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プレイングマネジャーを脱するための小さな工夫(技術系マネジャーへ)

私が管理職になったのは2019年のことでした。
それまではデータサイエンティストとしてピンで動いていたのですが、技術チームのマネジメントを行うことなったのです。これによって、マインドセットから行動様式まで変える必要がでてきました。

特に私が苦戦したのは「プレイングマネジャーを脱すること」でした。自分が仕事を抱える限り、チームとして成果を上げることができません。いろいろと試行錯誤を重ねてここから脱したとき、部長のポジションをオファーいただくことになりました。

この記事では特にデータサイエンスチームなどの技術系マネジャーにフォーカスし、プレイングマネジャーの弊害と脱し方について考えてみます。個人的な経験に基づくものですので、その点ご容赦ください。


マネジャーに求められるもの

マネジャー(または課長)は仕事の最前線にいる管理職であり、ビジネス上の成果を目指しつつ日々やってくる様々な問題を解決していかなければなりません。管理職という仕事の特性上、個人としての自分の成果だけを考えるわけにはいかず、チーム全体として成果をあげる必要があります。よく読んだ本の中から、これを端的に表現している一節を以下に引用してみます。

マネジャーも、自分「自身」の仕事や自分個人の仕事をやり、これをよくやりこなすだろうが、これは当人のアウトプットとはならない。何人かの部下や、自分の影響下にあるグループがいれば、そのマネジャーのアウトプットは、部下、あるいは影響下にある仲間たちが創出するアウトプットで測定しなければならい。

引用元: HIGH OUTPUT MANAGEMANT,アンドリュー・S・グローブ,日経BP社,2017

チーム全体で成果をあげようとすると、まずはチームとしてのゴールを設定して計画を立て、メンバーにやるべきことを割り振り、その進行によってゴールを目指すことになるでしょう。チームやプロジェクトの大小に寄らず、概ねこうした流れになると思います。

しかし、物事が計画通りに進むことはまずありません。仕事をしていると大小さまざまな問題が出てくるものです。このため、マネジャーはタスクの問題発見と解決に奔走することになります。

初めのうちは楽観的に構えていても、事態が悪化すればするほど問題の対処に時間を使うようになり、余裕がなくなってきます。
進捗の遅れ、技術的な課題、予想外に振ってきたタスク、コミュニケーションの行き違い、予算カット、顧客からのクレーム、メンバーの急な離脱など、挙げればきりがありません。

プロジェクト型の仕事に携わっている技術系マネジャーの方は、少なからずこうした経験があるのではないでしょうか。もちろん私も何度も経験してきました。もし、プロジェクト型の仕事で全く問題が起きていないとすれば、それこそ何か重大な問題が隠されていると想定してみるべきでしょう。

問題に集中していくと何がおきるか

このように、マネジャーは日々問題に追いかけられながらチームとしての成果を上げる必要があるわけですが、みなさんはどのような工夫をされていますでしょうか。

ストレートな対処法は、目の前の問題に集中することだと思います。そして、できる限り問題を早い段階で捉えていくことにシフトし、最終的にはリスクマネジメントへ。問題が発生しないように、あるいは問題が発生してもすぐに解決できるようにしていけば、いつか平穏な日がやってくるかもしれないと思うわけです。

しかし、往々にして、問題というのはなくそうと思ってもなくなるものではありません。不思議なことに、忙しいときには忙しいなりに、暇なときは暇なときなりに何かしらの問題が発生するからです。これについて、技術コンサルタントであり教育者でもあるワインバーグは次のような言葉で端的に述べています。

第一の問題を取り除くと、第二番が昇進する。

引用元:コンサルタントの秘密,G. M. ワインバーグ(著),共立出版,1990

なぜこのようなことになるのか正直わからないのですが、長年ビジネスに身をおいていると「そうだよな」と思いつつ、数々のエピソードが浮かんできます。おそらく、どのような問題であるにせよ、掘り起こしていけばいつか人の問題に行きあたるからだと考えています。そして、人の問題があるからこそマネジャーが必要とされているのだと私は思うようになりました。

このような、果てしない問題の渦をなんとかするのがマネジャーの役割ではあります。しかし、逆説的ですが、問題解決に躍起になりすぎると様々な弊害が生まれてくるように感じています

例えば、ミーティングが問題管理表やチケットの精査で占められるようになり、週を重ねることにメンバーの宿題が増えていく。そして、そのミーティングでの解決が難しいとなると、別のサブミーティングが設定されるなど、チームの負担が増えていく。ついには、1 on 1ミーティングの場が尋問室のような雰囲気になり……。

ここまで極端になるかどうかはさておき、マネジャーが問題に追われるようになると、チームが疲弊していくのは避けられません。といっても、問題から目を背けても消えるわけでもなく、上司への報告で取り繕うのみではメンバーからの信頼を失うだけです。

このように、延々と問題に目を向けているとエンゲージメントが低下し、チームとしてのパフォーマンスが下がることになるでしょう。そうすると、冒頭に述べた「チームとして成果を上げる」ということが難しくなっていくのです。ではどうしたらよいでしょうか。

プレイングマネジャーという誘惑

もし、このような状況でマネジャー自らがタスクをこなす道を選ぶと、立派なプレイングマネジャーの出来上がりです。要はメンバーで対処できない問題やタスクをマネジャーがカバーするわけですね。

マネジャーというのはチームとして成果を出すために、メンバーに仕事を振り、成長機会を与えることが主たる役割です。とはいえ、日本国内の状況を見回してみると、多かれ少なかれプレイングマネジャーであることが求められていることも否定できません。私もそうでした。

特に、データサイエンティストやAIエンジニアを束ねる技術系マネジャーは、専門職として優秀であったからこそマネジャーに抜擢される場合が多いのではないでしょうか。

その優秀さとは、技術のみならずビジネスに対しても理解があり、ステークホルダーとの会話に優れていることも含まれています。このため、チーム全体でみると、ある時点ではマネジャーが最も総合力が高いこともしばしばあります。そうなると、技術・ビジネスを問わず、マネジャーが問題に直接対処した方が手早いわけです。

例えば、技術コンサルティングのような高度なサービスを社内や社外に提供している場合、クライアントに対する価値提供こそが重要となります。このとき、最終的なアウトプットで質を落としてしまうと次はありません。このため、チームの生存をかけて、マネジャーがプロとして品質を担保することになりがちなのです。

このように、マネジャー自身がコアとなるタスクを実行して問題解決をすることは手ごろで堅実な手段になります。しかし、このような対処は劇薬のようなものであり、多用すべきではありません。劇薬には副作用がつきものだからです

プレイングマネジャーの弊害は多々あります。第一の弊害は、メンバーの適切な稼働と成長機会を失うことです。それによりメンバーのモチベーション低下を引き起こし、更に事態が悪化していくことでしょう。そして、最終的には、チームのパフォーマンスがマネジャー個人のケイパビリティに閉じ込められるようになり、マネジャーとして成果をあげることができなくなるのです。こうなると、マネジャーとしては失格の烙印を押されてしまうことになるでしょう。

「機会」に目を向ける

それでは、プレイングマネジャーを脱するにはどうしたらよいでしょうか。直接的に解決するには「メンバーにタスクを振ってマネジャーが手を出さないこと」とよく言われるのですが、私の場合、これを念じて意識するだけではなかなかうまくいきませんでした。

そこで、小さな工夫として、問題よりも機会に目を向けることを試してみたのです。これは、駆け出しマネジャーのころに問題ばかりが気になって空回りするようになって、苦肉の策で思いついたことでした。まさに小さな選択。しかし、結果的には自分自身を助けるきっかけになりました。

例えば、想定外の問題に直面したときに、自分自身に次のような問いかけをしてみました。

この問題の対処を前向きな機会としてみることはできないか。例えば、メンバーのスキルアップに活用することはできないだろうか。

そうすると、問題が起きたこと自体がそれほど悪くないように感じられて、少し気が楽になりました。更に、この問いを繰り返すことで、部下の一人ひとりのスキルや志向性を考えるようになり、人材育成の視点を持つことができるようになっていったのです。

この経験を通して、チームの成長や成果につながる「機会」を発見することがマネジャーには大切だと気づくことができました。

目を向けるべき7つの機会

先ほどは機会の例として人材育成を出してみましたが、それ以外にも目を向けるべき機会があります。ざっと洗い出してみると7つありました。

  1. チームやプロジェクト成果につながる機会。

  2. オペレーションを効率化する機会。

  3. 新しいビジネスを発掘する機会。

  4. メンバーの育成につながる機会。

  5. メンバーが望むポジションに挑戦する機会。

  6. チームの文化を醸成する機会。

  7. マネジャー自身が成長する機会。

1,2,3はチーム全体のパフォーマンスを向上させる機会、4,5はチームの一人ひとりに目を向ける機会、6は組織開発の機会ということになります。また、7は一個人としてのマネジャー、つまり自分自身に対する機会です。

ここにあげた7点は、どれもすぐに結果が出るものではないと思います。しかし、問題に直面したときだけでなく、日常的な様々な場面においてこうした機会を探してみることは有益だと感じています。

かつての私のように、問題ばかりに目を向けて肩に力が入って疲れているようでしたら、気軽に試してみてください。問いかけるだけなら数分ですみますし、それで視点が変われば儲けものですので。

まとめ

この記事では主に技術系マネジャーに向けて、プレイングマネジャーの弊害と機会に目を向けるちょっとした工夫について書きました。個人的な経験に基づくものであり、自然にできている方も多いと思うのですが、参考にしていただければ幸いです。

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