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「スキルベース組織」時代のキャリアデザイン

最近、人事界隈では「スキルベース組織」がトレンドになっています。

スキルベース組織とは、従来の職務やポジションではなく、従業員個人が持つスキル・能力などをベースに組織を構成する方法論で、米国で広がりつつあります。

先日、スキルベース関連のセミナーを聴講させていただき、大変面白かったです。会場の熱にあてられてニュースレターを書きました。このレターでは、ピープルアナリティクスでのスキル情報の活用シーンやデータハンドリングのアイデアを書いています。ご興味のある方はぜひご覧ください。


さて、このレターとは別に、一個人としてスキルベース組織時代が到来したら、どうなるのだろうと妄想していました。おそらくですが、①人材の流動性が今以上に高まり、②年功でなく実力や人的資本ベースで人も組織も評価され、③結果的に若い世代のチャンスが増えるのではないかと思っています。

これは楽観的なものの見方かもしれません。

しかし、「大学で学んだことを仕事で使うことはないよ」といわれながら就職活動をしていた私からすると、本当に良い時代になったなと思うのです。

今では当たり前のように、インターンで自分に合うかどうか確かめられたり、専門性を発揮したマッチングが行われたりしますよね。そして終身雇用は実際的な意味で崩壊し、転職は日常的なものになりました。ジョブ型が進んでいる組織では定期人事異動はありません。

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スキルベース組織が本当に浸透するかはさておき、国内労働市場は確実に「個の人的資本」で評価される時代になりつつあります。それには良い面と悪い面があると思いますが、この流れは止められないでしょう。

個人を評価する上でもっともわかりやすいのがスキルです。スキルは「何ができるのか」という問いに答えるもので、コンピテンシーとも行動規範とも異なります。

もちろん、職場とのマッチングを考える上でスキルだけで評価を行うことは無理があります。組織文化との相性や、ポテンシャルを見る必要があるからです。とはいえ、今まで曖昧だったスキルという情報が顕在化すれば、採用側は判断がしやすくなると思います。

以上の点を踏まえると、個人が今後キャリアをデザインするときには、スキルの積み上げがより重要になるのではないかと予想しています。

「株式会社A社で管理職をやっていました」ではなく、「大規模ITプロジェクトのマネジメントができます」とか「AIエンジニアリングチームの立ち上げができます」といった具体的なものが求められるのでしょう。そういう社会になれば、学生も社会人も「学ぶ」ということの意味が変わってくるはずです。

このように書くと大変に聞こえるかもしれません。しかし、自分の興味や強みをベースに経験とスキルを積み上げていけば、幾分前向きになるのではないでしょうか。

スキルベース組織が一般的になれば、ガイドラインがあるようなものなので学習しやすいというメリットもあります。キャリアデザインもスキル獲得、つまりは人的資本の最大化を目指す戦略になるでしょう。

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一方、もしスキルベースの考え方が浸透しきったとして、その上で自分がやっている仕事に必要なスキルやジョブそのものが明文化されていなかったらどう考えればよいでしょう。

その場合は、おそらく「よくわからない仕事」であるか、もしくは「将来出現する新しい仕事」の可能性もあります。

もしそれが将来出現する仕事であるなら、先行者利益を得ることができるでしょう。それに、そういう仕事は楽しいですよね。

新しい仕事の始まりはいつでもあいまいなものであり、リターンは多くないように見えるものです。学習コストが高く、あいまいで、その上しばらくは潰しが利かないかもしれません。しかし、もしそれが「すでに出現した未来」であったなら、自己投資としては大きなリターンを得ることができます。


かく言う私もネームのない仕事を何度かやってきました。

例えば、SE時代、私は今でいうソフトウェア製品のプロダクトマネジャー兼プリセールスという立場で仕事をしていました。人事総務系のプロダクトを開発しながら売り歩いていたのですが、市場の黎明期ということもあって本当に面白い経験をすることができました。

しかし、当時の会社ではSEというと受託SIプロジェクトのエンジニアを指していました。IPAや社内ノウハウを漁っても自分の仕事に活用できそうなノウハウがなく、困っていたのを覚えています。

当然プロダクトマネジメントの本もないので、マーケティングや経営戦略の本を買い漁ることになりました。そうしているうちに、「プロダクトマネジャーの教科書」が出版されて大喜びで買ってみたのですが、消費財や自動車の話で補正が大変でした。


また、SEからデータサイエンティストに転身したとき、そういった呼び名は浸透していませんでした。当時の社内職種名は「研究職」で、対外的にはデータアナリティクス技術の応用研究者でした。また、知り合いのデータサイエンティストも「データアナリティクス担当」などと呼ばれていた記憶があります。データサイエンティストがセクシーといわれる前の時代です。

当時はまだ予測的分析にも四苦八苦している状況で、モデル評価の方法や、特徴量設計も職人技でした。Linuxのコンソール上でモデルを作って実験を回すような感じで、参考書はアカデミックなものが中心でした。自然言語処理に至っては完全に暗黙知で口伝の世界でした。

その後しばらくたって、ピープルアナリティクスに傾倒していくことになりますが、当時は黎明期でデータサイエンティストが近寄らない領域でした。


このように、なぜか職種名やスキル・ノウハウが明文化されていないジョブを経験してきたわけです。

そこに飛び込んだ当時は、周囲からは「何でそんなことしてるの?」といわれたこともありますし、同僚からキャリアのROI的に損をしているよと忠告を受けたこともありました。

確かに自己学習コストや昇進の遅れを考えると、彼らのいうことには一理あります。スキルベースの世界が到来したら、ますますよくわからない人になることでしょう。

しかし、このような(そのときには)よくわからない仕事であるからこそ、その後面白い道が開けることもあるのではないでしょうか。

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いろいろと書いてきましたが、スキルを積み上げるのも、新境地にダイブするのも個人の自由です。それを前向きに言えるのは年功でない労働市場がやってきているからです。

どちらを選ぶにせよ、自分の興味関心(Will)と手に入れた武器(Can)を元に選んでいけば、よいキャリアをデザインができるのではないかと思っています。


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