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「タルト・タタン」に焦がれて

「タルト・タタン」というお菓子の名前を知ったのは、高校3年生のときだった。

わたしの通っていた高校では、毎年どこかの大学の見学に行って卒業生の話を聴くという行事があり、3年生はいつも京都大学を訪れることになっていた。
とはいえ、高3にもなればみんな大体志望校は決まっており、ほとんどのクラスメイトはメインイベントである大学見学よりも、そのあとに待っている束の間の京都観光のことを考えていた。もちろん、わたしも。

そんな生徒たちの様子を見た学年主任の先生が、「京大の近くには、おいしい”タルト・タタン”のお店がある」と教えてくれた。

そのとき、「タルト・タタン」という言葉の響きがひどく印象に残った。
音からなんとなく、焦げ茶に焼き色がついたほろ苦い焼き菓子を思い浮かべる。
あとから調べてみたら、炒めたりんごを型に敷き詰めて、タルト生地をかぶせて焼いたケーキだという。りんごがメインなのは予想外だったけれど、写真で見たカラメル色のタルトは、自分のイメージと近しいものだった。


ここまで書いておいて、あれから8年経った今、わたしは未だにタルト・タタンを食べたことがない。
高3のときの京都観光は結局定番スポットに行ってしまったし(もはやどこへ行ったのかも思い出せない)、どこのケーキ屋さんにでもあるほどメジャーなケーキでもないから、なんとなく食べる機会を逃し続けてきた。

けれど、はじめて「タルト・タタン」という名前を聞いた瞬間、そのふしぎな響きに魅せられたことは今も鮮明に覚えている。
今年こそ、食べてみようか。タルト・タタン。


(654字)

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