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おばけのワニのはなし‐うごくぬいぐるみたち‐

今日はワニのおばけの話をしようと思います。ワニがどうしておばけになったのか。の空想です。


「おばけのワニのはなし」

ワニは生前動物園に居ました。動物園には沢山の種類の生き物がいてどの子もみんな人気でしたが、生前のワニは特別有名で人気者のワニでした。

ワニには人間たちが付けたあだ名がありました。その名も『やさしいワニくん』

ワニは他のワニの食事風景が苦手でした。生肉をガツガツ!骨なんて丸のみ!むしろ血が滴ってるぐらいがちょうどいいぜ!なんて言うワニを見ると白目を剥きそうになりました。

「僕は肉は苦手だな、ずっと前に食べたら吐いちゃったんだ。多分身体に合わないんだとおもう」ワニの好物は肉ではなく綺麗に切ってもらったリンゴでした。(ウサギ型のリンゴだとなおよし)

ワニはワニ達の中でも変なヤツとして有名でした。

ワニは人間を襲いません。他のワニ達は人間をおどかしてやろうとか、食ったら旨いかもしれないと隙あらば人間を口に入れたいと考えていましたが、このワニは違いました。ワニは卵の時からこの動物園で暮らしています。人間の手は柔らかく頭を撫でて貰うとすごく気持ちがよく幸せになれることを知っているからです。もっと撫でてほしくてすり寄ると人間たちは恐る恐る撫でてくれました。最初は警戒していた飼育員もワニが人間を襲わないのを知ると毎日撫でてくれるようになりました。そして、いつの日か来園してくれた人々もワニを撫でるようになりました。

ワニは人を襲わない「やさしいワニくん」として有名だったのです。

ワニは単に撫でてもらうと嬉しいのでそんなあだ名なんて気にも留めませんでした。別に優しくないし。なんて。

ある日、別のワニが良い考えを思いつきました。檻から出ているワニにとって代わって自分が外に出て人間をガブリとしてやるというアイディアです。ゆっくりリンゴを食べていたワニにこう言いました。「俺も一度人間に撫でられたいから明日代わってくれないか」ずっと変なヤツと言われてきたのでやっと仲間ができるとワニは大喜びです。

園内のワニはほとんど見た目が変わらないので、どのワニが「やさしいワニくん」かは人間にはわかりませんでした。ただ噛みついてこないワニがこちらに来たら「やさしいワニくん」だったからです。

あくるひ、別のワニがなりかわり檻の出入り口で待っていました。ワニはにっこりと近くで見守っています。

すると突然ワニが飼育員の腕をガブリとしました。皆驚き飼育員は必死に逃げています。あわててワニは止めようと噛みついているワニにのしかかりました。ゴロゴロ二匹は転がり大げんかが始まりました。

一人の飼育員が銃を取り出してきました。どっちのワニか決めかねていると、人間を噛んだワニをのしたワニが人間のもとへ大慌てで近づきます。いつも優しく撫でてくれた飼育員が心配で仕方なかったのです。


ワニは、飼育員に殺されました。


気が付くとワニは真っ白でフワフワになっていました。今いる場所も最初はよくわかりませんでした。足が無いのでどうしようかと考えていたらスーッと動くことが出来ました。身体も軽く何だかいい気分です。

しばらくスーと動く自分で遊んでいると、ふと、腕を噛まれた飼育員を思い出しました。何があったかはよく覚えていませんが、いつも撫でてくれていた飼育員が恋しくなりました。すると

飼育員の顔が目の前に現れました。わっとびっくりするワニに飼育員は浮かない顔でぼんやりと空を見ています。どうやらワニのことは見えていないようでした。飼育員の右手には真っ白の大きなギブスがはめられていました。

ワニは飼育員の手元にすり寄ります。撫でてほしいからです。

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けれどどれだけたっても撫でて貰えません。

「僕の腕はそれほど酷い傷じゃなかったんだ。遊びたかっただけなんだろ?なのに殺されてしまったごめんよ」飼育員は独り言をぽつりと言った後ぽろぽろと涙を流していました。

ワニはそのとき自分が死んだことを知りました。


おばけになったワニは自由自在です。いろんなところに行けます。ワニは人が集まるところが好きでした。動物園でもたくさんの笑顔の人に囲まれ幸せだったからです。銭湯・パーティー・幼稚園、人々はワニが見えません。けれどたまに見える人が居るようです。小さい子達はワニに興味津々です。ネコもワニをじっと見つめています。犬には吠えられて少し苦手だと気が付きました。街中でぼんやりしてるとたまに大人がびっくりして二度見してきました。「いろんな人が居るなぁ」とワニはおばけになってちょっぴりよかったなとおもいました。

end


長くつたない文章をここまで読んで頂いて本当にありがとうございます。ワニはおばけになっても元気です。むしろ檻に入らなくていいのでせいせいしています。リンゴが食べれないのはたまに寂しくなるけれど。


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ばーい

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