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「遠い家族」前田勝さんの本を読んで深く深く考えた(基本ネタバレだらけ)その3

 最初私は、自分の幼い頃と重ね合わせ、
「前田さんは、よく泣くんだな」
 と思っていた。泣けなかった自分を思い出していたのだ。
 そのうちに、
「ここで泣けて良かった。泣けなかったら、きっと狂っちゃっただろうから」
 と思うようになった。
 どう考えても、泣いてしかるべき時にも、グーっと我慢して涙を堪えるのは、心にも身体にも良くないから。絶対に。
 男だろうが女だろうが、堪えきれない時はある。
 どら焼きを上から厚い板で押し潰したら、あんこは生地からはみ出してしまう。それはそのまま人生の不具合として成長してしまう。とんでもない我慢は、そのあんこのようなもの。
 だから。
「前田さんは、泣けたので良かった」
 と途中から思うようになったのだ。
 前田さんは、事件から10数年経って、少しずつこれらのことを発信し始めた。役者をやっていたので、お母さんとの物語を書き、舞台で上演もした。
 演出は、前田さん自身。
 そのあたりから、テレビのドキュメンタリーに出演しませんか、というオファーも来て、迷った末に取材を受けることにした。
 そうすると番組の予算で、今までは実現不可能だった韓国や台湾に行き、ゆかりのある人たちにも会うことができた。
「こんな壮絶な経験をしているのに、よくグレませんでしたねぇ」
 その頃、よく言われた言葉。ここに、鍵がある。
 あまりにひどすぎて、グレている暇なんかなかったとも言える。たぶん、それも正解なのだろうけれど、もう一つ。
 前田さんの中には、いつも「希望」があったと思うのだ。
 ひどい状況であるからこそ、ほんの少しの良いことに感謝したり、ラッキーだと思ったり。
 事件当時住んでいた家は、お母さんがお義父さんを殺した「事件現場」となってしまった。とてもそんな所に、一人で住めない。
 そんな時、
「住む所が見つかるまで、住んで良いよ」
 と言ってくれた高校の同級生がいる。
 彼のお母さんは、朝、
「今日は何時に帰って来るの? 夕ご飯は家で食べるの?」
 と聞いてくれたと言う。
 いつもテーブルの上のお金で、夕食を買っていた前田さんは、そんなふうに自分を気づかってくれる人がいてくれるということに感動し、感謝する。
 だから、グレないでいられたのではないか?

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