【読書メモ】みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史
20年もののシステム開発プロジェクトはそうないので、色々な知見が詰まっていました。
ついに日本のサグラダファミリアが完成しました。それ以前のプロジェクトも含めて約20年もの間、継続的に取材を続けてきた日経なんとかによる、みずほ銀行総集編とも言える内容です。
なかなか読んでて辛いものもありましたが、多くの反省点や改善点が見えます。
ざっくりまとめ
・銀行業界では異例の4000億超え350000人月の大規模プロジェクト
・過去の失敗を活かすことができない組織体系と文化
・運用面においても適切な手順などが整っておらず、異常事態の検知もその後の対応もすべてが後手に回ってしまった
・戦略なき統合と組織間の無駄な対立
・そもそも経営層がITに疎かったため的確な判断や指示ができていなかった
感想・メモ
350000人月
巨大さが凄い。人月というのは人1人が1ヶ月(営業日換算で約20日)働くことを示しています。例えば10人月で終わらせられる仕事は、10人の人が1ヶ月働くことで完了させることができます。ここで20人いた場合は半月、逆に5人しかいなかった場合は2ヶ月かかることになります。
つまり350000人月というのは、例えば10人でやった場合は35000月=2917年、100人でやっても292年かかる仕事ということになります。
350,000人月/10人=35,000月=2,917年
350,000人月/100人=3,500月=292年
サクラダファミリアの着工は1882年なので約140年かかっているということを考えると規模が大きすぎてもはやわけがわかりません(サクラダファミリアにどれくらいの人が関わっているのはよくわかりませんでした)。新宿駅や横浜駅がかわいく思える数字です。
実際のMINORI開発の期間は2011年6月から2019年7月ということで8年と1ヶ月=97ヶ月なので毎月3609人、毎年43308人の方々が関わったということになるようです(ピーク時には8000人ほどがプロジェクトに参画していたとのこと)。この規模のシステム開発は世界的に見ても稀に見る巨大プロジェクトだと思われます。
ちなみにちょっと気になって調べてみたら、新国立競技場は以下の記事のよると2016年12月11着工で2019年11月30日竣工なのでほぼ3年です。
ピーク時には2800人/日ほどの方々が関わっていたとのことで、作業員の延べ人数は150万人くらいとのことです。
1,500,000人/36ヶ月=41,667人/月
週休1日として営業日換算25日にすると1日約1667人
こっちも相当ヤバいプロジェクトだった…
東日本大震災後の義援金振り込み障害
こちらも記憶に新しい義援金の振り込みデータが処理機能の限界を超えてしまい、ATMが止まってしまった事例。
テレビ局などが番組を通じて呼びかけた義延金の振り込み口座に1日に処理できる件数の上限値を超えてしまったが、これの原因自体は口座の設定が間違っていたことが起因していた。実はこの上限値がシステム担当者の間では知られていなかったということに驚いた。
障害が起きたときの運用面や体制など日頃から準備しておく大切さを改めて感じる。ただみずほの場合は組織が分断されていたり、ロストテクノロジーがあったりしてなかなか難しかったのも事実だと思う。
この時のリアルタイムな障害対応のやりとりが読めるので、ここはとても興味深いところだった。
失敗の本質で学んだ「情報」の大切さを実感する内容
1999年9月13日に日経コンピュータが掲載した記事の中で期待されていたことが全く実現されなかったという下りが物語っているが、適切な情報共有と発信がなかったのは致命的だった。外資系コンサルタントの「今回は始めてのケース。戦略がない」という言葉も重い。
自分自身が障害対応をすることもあるので、対象の業界は違えどこの反省点の多いみずほ銀行プロジェクトから学べることはたくさんあると感じた。