共感が得られない馴染みのない舞台や設定、キャラクターの言動があると、受け取り手は振り落とされてしまいます。しかし当然ありきたりな作品は無数のコンテンツの海で溺れてしまい日の目を浴びることはありません。
とっつきやすい入り口だけど、見たことない斬新な展開。エンタメの作り手は常にそこを意識しているのではないでしょうか。
つまり、短歌はたった31文字で一つの世界であり、優れたエンタメコンテンツでもあると思うのです。
最後に自作の短歌を紹介してしめたいと思います。
やはらかな斜陽差し込む理科室で夏を知らない蝶の標本
残酷に手折ってもいい紫陽花は静かに濡れる青い骨壷
それではまた!
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