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病院を転々とさまよって。(私のこの症状は、何? 誰も教えてくれない)その1

 病名と原因がわからなくても、また元の元気な体に戻りたい気持ちは人一倍あった。インターネットのない時代、本屋で健康や医学の本を長時間立ち読みして、情報を集めるしか方法がなかった。当時まだ「パニック障害」という概念もなかったのかもしれない。もしどこかで目にしたら、すぐにピンときたと思うから。その状態になると心臓がバクバクして、いても立ってもいられなくなる、というのはまさに私の症状だったから。
 今回は、誰かに病名をつけてもらいたくって、あちこちの病院に行き、余計に傷ついた、辛くなったという話を中心に書いていこうと思う。
 ある日本屋に行き、精神系のコーナーの前で立ち読みをしていたら、女性が話しかけてきた。私が、26、7歳の頃のこと。
「こういう本に興味があるの?」
 私は、ここでも小ウソつき子さんになって、
「友達が精神的なことで悩んでいて、何か助けになればと思って」
 と言った。
「偉いわねー。お友達思いねー」
 褒めてくださった。そもそも、どうして声をかけて来たのか。私が真っ暗な表情をしていたからかもしれない。こういう時に咄嗟につくウソも、妙な罪悪感にかられて精神的には良くない。誰かに頼りたいけど、その方法もわからなかった。だから、もしかしたらこの女性が私を助けてくれるかもしれないから本当のことを言うべきかどうか、の判断もつかなかったわけで。
 もちろん病院にも、何軒も行ってみた。大体は泌尿器科の門を叩いた。心療内科の類に行く発想もないし、確かに膀胱炎には何度もなっていたので。
 症状が出ている時は、良い。抗生物質を処方して、
「様子見なさい」
 と言ってもらえるから。
 でも、尿検査しても異常がないと、医師も困る。
 私が鬼気迫る勢いで不調を訴えるものだから、戸惑ったような顔をしたり、時には、
「この忙しい時に」
 というような迷惑そうな表情をする人もいた。
 誰にすがって良いかもわからないわけだから、逆に言えば今目の前にいるこの医師だけが、頼みの綱なわけで、私も必死だ。
「足に悪寒が走るんです!」
 パニックになると、血のめぐりも悪くなるのだろうか。足が自分のものではないようになり、こわばり、冷たくなってしまう。
 それなのに・・・・・。
「ほう、悪寒なんて専門的な用語知ってるねぇ、はははは」
 笑われた。
 「悪寒」は、専門用語なのか?
 それすら、わからない。その医師は、いきなり私の目を覗きこみ、私の両肩に手を置いて、
「いいかい? 君は、どこか悪いって言って欲しいんだろ。そして、悪いとこあったら、ああやっぱりねって安心したいんだろ」
 少し断定気味ではあったけれど、嬉しかった。初めて私の辛さを理解してくれたような気がしたからだ。その日から35年が経とうとしているけれど、今でも覚えている両肩に乗った掌の重み、温かみ。こんな小さなできごとを覚えているなんて、当時どれほど拠り所がなかったかということの、裏返しでもあるのだけれど。
 とは言いつつ、今だったら、すぐにメンタル面が関係していると気づいて、紹介状を書いてくれる案件だろう。初老の男性医師は、心療内科に行った方が良いとは思いつかなかったのだろうか。

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