北九州でカツアゲされたハナシ
久しぶりに、入社同期に会い、不思議な出来事を思い出したので書いておこうと思う。それは、1996年の北九州市。暴力団の抗争が激しくなっていたころ。
入社当時は、この同期と二人で会社から独身寮に帰ることも多かった。ある日、帰宅途中の繁華街で「カツアゲ」された。二人組の男が立ちはだかり「金くれや」と。なかなかわかりやすい展開だ。
同期はするっと逃げ去り、一人で相手をした。北九州に負けない環境で育ったので、こういった状況の耐性は高かった。淡々と「新入社員で金なんかないね。こっちがおごって欲しいくらいだ」と返す。
すると意表を突かれたようで「俺も本当はこんなことする人間じゃないんだけど、今日は特別なんだ・・・」と言う。「その特別ってなんだよ」なんて会話をしているうちに、立ち話もなんだから「とりあえず、一緒に飲むか!」という展開に。
遠くから心配そうに眺めていた同期を呼び戻し、4人でカウンターバーへ。その男はHと名乗り、語りだした。
「俺はJ社の社員なんだけど、天下りをしてきた役員が不祥事を起こし、雑誌で叩かれた。俺たち現場はプライドを持って仕事しているのに、組織全体が悪いような書き方だったから、ムカついてムカついて・・・」
何という、とばっちり・・・
「プライド持って仕事しているのは偉いけれど、関係ない人に当たっちゃダメでしょ」
「わかってる、申し訳なかった。今、猛烈に恥ずかしい思いをしてるよ。でも、本当にひどい書き方なんだよ、みてくれ!」
と、Hは雑誌を取り出した。
それは、うちの会社が発行している雑誌だった・・・。「関係ない人」じゃなかった!
「面倒なことになったな」と一瞬思ったけれど、しょうがない。
「それさ、うちの会社が発行してる雑誌だ」
カラんでくるかな、と思ったら・・・
「だったらお願いだ。現場はちゃんと仕事してるって次の号で書いてくれ」
と泣きそうな顔で頼んできた。
「いや、俺は記者じゃなくて営業だし、その雑誌の編集部は東京で、知り合いもいないから頼みようもない。まだ新入社員だし・・・」
その後は「頼む書いてくれ!」「だから記者じゃないって言ってるでしょ!」を繰り返しながら、酔っ払っていき、最後は、連名でボトルをキープして解散した。
その後もその店には何度か行ったけれど、すれ違いばかりで会うことはなかった。今のように携帯電話やSNSが普及していたら違っていたはず。
でも、この話はここで終わらない・・・
その二年後、私は福岡市の産婦人科医院にいた。
結婚と同時に、北九州市から福岡市に転居し、その日は、妊娠して入院した妻と面会していた。
ふと隣のベッドをみるとHという名札があった。カツアゲ男と同じ苗字だ。「ここは福岡だし、まさかな・・・」と思ったとき、病室に一人の男が入ってきた。
一瞬、目を疑ったが、Hだった!!
お互いの奥さんが驚くほど盛り上がる。聞くと、Hも最近、福岡市に転勤してきたのだという。同じタイミングで奥さんが妊娠して、ベッドが隣になるなんて!
奥さんの前なので、もちろん「もうカツアゲするなよ!」なんてことは言わない。古い知り合いを装って近況報告をしあい、お互いの安産を祈って、別れた。
それ以降、Hとは会うことがなく、22年が過ぎた。
カツアゲされたときに逃げた同期は、今や同僚を見捨てない立派な管理職だ。素晴らしい。
生きている間に、またHと再会することはあるかな。「ない!」と断言できないのが、この世の中の面白いところ。これだけSNSが普及しているし。
再会したら、なんて声かけようかな。
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