KUBOON

西荻窪在住 ウィスキー好きによる読書かきつけ

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最近の記事

ことり

小さな限られた場所でも人は生きていける。 「ことり」の小説に出てくる人や動物、モノにはなぜか、実態を持たないフワッとした輪郭があって読んでいる側からすると、不思議な世界観に入ってしまう。お兄さんと、小父さんとで交わされるポーポー語でのやり取りや、棒つきキャンディーを選び取る手順、小父さんと園長先生との穏やかな会話など。常に静謐な雰囲気が漂っている。 特に、お兄さんの、鳥は生まれつき考える生き物だ。なぜなら、鳥の目は両側についており、ものをじっと見るためには首をかしげなくて

    • 幼年期の終り

      時間に余裕のあるこのご時世の中で、SF小説であるアーサー・C・クラークの「幼年期の終り」を家のベット上と入浴中に一気に読んだ。 この時期にこの本と出会えたのも、何かの縁だろうか。この本が出版されたのは、1952年ごろ。今のようにネット世界が成熟していなかったにも関わらず、現代における問題の多くのことを示唆している。 この小説の中では、オーバーロードという地球の外からやってきた謎の生命体?が、様々な地球の問題を解決したり、どんどん便利な無駄のない世界作りを手伝ってくれる。例

      • 夜のミッキー・マウス

        谷川俊太郎の詩集の中で一番のお気に入りは「夜のミッキー・マウス」 ポケットに入るくらいのうすい手帳ほどの本。 詩集を読んで何も感じないときは、考えごとをしているときや、気持ちが落ち着かないとき。逆に、心に響くときは、なぜか何も考えていないときに、すっと頭の中に入ってくる。 私の中での詩の楽しみ方は、「余韻」である。谷川さんの詩の余韻は、炭酸ジュースのキャップをひねったときに勢いよく抜けていくものもあれば、コーヒーのように香ばしい湯気を立てて楽しませてくれるもの、はたまた

        • 苦海浄土

          外出自粛要請に伴い、家にいることが多くなってきたので、前から気になっていた石牟礼道子さんの、「苦海浄土 わが水俣病」を胸が締め付けられるような思いで読んだ。 熊本県南部、不知火海にある漁村をおそった奇病。 会社は、有機水銀が原因と分かりながら、海に排水をすることをやめられない。近代国家の経済成長の犠牲になってしまったのは、自然の恵みによって生活を営んでいる人たち。 この物語に出てくる人物たちは、清冽な湧水のように、ピュアで、まっすぐで透明感がある。 いつも決まった時間

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