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「生理の貧困」を間違って解釈!(毒母あるあるって思っちゃった私)その5

 とにかく。
 その類の話は、タブーだったので、生理痛で苦しんでいても、甘えて訴えることなどありえない選択。もちろん、薬ももらえない。
 まだ無邪気だった2,3回目の生理の2日目。
「お腹がいたーい」
 とゴロゴロしていたら、
「そーゆーことが、あるからよ!!」
 と早口で切り捨てられ、いつものように怖い顔をしていたので、
「あー、こういうことは言ってはいけないんだな」
 と学習してしまった次第。
 だから、痛くてどうしようもない時は、台所に誰もいない時にこっそり行ってビオフェルミンを飲んでいた。ビオフェルミン・・・。それは、整腸剤。でも、何も飲まないよりは、気休めになったような気がする。
 こんなふうに何も言えないから、トラブルが起こった時の対処法もわからない。
 ある朝、寝ている間にナプキンがズレてしまって、下着に大きな染みができてしまった。説明したように、私のつけていたナプキンは、トイレットペーパーぐるぐる巻きの代物なのだから、ズレるのは当然だった。
 その下着を見て、茫然とした。
「どうしよう」
 血液が洗濯しても落ちないことを知らなかった私。さんざん迷った挙句、そのまま洗濯機に入れてしまった。
 洗濯したら、元に戻りますように、と祈りつつ。
 甘かった。
 私が椅子に座って何かをしていた時だ。ドタドタドタとすごい足音が聞こえ、何事かと思っていると、母が鬼の形相で私に突進してきた。
 手には、私の下着。
 まるで、殺人事件の重要な証拠品か何かのように、それを振りかざし、私の目の前に突き出す。
「あんた! こんな物入れたら、どうなるかわかってんの!? 皆の洋服が汚れちゃうのよ! わかってんの?!」
 今書いていても、辛い。どうして、そこまで責めたてる?
 初潮を迎えて、まだ1年にも満たない頃。失敗なんて、誰にもあるはず。身体もどんどん変化していく不安を抱えているというのに、追いうちをかけるように怒鳴りこまれた。
 反論の余地、あったかどうか。
「お母さんがあんなヘンな方法で、ナプキン使わせるからズレちゃうのよ」
「何も教えてくれないくせに、それでも母親?」
 今の私なら、いくらでも言い返せるけれど、12歳にもなっていない当時の私は、突然声を荒げられたことで委縮し、頭が真っ白になって何も言い返せなかった。
 これで私が悪かったこと、決定である。涙をこらえつつも、理不尽な思いでいっぱいだった。
 それ以降大きな粗相はしなかったけれど、小さい染みなら見つからないように自分で洗っていたし、生理の日を知らせたことは一度もない。
 母も、何も聞いてこない。
 ある夏の朝、眠っていたら、またもや敵意丸出しで近づいてきたので、寝ぼけまなこで何が起こったのかと警戒すると、私の背後にしゃがみ、
「この子ったら、また! もう!」
 と私の臀部をぶってきた。
 私はまだ、寝ていたのにである。本当に驚いたけれど、「また」という言葉でピンと来た。生理中だったので、またパジャマに染みでも作ってしまったのだろう。すっかり目が醒めてしまった私は、別室に行って確認してみた。
 その時母がどこにいたのかは全く記憶にないけれど、たしかにズボンに赤い染みがついていた。その直径・・・たったの1センチ程度である。花柄のパジャマだったので、パッと見ただけではわからないくらい、模様に埋もれていた。
「え・・・・これで?」
 どうして、ぶつの? どうして、怒るの?
 わざとやったわけでもないのに。こんなびくびくした日々を毎月迎えなければいけないのか。私は、小学6年にして、人生に絶望していた。
 書いたように、ナプキンは一切買ってもらえない。少ないお小遣いから自分で買うしかなかった。今のように薄型でコンパクトなパッケージではないので、買ってくれば目立ってしまう。
 まず母が帰宅する前の時間帯を狙い、さらに弟に見つからないように頃合いを見計らう。
 見つかると、
「どこ行くの? 僕も連れてって」
 とまだ小学校中学年の彼に言われ、断念したことが何度かあった。もし、弟に買ったことがばれたら事情がわからないので、母に歪んだ告げ口をするかもしれない。
「お姉ちゃん今日ねー、なんだか知らないけど薬局でヘンなもの買ってたー」
 とかなんとか。
 母は。
 それを聞いて、多分怒る。
「一か月一枚の計算なら、まだたくさん残ってるのに、なんで無駄遣いすんのよ!」
 または、
「ナプキン買うなら、見つからないように買いに行きなさいよ、みっともない」
 だったら、買ってくれよ。本当に、大変な思いをしていたのだから。
 このようなトラブルを避けるためには、普通の女子中学生が決してやらない無意味な段取りをいくつも踏まなければいけなかったのだ。
 それだけなら、まだいい。
 家のトイレには、汚物入れが設置されていなかった。これも、足りない頭でどうするべきか考えた。
 そうしてナプキンの交換は、自分の部屋ですることにした。けれども、ゴミ箱に捨てたらきっとまた怒られてしまうだろう。そこまでは予想がついたので、ドレッサーの引き出しの中に隠しておいた。
 そしてある程度たまったら、まとめて自分で捨てに行っていたのだと思う。そうやって、凌いでいた。

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