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布おもちゃを作ること。そしてその先に。

 私は年に4回、母子生活支援施設で布おもちゃを教えている。ここで出会った方で、とても印象に残っているお母さんがいる。当時22歳のあかねちゃん(仮名)。裁縫が苦手なのにお友達に誘われて参加してくれた。おしゃべりがとても軽快で、私がよく「あかねちゃんは頭がいいなあ」って感心すると、一回ぼそっと「ここにいるやから、あかんやん」って小さい声で言った。
 はじめは手芸よりもおしゃべりを楽しんでいる感じだったけど、あかねちゃんは回を重ねるごとに、お子さんのために作る縫い物を楽しむようになってきた。彼女の作品は独創的でアイディアに満ちていたし、お子さんもとても喜んでくれたから、苦手意識が無くなってきたようだった。
 冬の教室の時だったと思う。あかねちゃんが「せんせー、相談があるんだけど」と軽い感じで話し始めた。「幼稚園でな、子どものエプロンを作ってこなあかんねんて。でもそんなん、どう考えてもあたしには無理やんなあ?」だけど私には確信があった。今までのあかねちゃんを見てたらわかる。「無理じゃないと思う。教えてあげるから挑戦してみる?」
 私は自分が家庭科の成績が悪かったからわかるんだけど、ここで無理強いをしたらせっかく楽しんで作ってたおもちゃ作りまでも嫌になる。だから「だめだったら買えばいいんだし、絶対無理しちゃダメ」ってことも伝えておきながら、作り方を教えた。
 まず施設にある子ども用のエプロンを借りる。そしてそれを大きな紙に書きうつして型紙を作る。布を買ってきて、型紙のまわりをなぞって布に書き込む。その線より2㎝大きめに切る。型紙をなぞって書いた出来上がり線に沿って布を内側に折る。その周りを縫う。縫うのが難しかったら布をとめることができるボンドでくっつける。首にかけるヒモと、腰で留めるヒモをお子さんの首の長さにあわせて布を切って、三つ折りにして縫うかボンド。それを首と腰に縫い付けるかボンド。
 あかねちゃんは何度も聞き返しながらメモをしていた。彼女が作るかどうか、実は私は半々かなあと思っていた。作る力はあるけれど、彼女にその自信があるかどうかがわからなかった。
 そして年を越して、職員さんからあかねちゃんがエプロンを完成させたというメールが届いた。まず、お子さんと一緒にお店で布地を選んだ。布はその時最新の仮面ライダーのキャラクターの絵柄。まだクラスの誰も持っていない最新の仮面ライダーのエプロン!それを初めて着たのは、参観の親子調理の日。「ママが作ってくれたんだって、いろんなお友達に自慢してさあ、みんなもすごく羨ましがってた!」と、とても嬉しそうに職員の人に話してたという内容だった。
 あかねちゃんは、そのあと3回手芸教室に参加して、とても可愛い作品を作った。そして彼女は退所して、今は新しい場所で新しい生活を送っている。

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