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セキュリティクリアランス法案の狙いとポイント


はじめに

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240510/k10014445351000.html

セキュリティクリアランス」という言葉は、最近ニュースを見ているとよく耳にするのではないだろうか。しかしながら、その意味を理解している人は、筆者の知る限りだとあまり多くないように見受けられる。
実は、セキュリティクリアランスは、海外共同案件への参加を目指す企業にとって重要であり、特に技術協力といった分野では避けて通ることのできないものとなる。
今回の記事では、ここに焦点を当て、セキュリティクリアランスのとはそもそも何なのか、今話題となっているセキュリティクリアランス法案のポイントはどこにあるのかを簡潔に解説していく。


そもそもセキュリティクリアランスとは

セキュリティ・クリアランス制度とは、政府が保有する安全保障上重要な情報として指定された情報にアクセスする必要がある者に対して政府による調査を実施し、当該者の信頼性を確認した上でアクセスを認める制度である(参考:経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議 最終取りまとめ)。一般的にセキュリティクリアランスは、①政府が保有する安全保障上重要な情報の指定、②該当情報にアクセスする必要がある人の信頼性確認、③情報漏洩が発生した際の厳罰を含むルール、の3つの機能がセットになっている。

出典:経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議 第10回 参考資料

そもそもなぜ情報の公開に制限をかける必要があるのか。その主な目的としては、国家の安全保障を左右するような情報の流出や不正利用の防止が挙げられる。例えば、原子力発電所をはじめとした基幹インフラの設計図や運用マニュアルが流出した場合、そうしたインフラに対するテロのリスクが高まってしまったり、有事の際には格好の標的となってしまう。こうした事態を防ぐために、政府は信頼性を確認した人にのみ、特定の情報へのアクセスを許可するのだ。これが、セキュリティクリアランスという制度の正体である。

今回のセキュリティクリアランス法案

報道各社が「セキュリティクリアランス」という言葉を頻繁に使うようになったのはここ数ヶ月の話なので、一般にこの言葉が浸透したのもごく最近であろうと思われる。それが原因かはわからないが、「今までの日本にはセキュリティクリアランス制度はなかった」という誤解が一部広まっている。
ここで、注意したいのは、日本にはすでにセキュリティクリアランス制度自体は存在しているということである。具体的な説明はこちらのシンクタンクの記事でなされているため、詳細は譲るが、日本政府はかねてより特定秘密保護法によって秘密の指定や取扱人の信頼性調査、漏洩が発覚した場合の罰則を定めてきた。
それではなぜ改めて「セキュリティクリアランス法制」を制定する必要があるのか。それは、経済・技術分野にまで秘密保護の対象を拡大していく必要性が主に産業界から指摘され始めたためである(参考:経団連 経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する提言)。
従来の特定秘密保護法は、防衛、外交、特定有害活動防止、テロリズム防止の4分野の情報を秘密保護の対象としてきた。しかしながら、ここに経済・技術の情報は明記されておらず、対象となっているとしても、上記4分野に係るものに限られているのが現状である。
特に、国際共同研究開発や他国の政府調達に参加する際には、外国の政府や企業からセキュリティクリアランスの取得が求められることがあるが、取り扱う情報が先述のような4分野(防衛、外交、特定有害活動防止、テロリズム防止)にカテゴライズされない情報である場合には、日本の現行のセキュリティクリアランス制度の対象とならず、日本企業は当該プロジェクトに参加できないこととなる。こういった事情から、現行のセキュリティクリアランス制度は、企業のグローバル経済活動を妨げるものであると指摘されたのである。
今回の「セキュリティクリアランス法案」は、そうした経済安全保障上の要請に答える形で法制化が進められているのである。

おわりに

セキュリティクリアランス制度は時に「知る権利」を侵害するものとして批判を受けるものである。
もちろん、国民が知ることのできる政府情報に制限をかけてしまう側面があることも否定できない。
しかしながら、今回解説したように、現在法制化が進められている「セキュリティクリアランス法案」は、日本企業の今後の経済活動の可能性を広げるものであるとも解釈できる。
海外との接点が多い企業や海外進出を狙う企業は、今のうちからこのセキュリティクリアランスに対する理解をより深めておく必要があるだろう。



参考資料

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