アカデミア人材が企業転職したいと思ったときに読むnote(1)〜活動記録編〜

本連載の趣旨と概要

どうもこんにちは。KTYDといいます。
関東圏の某国立大学でテニュトラ助教していましたが、1月より脱アカし、プライム上場の国内大手メーカーへ転職します。
5年任期の5年目に入るところ、最終審査直前での退職となります。
脱アカ活動中、リアルだけでなくtwitterでも多くの方に支えられ応援していただきました。
本当にありがとうございました!

なぜ脱アカしたのか、という私個人の動機はアカデミアあるあるな話ですし、主題とブレますので置いておきます。転職理由なんて人それぞれ千差万別の理由があるとおもいますので触れません。退職エントリってリスクしかないので。

共有したい知見

今回、脱アカをするにあたり

  • 面接を通して感じた民間からみたアカデミア

  • 脱アカに備えてアカデミアの時から準備できること

  • ハード系に進みたいアカデミアの脱アカについて

のような知見を連載で共有します。他の方の脱アカ体験記を見ると情報系やバイオ系が多いです。ハードウェアメーカーに進めたレアな例だと思います。前者の分野の求人は本当に多いので、まずは動きましょう。多分引き合いは多いはず。

言わずもがななのですが、人事や採用側の人間ではありませんので、あくまで求職者目線です。
第一回は転職活動の過程と結果
についてまとめます。

このnoteを届けたい人

この連載の趣旨は脱アカ経験を共有することで、アカデミックと企業のハードルを低くしたいということです。
脱アカを前向きに検討しているアカデミアの人の背中を少しだけ押すのが理想です。
また脱アカを疑似体験してみたい現アカデミアの人、そして、これからアカデミアになる学生やポスドク入りたての人にも参考になればと思います。
後述しますが私はacademinもacadexitも両方経験することになりました。一応官民両方の感覚は持ち合わせてると思いますし、どっちが優れているという話をしたいわけではない、と最初に言っておきます。脱アカを推奨するわけではなく、上記のような人たちにN=1の経験談を語りたい
今更になりますが、長いです。(残約5000文字)

私という人間は

38歳男性。家庭持ち。めっちゃ働く妻。子二人。中堅国立大学助教。専門は光学です。

  1. 修士。専攻は化学。有機光化学。レーザー使用。

  2. 博士。レーザー物理。光源開発でなくて加工。

  3. 光通信系スタートアップ(3年弱)

  4. 光加工系新規事業スタートアップ(担当部長)(3年弱)

  5. 助教(4年)

職務経歴書に書いたスキルはプログラミング、Zemax、CADなどです。志望は光学のキャリアを継続したく(自分のストロングポイントでもある)光学設計でしたが、LinkedIn経由で、AI職、DS職のオファーはいくつかもらいました。にわかなので辞退しました。

acdeminとacadexitを経験した流動性人材になりました。民間企業経験者ということで、純アカデミアの人と比べたら脱アカに関して言えば有利な点だったとは思います。
ただ、脱アカを通しての感想ですが、内定先も含め、スタートアップ2社の次だったらおそらく面通しすら叶わなかった企業で選考を進めていただいたと思います。つまり私の場合は、明確にキャリアアップとしてアカデミア経験が機能しました。アカデミア人材が民間に評価されている証左だと考えます。

キャリアの話に戻ります。
前職で、プロジェクト専属かつ少人数ですが、担当部長という一応のマネジメント職についていました。当時の会社には感謝しかありません。その時の経験と業務の進め方はどの面接でも聞かれました。
やはり38歳という年齢上、マネジメント経験はかなり大事です。同年代は管理職になっている年齢でしょう。しかしこう言った役職経験がなくとも、学生の相手をするアカデミアならば、教育とマネジメントの両立を武器にするのも一つかと思います。特に教育経験は若手育成をしたい企業には刺さるかもしれません。この教育経験というものはアカデミックで求められるような講義経験を意味しません。少数を集めたセミナーや自主学習の勉強会でも良いでしょう。むしろ自主性が評価されるところすらありそう。

転職活動の記録

活動開始前
応募する企業の選定方針として、
技術を製品に活かしたい、成果を形としそのフィードバックが欲しい、それをもとに自分の技術をより高めさらに次の製品をつくる良い循環を作りたい。という観点から
○商材がメジャー、かつ自分のキャリアを拡げるものであること。半導体関係やカスタマー向け製品、AIと光学の融合など。
○キャリアの一貫性を維持できること。(光学を続けたい)
○給与が上がること
を考えました。が、給与に関してはあまり心配してなかったです。転職したら上がるものだと思ってました(実際に上がりました)。
研究や開発、製造など業務内容はこだわらないつもりでした(この方針のあいまいさと職種理解のブレが一社目の面接で見透かされることになるのですが。)
希望としては、今までのキャリアとしてスタートアップx2+アカデミックときているので、できれば大手や外資を経験したいとは思ってました。キャリアの幅が広がるなと。第二軸です。

2022年6月中旬から10月中旬にかけて活動してました。
6月
○転職経験複数ありの妻の指導のもと、職務経歴書の作成。(初版にして最終版。一貫してこのバージョンを使いました)
○履歴書の作成
○研究紹介の作成
○企業リサーチのため転職会議に登録(最大手なら使えたけどほとんど必要なかった)
○エージェント(アカリク)に登録、数社応募のち全滅。
刺さると思ってた第一Tierの企業にSPIで落とされて少し凹むもまだ序盤だ、と萎えない。
○ビズリーチ登録。全く琴線にかからず音沙汰なかった
7月-8月
アカリク継続しながらも、コーポレートサイトから直接出してみることにしました。各社フォーマットが違いますし、この段階で志望動機を書く必要があったり、かなり面倒でしたので2社でやめました。
その2社のうち、年収がえぐいことで有名な国内トップの測定機器メーカーから一次面接と筆記の連絡がきてめちゃくちゃ浮き足立ちます。
結果、一次面接通過、筆記通過、最終面接(=二次面接)+SPIのため大阪まで行くもお祈り。
危ない。期待しすぎてたらメンタル落差で死ぬところだった。期待してなくて良かった。
嘘です。めちゃくちゃ期待してましたし瀕死になりましたが、ここに刺さるなら他にも刺さるところは絶対あるはず、と奮起。今思えばマッチングも弱かったと思います。
落ちはしたものの、面接対策で自分の過去の振り返り、動機なども完璧になり自信につながりました。結果、これ以降の面接は無双することになります。今回の活動で面接落ちしたのはこの時だけです。

9月-10月
○職務経歴書を英文にして外資への応募も始める。(刺さらなかった)
○Linkedin登録。(プレミアム登録もするが必要なかった)
○doda登録。一括登録できる他のエージェントもついでに登録。
dodaが良かったです。ポジション採用とアカデミアの親和性が高く感じました。
アカリクのような、エージェントに企業を紹介してもらうスタイルだとエージェントがマッチングを探る形です。スキルや過去の業種を検討し、持ち札の中から提示します。
dodaだとリストから自分で探すことが可能で、またその結果を踏まえてエージェントが類似業種をリストから紹介もしてくれますのでマッチング率高くなりました。
アカデミア人材のスキルやキャリアは、多分野かつ広範囲になりがちですし、刺さりそうなポジションにこちらからアプローチをかけたのが良かったと分析してます。つまり私のスキルを一番理解してるのは私ということで、能動的に動けます。スキルが尖りがちなハードウェア系アカデミア人材の転職活動はポジション採用に自分から出す、というのがおすすめです。見つけて欲しいという受け身スタンスだと厳しい。

経歴が刺さりそうなところにいくつか出した結果、光学設計関係で
○AIバイオ系スタートアップの研究開発
○外資家電メーカーの開発(日本語の職務経歴書送りました)
○国内大手メーカーの研究開発
の面接まで進みました。製品や技術の開発初期段階のエンジニアポジションというのが大まかな共通項かもしれません。
全社で一次面接は通過。二次面接=最終面接だった外資と国内大手は内定。スタートアップは選考途中で他社内定獲得のため辞退とさせていただきました。
結果として国内大手に承諾のご連絡をして今に至ります。

国内大手に決めた理由は、
○面接時の評価がとても高かった。一緒に働きたいという意志をはっきり感じたし、言っていただいた。
○新技術開発というポジション、また期待されている点としても自分のスキルが最大限発揮できそうだった。
○少数部隊への配属で今までのキャリアとの親和性も高かった。
などです
将来に対するワクワク感と言うか、自分が働いている姿がかなり明瞭に想像できた点がとても良かったです。

給与は現職の660から750へ(残業代抜きボーナス込。モデルとして提示された月20時間残業で860)と、残業代考慮ではありますが、准教授相当にはなったかと思います。モデルケースの残業時間もかなりホワイトな設定です。大体この残業時間だと先輩方に事前に言われてました(月20残でおうちに返していただけるんですか・・・?)。ベース金額で応募要項の想定年収上限に近い金額でのオファーをいただきました。(これも評価されてることが伝わって嬉しかった。)

dodaと同時に登録したエージェントから別の国内大手から書類通過の連絡をいただきましたが内定後でしたので辞退。事業規模は一番大きい企業でしたが、もったいないとは思いませんでした。あまりマッチングしてない気がしますし、内定先に満足してるってことだと思います。

戦績まとめ
○書類選考
16社落ち
5社選考通過
以下面接に進んだ5社内訳
◉コーポレートサイト経由
○国内トップ測定機器メーカー
一次面接通過(オンライン)→筆記試験通過→SPI+最終面接(対面)→不合格
◉doda経由
○AIバイオ系スタートアップ
一次面接通過(オンライン)→筆記試験通過→二次面接選考前辞退
○外資家電メーカー
一次面接通過(オンライン)→最終面接(オンライン)→合格→内定辞退
○国内大手メーカーA
一次面接通過(オンライン)→適性検査(オンライン)→最終面接(対面)→合格→内定承諾
◉他エージェント(dodaと同時登録)
○国内大手メーカーB
書類通過→辞退。

最初はかなり消耗しましたが、終わってみれば引き合い強く、余裕の転職活動に部類されるのではないかと思います。メーカーでこんなに評価していただけるとは正直意外でした。

何はともあれ、大変評価をいただき、大変希望を持って働ける環境を与えてくれると確信した企業への転職を決め、この活動をクローズすることにしたのでした。

企業はアカデミアのことをちゃんとわかってる

面接まで呼んでいただいた企業、どこも素晴らしい企業で、正直どこに決まっても満足だったと思います。
書類通ってるのである意味当たり前かもしれませんが、
アカデミアに対して格別の理解があったこと
は共通点としてありました。
ポジティブな点は言うまでもなく、ネガティブなことにも理解があったことは特筆したいです。
○任期制
○競争的資金に対する過酷な申請状況
○多忙な校務
などに対して、面接で転職理由の一つとしてあげても問題ありませんでした。大事なのは企業で「転職理由の再現性がない」ことだと思います。例えば任期が問題で転職活動をしていたとしても、企業では同じ問題は生じません。(採用後に辞める理由にならないので)安心して採用できます。
ボスとウマが合わない、というような理由はダメです。同じことが起きることがあります。要は、採用コストをかけたのにまた辞めてしまうことを企業は恐れます。
ポジティブ7ネガティブ3ぐらいが理想かな?
綺麗すぎると嘘くさい。嘘でしょうし。ネガな理由がないわけない。
面接官もプロですし、取り繕うよりかは本音で話した方が良いと思います。

総括:今回の転職活動全体における感想

前述しましたが、私の場合はキャリアアップとしてアカデミア経験が機能しました。
アカデミック人材は、企画立案や情報収集力、多分野への理解など様々な点で企業に貢献できる余地が有ると思います。
様々な個性の学生を相手に教育をした経験や組織運営、予算管理、文章作成など純粋企業人材が持ちにくいスキルもあります。
一方で、メーカーへの転職の場合、製品開発経験、量産経験が圧倒的に不足していることは認めざるを得ません。光学もそうなのですが、企業で行う製品開発と大学で行う研究の乖離が大きい分野があります。そしてこの乖離は開発終盤になればなるほど大きくなると思います。そのため、無作為に応募するとスキルミスマッチによる書類落ちが多発します。開発初期ポジションなどに積極的に応募することで勝ち目が見えてきます。面接では、「うちは設計や量産のプロがいるので、不足した経験は働きながら学んでください。」「違う点で期待しています」と言ってくれるところもありました。僕の経験不足をちゃんと理解し、得手を活かしてくれる、というのはとてもありがたい話です。

企業視点で言えば、アカデミック人材の採用を考える企業は型を破り多様性を取り入れたいのだとと思います。脱アカ活動をするにあたり、本当に嬉しい誤算だったのは、そういった多様性を求めるのはスタートアップだけではなく大手にもたくさんあったことです。正直な話、スタートアップは多様性に対して柔軟で引き合いはあるだろうな、とは打算してましたので転職に関する不安はあまりなかった、と言えます。
国内大手もアカデミア人材を求めている、ひいては日本社会で官民の垣根がなくなりつつある、ということは脱アカ検討中の人にはとても良い風潮だと思います。

今後の連載は?

今回は通しての活動報告という形になりましたが、次回以降はより具体的な職務経歴書の書き方や、面接で聞かれたことなど、より各点にフォーカスした経験を書いていきたいと思います。
是非、視野広く自分の活躍できる場を探してみてください。必ずあります。
皆さんにも幸あれ。


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