読書メモ「三体Ⅱ黒暗森林」コミュニケーションの重要性を説いた人類賛歌

 Netflixのドラマ版の配信と合わせて、だいぶ昔にブックオフで買った第一部を読み終えていた「三体」ですが、第二部の文庫版が出ていたので購入しました。面白すぎて読む手が止まらないとはこのこと。通勤の電車で読んでいたのですが、面白すぎて明日の出勤が楽しみになるレベルで面白い。「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」というテーゼには、スマホを捨てて三体を電車で読もう!!という解を見出すことができた。久々に本に感動を覚えたので、Noteに書き記しておく。

 第一部では、地球文明と三体文明の邂逅が丁寧に描かれおり、地球文明が侵略の危機に瀕していることが露になる。文字どおり次元が違う三体文明の技術力を用いた智子によって、地球における基礎科学の発展は阻害され、人類のありとあらゆる行動は三体文明の監視下に置かれた。三体文明からの「お前たちは虫けらだ」というメッセージに人類の落日を感じつつも、決して「人類は虫けらに勝利したことはない」という象徴的なシーンで幕を閉じた。

 第二部では、ここまでひろげた風呂敷でどう物語を展開するんだ…と思ったが、本当に杞憂だった。人間の想像力に心の底からの感動を覚えるほどのハードSFな展開が繰り広げられる。次元の違うスケールで繰り広げられるSF作品ではあるが、描かれるのはコミュニケーションという身近に感じられるテーマであり心にぐっとくる。人類にはこんなことを想像することができるという感動と作品のなかで描かれるテーマへの感動によって、未来へ希望を与えるのが、この三体の第二部であった。

 文庫本の上巻では、三体文明の侵略に対する人類の作戦が描かれる。監視機能を持った陽子である智子によって、ありとあらゆる活動が監視下に置かれた人類は、「面壁作戦」を始動する。三体文明であっても、人類の頭の中の思考を監視することはできない。国連に指名された4名の面壁者(Wall-Facer)は、ありとあらゆる資源を総動員することができる代わりに、その自らの思考の中で来る決戦に備えた作戦を用意しなければならない。対する三体文明は、地球上の三体文明の信奉者を通じて、面壁者の思考を看破するための破壁人(Wall-Breaker)を用意する。果たして、それぞれの面壁者はどのような作戦で三体文明の侵略に対抗するのか。そして、一介の社会学者である羅輯は、実績も名声もないのに面壁者に選ばれてしまったのが、それはなぜなのか。
 まさか第一部で拡げた風呂敷のうえで、文明間の心理戦をするとは思わず、たまげてしまった。地球文明の叡智を総動員したライアーゲームが繰り広げられ、かなり見ごたえを感じる。ハードSF設定といえども、現代文明の延長線上のSF展開なので、腰を据えて楽しめる。また、「面壁者」に対する「破壁人」という設定も、単純に少年マンガのようでワクワクしてしまった。そんなくらくらするようなエンタメ要素がありつつも、上巻で描かれるのは、「コミュニケーション」という切り口だ。「面壁者」は、ありとあらゆる行動が面壁作戦の一環とみなされ、真の意味で他者とのコミュニケーションが不可能になってしまう。

だれかが面壁者になったら、その瞬間から、面壁者とそれ以外の一般人とのあいだには、目に見えない、超えられない壁が立ちはだかって、面壁者の一挙手一投足に別の意味を与える。そしてそのことを、面壁者に向けられる笑みが物語っている。

p.208,「三体2 黒暗森林 上」

 「面壁作戦」を通じて描かれる他者とのコミュニケーションの途絶とそれを超えることのできる人間の感情というものが、第二部の展開において非常に重要になってくる。これは物語とは直接関係ないが、中国の小説において「人間の頭のなかの思考は監視できない」という設定がキーになるというメッセージ性も指摘しておきたい。思考とコミュニケーションというものが、圧倒的なサイエンスフィクションと想像力によって描かれている。
 どうでもいいんですが、上巻を読んでいて、ハンターハンターのパクノダを思い出しました。パクノダに対する予言詩は、「あなたは狭い個室で2択を迫られる」というものであった。思考は完全に自由である一方で、他者とのコミュニケーションが取れないと単なる閉所にすぎないという…。富樫先生はやく続き書いてください。

 そして、下巻ではそのスケールが指数関数的に加速していく。もはや想像力の爆発という表現が適切といえるくらいであり、物語は上巻から約200年後の未来まで進んでいく。自分自身の想像力と脳細胞が総動員され、表現された文字が頭の中で映像化されていくのが、かつてない快感であった。端的に言うとブッ飛んだサイエンスフィクションワールドでなのであるが、単純に読んでいて面白い、エンタメとしての質の高さを感じられる。アクセルが何段階もかわってSF展開が描かれる下巻においても、「思想」と「コミュニケーション」が極めて重要な展開を握る。面壁者でもある脳科学者が開発した精神印章というシステムを用いれば、人間の思考に命題を信じ込ませることができる。スターシップアースの顛末によって、コミュニケーションの重要性が語られる。そして、その2つの展開を下敷きにしつつ、羅輯がこの物語をエンディングへと導いていく。見事なタイトル回収と空前絶後のスケールで描かれる死亡フラグが下巻の見どころである。

 圧倒的なスケールのサイエンスフィクションであり文明間の戦争を描きながらも、他者とのコミュニケーションと愛情という普遍的な感情が核となる物語となっている。そして下巻で語られる黒暗森林を今の地球世界で考えたとき、これをつくることの人間の想像力の豊かさを踏まえれば、未来に希望を与えてくれる人類賛歌のような小説だったように感じる。

 第三部の文庫版も今月に出るらしいので、買って読むぜ!!!!




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