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Venture CreationモデルとVenture Studioの微妙な関係と、それらの担い手

昨日までパシフィコ横浜でのBioJapan2024に参加してきた。このNoteの記事のことも色んな人に紹介したが、「あーあれ、読んでますよ」と言っていただけることもかなり増えてきた。今回は記事の中でも人気のVenture Creation関連で、もっとお手軽(?)なVenture Studioのモデルについて最近の流れを共有する。(会席料理ではなく、お手軽におにぎりを作ってみます)

BioJapan 2024

イベントとしては昨年よりさらにブースの数は確実に増えており、盛況だったと言えよう。そんな中で嬉しかったのは、かつて事業計画策定を支援したプロジェクトの進捗を見ることができたことだ。多くが既に米国でのトレーニングも経て、本格展開を始めたところもある。一方で経営者人材とのマッチングで苦労し、次への一歩に大きな負担を経験したところもあった。この差はなんだろうか?と考えると、必ずしも技術的なアドバンテージとは限らないということが言えるように思う。少なくとも科学的な新規性とは真逆の結果であることはかなりハッキリしている。いわゆる技術の「目利き」には意味がなく、チームの状況によってその成長は千差万別だということが改めて確認できたと言わざるを得ない。比較的進捗しているプロジェクトやスタートアップは明らかに経営者サイドが事業を着実に牽引しており、欧米での臨床開発への道筋を進めている。皮肉にも最近はBiotechの経営人材の不足は致命的であり、その人材創出の勝ちパターンはまだ見えていない。

Biotech経営者はどこからくる?

いま評価されている経営者と同じキャリアの人を連れてきたいと思っても、それぞれの経営者は独自のキャリアを歩んでいることがほとんどだ。米国ではPhDを取ったあとに製薬企業などで研究開発を行い、その後MBAを取ってからマネジメントのキャリアを歩んでいる人が多いように思う。経営層に限らずPhD, MBAもしくはMD, MBAは履いて捨てるほどBiotech業界にいることを鑑みると、確率論的にも100倍くらいの母数の差があると思う。となると、やはり経営人材を今から育成するのは事業創出にはかなり遠回りでありかつ、日本の環境にも適していないと思える(今から教育しても、育った頃には環境が変わっている可能性も高い)。

Biotechの事業計画のコアとなるところは何だろうか?魅力的な技術があることは当然だが、それはノーベル賞級の発見である必要はない。それよりも資金をどうやって供給し続けるのか?そのための開発計画は妥当なのか?というところになる。今でも「先輩起業家に聞く」という形でセッションが組まれることが多いが、これは少し気をつけて聞いてほしい。日本では大成功しているBiotechはまだないので、ロールモデルとして自分が参考にできる人はまだいない、ということも十分に有り得る。また、CEOを4-5年やっていると言っても、事業を成長させられないままとどまっているだけとも言える人もいる。ここまで言うとまるで希望がないようだが、「経営者がいない」と言っている我々は、一つ大きな間違いを犯している。それいは「特許を出願する前から製品が上市されるまでの経営を担える」一気通貫型のスーパーマンの話をしているということだ。ほぼすべての人が「私はそう言っていない」と否定するかもしれないが、私も含めてほぼすべてのアドバイザーが基礎技術の理解と同時にTPPの重要性を訴え、保険償還価格の話をDay1からする。でも、製品を売り込む能力と、基礎研究の成果から製品像を作れる能力が、一人の人間の中に同居できると思うほうがおかしい。ではどうすればよいか?単純にある程度開発すべき製品像が固まって、開発リスクが算定できる程度、つまり非臨床試験がある程度進んだ段階から経営者にJoinしてもらうような形式が望ましいと考える。ちなみにここで言う経営者とはCEOであり主に資金調達を担う。それまでは研究者もしくは技術に強い担当者がCSO人材としてプロジェクトを牽引することをイメージしている。

そこで、本稿では資金調達に長けた人材(場合によっては米国で事業を立ち上げるための、日本人以外の人材)がJoinする段階までプロジェクトを引っ張り上げる仕組みの一つとして、Venture Studioの関わりを考えてみる。

Venture Studioタイプの活性化

新しい仕組みや取り組みは不況の時の生まれる。2008年の金融危機では長期間市場に資金が欠乏した。この時期にはそれまでとは資金の量と流れが大きく変わったため、それを克服するために公的資金で多くのインキュベーション施設が創出された。それまでとは異なる技術へのチャレンジも行われ、CAR-Tやゲノム編集などの新しいモダリティへの投資と開発も活性化した。VCも、それまでの日和見的に創出されたスタートアップを「選別」するだけでは成功確率が担保できないので、スタートアップ創出の「仕組み化」を検討した。そこで研究者の製品開発能力や、ごく一部のスーパー経営人材に頼らない仕組みが求められた。その中でFlagship Pionneringを始めとする大規模VCがいわゆるVenture Cerationモデルを試し、成功を収めた、と見ている。

上述の記事を書いた2022年にはFlagship Pionneringだけでなく、西海岸でもVersantがBlueRock TherapeuticsやCentury Therapeuticsなどの事例を紹介した。ただ、この動きは現在確実に変わりつつある。2021年下旬からの不況の煽りを受けて米国内ではシリーズB、開発のステージではPhase II以降の50-100億円規模の資金調達環境が極端に良くない。実は2022年の段階ですでにシリーズBが少ない一方で、シリーズAへの投資が多いという傾向が見えていた。その頃に既存の非臨床開発のプラットフォームを活かして、効率的にシード段階のプロジェクトを揃える企業がでてきている。筆者はたまたまAlloy Therapeutics, Curie Bio, TCG Labs Soleil,のモデルに接することができたが、それ以外にもざっと検索しただけでも、Portal Innovations, Foundery Innovations, などが類似のモデルの事業を立ち上げている。大規模な投資は集まらないけれども小規模な投資を複数まとめて規模感を維持する、と言う戦略のように思える。

これらの企業の多くは過去にBiotechとしてM&Aや導出でアセットを創出したあとも研究開発能力を維持し、そのR&Dチームを社内CROのように活用して個別のアセットをスタートアップとして育成している。

Ventrue Creationモデルと何が違うの?

Venture Creationモデルとの主な違いはチーム構成と投資規模だ。Venture Creationでは臨床開発の上での課題から出発し、臨床開発のプロを揃えたScientific Advisory Boardを構成し、できるだけ早く臨床に入ることを目的にアセットを買い集める(育てるというよりは、組み合わせが重要)。なので大体3-4年で大手企業との大型提携を実現し、VCは一気に資金の回収ができる。一方でVenture Studioはより早期の製品のデータを創出する。筆者の経験だと、このステージでは大規模な臨床試験の企画を想定することは極めて難しく(そもそもそんな早期だとリスクが大きすぎる)、できるだけ少人数かつ比較対象群の設定の必要のない、希少疾患などを想定して薬効薬理データを創出することになる。自社の開発能力を活かすので非臨床試験のコストとリスクは一定レベルに抑えることができるし、その後の臨床開発の規模も数百億円規模は必要とならない。このモデルの有用性を評価するには時期尚早ではあるが、資金規模としてはVenture Creationモデルで高騰したシリーズAの規模よりは小さいので、より現実的なモデルとも言える。

筆者注)いま日本の公的資金による開発では、まだ初期ステージなのにもかかわらず、大企業で後期試験しか経験のない製薬企業OBによる評価を受ける。日本企業は国内でR&DをやっていてもFIHは米国なので、New Jerseyなどでアメリカ人を雇用してFIHのマネジメントをしていることが多い。後期試験の基準で考えると、当然大企業の規模を満たす品質と大規模な試験が必要とされる。逆に新しいモダリティをどうやって規制当局と一緒に開発するか?という探索的な試験の議論にはならない。当事者からは反論があるかもしれないが、少なくともスタートアップで初期の開発を担った人材がAMEDの評価委員や主要なポジションにはいない。この環境は日本から新薬を創出するうえで構造的な課題ではないだろうか(そもそも日本にはそんな人材がいない→外国人でもいいじゃん!)。

Venture Studioの類似のモデル

アカデミアに近いパターンではもう少し歴史のあるNYのBridge Medicineがあるし、大学付設としてはMelbourne大学とMonash大学が始めたBioCurateのようなモデルも有る。もちろん、公的なプログラムは国を問わず数値データは盛ってある傾向があるので、評価は気をつける必要がある。また、ここに列挙した中にも大手VCのVenture Creationの技術ソーシングの一環で資金が入っているケースも有り、単独で「これがVenture Studioモデルだ!」と言うわかりやすいモデルとなっているところばかりではない

Venture Studioのネタはどこからくる?

先日これらのVenture Studio企業のうち一社と話をすることができた。その議論の中では、意外にも大学との連携という話が出なかった。彼らは筆者の過去10年にわたるSPARKの経験や英語でのピッチ支援の活動に興味があり、その属人的なネットワークに興味を示してきた。彼らは米国の大学の産学連携の部署よりも、社内のCapitalistやScientistが既に持っている研究者ネットワークから技術情報を探索し、主に論文や学会で情報を集めて研究者に直接声をかけているらしい。おそらく、初期の段階だったとしても、ある程度Indicationの想定をVC側が既に持ってからプロジェクトの組成を行っているという点と、研究者に製品アイデアの創出を期待していない、ということが伺えた。

筆者注)筆者はSPARK at Stanfordの手先としてTarget Product Profile(TPP)の活用を強く推進してきたわけだが、結果としてその作業は「研究者が製品イメージを持って議論する下地」を作る作業であって、必ずしも「最終製品の正解を導き出す作業ではない」ということだったと改めて気付かされた。

日本ではどうやればいいか?

最後に、では日本ではどうすればいいか?だが、Venture Creationモデルと異なり、資金量としては数百億円規模を保つ必要はない。ただ、参入障壁として低いために「なぜ日本か?」というところをかなり強く強調する必要がある。世界的に注目を浴びているサイエンスについては、既に米国でも知れ渡っているので、最初から米国でスタートするべきだ。そこに日本が下手に干渉するメリットはあまりない。せめて「日本も見てください」という形で出資枠を確保することくらいだ。日本には欧米にない少し偏ったサイエンスのトレンドが存在する。独自の学者のムラ社会と、そこからハミ出した若手人材が地方や私立大学に埋もれている。ぜひそういう人材から欧米より0.5歩だけ先に行っている技術を見出したい。世界的なトレンドを追ってしまうと、資金量でもトレンドでも必ず負ける。そこから違う方向に行っているけれども、確実に勝てる方向、例えばターゲット遺伝子はわかっているけれどもデリバリーの方法がない案件。細胞治療の細胞調整はできるけれども、遺伝子改変のライセンス交渉が必要、など、「もう一つ足りないけど面白い」技術を集めたい。そうすれば、米国のVenture Studioに持ち込む可能性もあるし、協調投資をする日本のVCも市場調査で悩むこともない。


ちなみに現在筆者が絶賛頑張っているのは、「わらしべ長者作戦」。主要な学会や専門外の情報を判断するのは極めて難しい。学会に足を運ぶのは絶対必要だけれども、同時に製薬企業やVCの知人たちに「この先生は面白いけれども、ウチでは最初から伴走支援ができない。面倒見てくれない?」という相談を受けて動き始めるパターンがいくつかでてきている。単純なボランティアは難しいけれども、HVC KYOTO、MEDISOや各種大学のプログラムのお手伝いの中に組み込むことで、これらの個別支援を体系的に支援したいと考えている。

悩んでいるのは日本だけではない

筆者はStanford SPARKと連携した活動を行ってきているが、その活動の中で学ぶべき事例というのは実はStanfordから得るものはそれほど多くない。SPRAK Globalという正解的な組織を通じてヨーロッパ、台湾、オーストラリア、アフリカの友人たちとの議論を通じて得るものが多い。その中で実感するのは、日本は恵まれているということ。日本よりスタートアップが活発だという韓国は、日本ほど国内製薬企業がないことを悩んでいるし、アントレプレナーシップの盛んなイスラエルなどは、スタートアップがすぐ米国に言ってしまうことに悩んでいる。母国語で科学を語り、母国語で事業について語ることができる環境というのは実はかなり特殊であり、大きなアドバンテージなのだ。そして今の20代の学生、若手たちは英語も堪能になっている!明らかにここ数年で環境は日本が力を発揮できる方向に進んで来ている。
Let's Drive Together.
走り始めるのは、今です!


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