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【高齢者虐待】社会問題が広がったときこそ改善のチャンス

■ 1つの事件が社会問題となるプロセス


テレビやラジオ、インターネット上では、常に何かしらの社会問題が取り上げられている。そのたびに有識者やコメンテイターが、有益か無益か分からない意見を述べる。それを見た視聴者が何かしらの反応や思いを巡らす。

社会問題とは、いきなり社会全体の問題としてクローズアップされるわけではない。ちゃんと火種となる事件や問題がある。

最初は特定の団体や企業、あるいは個人が引き起こした問題に対して、被害者や事情を知っている者の声が「実は〇〇だった」「実態はこうだった」という事実が次々と露見される。

本来ならばここで問題は終わるはずなのに、特定の範囲の問題をメディアはもっと大ごとにしようとする。
「この業界では✕✕が慢性的となっている」「行政に相談してもたらい回しにされる」「労働量と賃金が合わない」といった副次的な広がり方をする。当初の問題はどこへやら、話がどんどん膨れ上がっていく。

こうして次第に輪郭ができがり、世の中は社会問題として認識していく。
社会問題という位置づけになるころには、社会全体でそれなりに問題意識は広がっており、社会として弱者を守ろうとする動きやインフラを整備すべきといった声が出始める。

すると、国も動かざるを得ない。特に現代ではSNS等における不特定多数の人間の意見が総意と見なされるため、そこで何も動かないと税金ドロボーなどと叩かれかねない。
そのため、問題の波及規模によっては迅速に緊急対策本部やら予算やらが組まれて、各市町村の担当部署が忙しくなる。


■ 介護における社会問題の捉え方


介護業界も、このような社会問題の影響を受けることが少なからずある。

ずいぶん過去の話をすると、介護施設で大きな被害をもたらした火災が起きたあとは防火対策における基準が一気に跳ね上がった。スプリンクラーの設置、カーテンは防炎加工にすることなどが通知された。

振り返ってみると、現在では当たり前になっている施設基準や運営基準は、このような社会問題を通じて構築されていくのだなと、しみじみ思う。

介護における社会問題と言えば、高齢者虐待も同様である。

高齢者虐待は今に始まった社会問題ではないが、ここ最近の高齢者虐待の事件が明るみになったことを発端として、この先しばらくは様々な事業所から「実は~」「この業界では~」といったように実態が噴出すると想定される。

■ 不安を抱くより、改善のチャンスとする


このような事態に対して、私の身の回りでも「うちの事業所でも虐待行為があるのでは・・・」「そう言えば〇〇さんのやっていることって駄目なのでは・・・」とテレビを見ながら眉間にしわを寄せる職員もいる。

特に管理職や現場リーダーなどは気が気でない。もしも自事業所で高齢者虐待なんてものが発覚したら、下手したら事業停止、つまり職を失うおそれだってある。
もちろん、大切な利用者の心身に意図的にダメージを与えていたなんてことがあったら、身を引き裂かれる思いだ。ご家族などにも顔向けできない。

介護事業を営んでいる経営陣だって同様である。常日頃は利用者の支援は現場に任せることなっているため、どうしても目が届きにくいことはある。それがある日突然、虐待をしていた職員がいたとなったら・・・なんて考えると気が重いどころの話ではない。

それでも私はこのような介護における社会問題が出るたび、「今こそ改善のチャンスだ」と思うようにしている。

平時においていくら「高齢者虐待は介護者としてあるまじき行為」なんて言ったところで、現場職員は自分ごととして認識しない。
しかし、社会問題としてメディアやネット上で話題になることで、わずかでも「もしかしたらウチでも・・・」「あれは大丈夫なのかな・・・」と不安がよぎるようになる。

嫌な言い方であることを承知で言うが、社会問題として顕在化したときに湧きあがる不安に付け込める今こそ、高齢者虐待防止を啓蒙するべきだ。


■ 虐待防止のための仕掛けづくり(進行中)


――― 本記事では具体的な事件を取り上げたわけではないが、社会問題として広まる事件の被害者や当事者、あるいは介護業界に身をおく人たちの中には無礼であると思われたかもしれない。不快に思われたなら申し訳ない。

しかし、人間というものは安穏としている状況で課題を突き付けても、自分には関係ないと思ってしまうものである。私は法人内で業務改善を進めるなかで、いくらより良い職場にしようとしても現状維持で満足する職員たちに対してもどかしさを幾度も感じてきた。

「これってヤバくないか?」と思えるほどの災害に出くわしたり、実際にコロナ感染のクラスターになってみて「あのような事態はもう勘弁」と思うほどでないと話し合いにならない。

火災や虐待は起きてしまったらアウトだ。災害や感染症のように「仕方がない」ではいかない。事業所としてリカバリに年月を要すれば良いほうで、最悪の場合は多額の賠償や損害と信頼を失い、最終的に事業停止となる。世間的には1つの事例となり、時間と共に風化していく。

私は現在、運営している各事業所・介護施設に対して高齢者虐待の認識を、礼節の改善を通じて伝えていくプランを練っている。内向きになりやすい介護現場の職員に社会的な認識を啓蒙するため、外部の講師と打ち合わせをしているところだ。

すぐには認識を変えることはできないのは分かっている。しかし、社会問題として不安や心配を払拭するためにも、今の時期こそが改善のときだと思って仕掛けをしていきたいと思っている次第だ。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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