見出し画像

『自己紹介』商店街シリーズ第3話

オレンジのカーディガンが似合う彼女はいつも同じ電車にいて、同じ駅で降りる。
時々目が合う。お互いにスッと目線をそらせるけど、彼女も僕の存在に気付いていると感じていた。
ある日、電車を降りて改札に向かう途中、肩にリュックを引っ掛けた男が駆け足で階段を登ってきた。
危ないなぁと思ってすれ違った直後、リュックが彼女にぶつかった。
男と彼女はあっと振り返って見合ったが、よほど急いでいたのかリュックの男はそのまま階段を駆け上がり、僕たちが乗っていた電車に駆け込んだ。閉まりかかっていた扉は男を覆い隠した。
階段に散らばった彼女の持ち物を、多くの人が器用に避けて行き交う。
僕は手の届く限り拾い集め、焦る彼女に手渡した。
「ありがとう」僕に目を合わせて彼女が「ええと」と時間をくれた。今だ!
「僕は、タカヤマって言います。高い低いの高いに、山と川の山で」
「高山さん」僕を認識した彼女が、僕を呼んでくれた。

終(390文字)

------

前:『看板』商店街シリーズ第2話

次:『オレンジのカーディガン』商店街シリーズ第4話


スキやシェア、コメントはとても励みになります。ありがとうございます。いただいたサポートは取材や書籍等に使用します。これからも様々な体験を通して知見を広めます。