スマホは優秀な「ゲーム機」である 〜スマホにゲームを最適化する〜
現代のゲーム開発における3大プラットフォームは「家庭用ゲーム機」「PC」「スマホ」の3つだ。ゲームを販売するならほとんどの場合、この3つのどこを目指すのかを考えることになる。
その中でもスマホは特殊なデバイスだ。ボタンのような物理的インターフェースがなく、携行性が高いぶんスペックが低い。このためゲーム開発者の意識は「スマホで作るならシンプルでお手軽なゲーム、しっかりしたゲーム体験はゲーム機かPCで」となりやすい。
本格的なゲームが少ないからと、スマホに期待していないゲーマーも多いのではないかと思う。スマホで濃いゲーム体験がなかなか得られないのは、果たしてデバイスの限界が理由だろうか?
スマートフォンはあくまで汎用デバイスだが、きちんと性質を理解すれば高度なゲーム機に化ける、というのが僕の見立てだ。特にタッチパネルの反応の良さ・精度の高さは素晴らしいゲーム体験の基礎になる。このポテンシャルをもっと多くの人に知ってほしいと考えた。
本記事では僕が今まで培ってきたゲームや試作品を元に、スマホに特化したゲーム作りについて持論を述べていく。家庭用ゲーム機などで磨かれてきた伝統的なゲーム性をスマホと融合すれば、ゲームデザインはもっと豊かになる。この記事を通して、スマホゲームへの認識が少しでも変化したら幸いだ。
タッチ操作を深く理解する
スマホの操作体系でよく批判されるのが仮想ボタンだ。家庭用ゲームの文法をそのまま持ち込むタイプのゲームに多いが、物理的な感触のないボタンは操作にズレが起きやすく、アクション性の高いゲームとは相性が悪い。
それ故かスマホのアクションゲームではシンプルな操作が好まれてきた。キャラクターはオートで走り、ジャンプするタイミングをタップで制御するだけ、といった類のものが多い。スワイプ操作でおはじきのように自機を飛ばすなど、様々なパターンが模索されてはいるが、全体的にアクションの幅は狭い。
だが上下左右に自在に動かせるタッチ操作は、実は高い柔軟性を備えている。それを確認するために試作品を用意したので、とりあえずこの動画をご覧いただきたい。
走ったりジャンプしたり宙に浮いたり、指一本のタッチ操作で様々なアクションを使い分けていることが伝わるだろうか。それらを組み合わせれば、スマホでも自由度の高いアクションゲームが楽しめることをこの試作品は示している。
移動の基本はスワイプ操作だ。上下にスワイプして前後に移動し、左右にスワイプしてカメラを回転させる。前後移動はスワイプの大きさで速さを調節できる。
ちょっとした工夫として、左右に素早く指を払うと、慣性を付けて大きくカメラを回すことができるようになっている。スマホでブラウジングするさいに、指で払ってWebページを勢いよくスクロールさせるような感じだ。こう言った仕組みにより、細かく向きを変えたり、素早く反転したりといった操作を、直感的に使い分けることが可能だ。
ジャンプ操作にも工夫が凝らしてある。短く連続でタップすることでカービィのようにポンポンと浮かび上がり、タップ回数でジャンプの高度を制御できる。
このさいタップ箇所を左右にずらすと、連動してカメラが左右に回転するようになっている。細かくジャンプしつつ向きを制御し、着地点を微調整できる訳だ。
この他にも、
・上に素早くスワイプして幅跳び(勢いよく前にジャンプ)、スワイプした長さでジャンプの勢いを調整可能
・空中で長くタッチして滑空し、スワイプで落下地点を調整
といったアクションを用意している。指一本のタッチ操作でも、多彩なアクションが可能なことをイメージしてもらえるだろうか。
タッチ操作なら繊細なコントロールや強弱の付いたアクションも実現できる。タッチパネルのポテンシャルを使い切れば、スマホのアクションゲームはもっと飛躍できるはずだ。
僕のツイッターで他にも試作品の動画を上げている。こちらは既存のスマホゲームをベースに、よりタッチ操作に最適化する手法を提案している。スマホ向けの操作方法を考える上で何かの参考になれば幸いだ。
スマホ1台で本格対戦
スマートフォンのタッチパネルはマルチタッチ方式なので、1つのデバイスに複数人で同時に触るゲームも作れる。気軽に楽しめるパーティーゲームとして、デバイス1台での対戦を売りにするゲームが出回っている。
スマホの画面は縦長なので、1つのデバイスに2人で向かい合ってタッチするとちょうどバランスがいい。このあたりに着目して僕が制作したのが、本格的な対戦型のパズルゲーム「プシュプ」だ。
プシュプでは2つのフィールドが上下にくっついており、2人のプレイヤーがそれぞれの陣地で連鎖を消して競い合う。テーブルなどにスマホを置いて、囲碁や将棋のように向かい合って遊ぶゲームだ。
デバイス1台での対戦にこだわったのは、スマートフォンを気軽なコミュニケーションツールにしてほしいからだ。いつでもどこでも持ち運びやすいスマホを活用し、オフラインで相手の顔を見ながら遊ぶのがプシュプの提案するスタイルだ。このあたりは以前の記事に詳しくまとめてあるので、ぜひご一読いただきたい。
一般的にこういった落ち物パズルは操作性の問題でスマホと相性が悪いが、プシュプでは列を直接タッチして1つずつブロックを落とすように簡略化されており、指一本で快適に遊べる。2人同時に操作しても違和感なく楽しめるはずだ。
プシュプは単純な操作で楽しめて、デバイス1台で気軽に対戦できることを売りにしている。一見すると底の浅いゲームに見えるかもしれないが、実はゲーム性を奥深くするために相当な時間を割いている。
スマートフォンのゲーム機としての可能性を示すこともプシュプの目標の1つだ。スマホゲームに熱中したことが一度もないという人にこそ、このゲームをお勧めしたい。
スマホを活かせばゲーム作りが変わる
ゲーム開発の観点で言えば、スマートフォンは良くも悪くも特殊なデバイスだ。マルチプラットフォームでゲームを展開するとスマホ版だけ劣化しがちで、操作性が悪くても「スマホだからそんなもの」と片付けられてしまう。
スマホにおけるゲーム開発は他のプラットフォームとは別物と捉えるべきだ。スマホゲームの真価はスマホに特化したアイディアからしか生まれない。
実はスマホゲーム開発の素晴らしさは、制約が多くて他のプラットフォームと同じように作れない点にある。制約があるからこそ、自然と無駄が削ぎ落とされシンプルになるのだ。
例えばプシュプの場合、タッチ操作に最適化するため操作が単純化された。家庭用ゲーム機のコントローラ操作は難しいと感じる人でも、プシュプなら問題なく触れるはずだ。
パズルゲームで重要なのはどうパズルを解くかであり、どう操作精度を高めるかではない。スマホに最適化する過程で、パズルゲームとしての純度が高まったということでもある。
スマホに特化したゲームを考えることで、ゲーム作りは再定義される。特に、家庭用ゲーム機やPCで複雑化したゲームデザインを一旦リセットし、より単純で研ぎ澄まされたものを作るという意味で、スマホのゲーム開発に学ぶことは本当に多い。
スマホがゲームをシンプルに整理してくれる。そしてタッチ操作の多様性がゲームを豊かにする。この2つの価値を知れば、スマートフォンの見え方が根本的に変わるはずだ。
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