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漕いでもヤセない自転車ダイエット

ストライダーの普及の影響で、現代の子どもたちの自転車デビューは小学校入学前だそうだが、私は小3の時だった。

当時としても遅い方だった原因として、自宅前の道路がまだ舗装されていなかったのが大きかった。実際、補助車付きでも転ぶことがあった。
 
でも、ほとんどの同級生が補助車なしで乗れるようになってくると、さすがに焦りを覚え、危険を冒して練習を始めた。
 
愛犬が、ブロック塀の穴から鼻をつきだして不安げに見守る中、何度も砂利道で転倒したり、ドブにダイブしてもがいたりの悪戦苦闘の末、やっと乗れるようになった。

自転車は子どもの行動範囲を大きく拡大する。
晴れて自転車ライダーに仲間入りすると、連れ立って数キロ先の農業用水までザリガニ獲りに行ったり、野球をしに隣の市の広い公園に出かけたりしたものだ。
 
中学・高校と、通学では最寄り駅まで片道3キロ自転車をこいだ。この時代は今ほどダイエットが話題になることはなかった。そもそも成長期の男子なら、毎日のように自転車通学をした割には体重が増える一方でも、そう違和感はないだろう。記録では高3で68キロ。背丈が177センチあったので卒業写真に肥満感はまったく漂っていない。

社会に出て10年ほどたって大阪で働き始めると、「自転車通勤」をするようになった。平坦な大阪市内は自転車に向いている。今まで住んできた政令指定都市の中では一番だ。
 
最大の目的はダイエット。ストレスと乱れた日常生活で、一時期90キロ近くにまで増えてしまった体重は、懸命な減量で60キロ台まで落としたが、この時はリバウンドして70キロほどになっていた。

天王寺の南東にあった自宅から、松虫通から四つ橋筋を経由し、なにわ筋南端から北上して土佐堀までの片道8キロ、45分。
 
この頃はなにわ筋の延伸工事中で、今からすればかなり複雑な経路。でもこのおかげで道中にあった、真夜中でも店内外が煌々とした大阪では有名なスーパーが、独り身に有難い食材の調達先となった。

半年も続ければ効果はあるだろうと思ったものの、10ヶ月で4キロ増。
ウソではないのかと思えるような結果だった。
 
本来は、地下鉄で通勤するところを自転車で通勤したのだから、大目にカロリーを消費したはず。だったら、少なくともその分は体重が減らないとおかしい。なのに、なぜだ、なぜなんだ?
 
結論から言えば、ダイエットに関しては食生活の影響の方がはるかに大きい。
確かにダイエット全体として運動は必要だが、元々脂肪をつきにくくするためのものなので、肥満防止に効いても減量にはさほど効いてこない。
 
理屈の上では消費カロリーが摂取カロリーを上回ればやせる。このために、よく「消費カロリーを増やすために運動を」といわれることが多いが、実際にはそう単純な話ではない。
 
当時の体重で、自転車で16キロを90分こいで消費するカロリーは約400kcal。これは、某栄養補助食品4本分と同程度。これだけ走っても、平地を普通に乗っているぐらいでは、自転車は意外にカロリーを消費しないものなのだ。
 
だから、せっかく身体を動かしているのに、ご褒美気分で何気なくスナック菓子でも口にしようものなら、たちまちカロリー収支はチャラどころかオーバーになってしまいかねない。
 
元来、人間は身近に食べ物があれば、無意識のうちに食べてしまいがち。日本屈指の大都市・大阪にはコンビニはここかしこにあり、いつでもどこでも手軽に食べられる環境が整っている。
 
「自転車通勤でも体重4キロ増」のカラクリには、こうした自覚しにくい食事の積み重ねもあったと思う。
 
この一方で、地下鉄通勤は普通、車内で間食などしないから、カロリー消費は少ないが余計なカロリー摂取もない。もしかしたら、自転車通勤をしていなければやせていた可能性だってあるのだ。
 
さらに、最近まで知る由もなかったが、人間が運動で消費できるカロリーには上限があることがわかっている。驚くべきことに、一日十数キロ歩く運動量豊富なアフリカの狩猟採集民と、一日中デスクワークの中年男性のカロリー消費量はほとんど同じ。

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運動量を増やしても、ある一定レベルに達してしまった消費カロリーはそれ以上増えない。結果的に、過剰な運動はその分体内活動の低下をもたらしてしまう。
 
だから、ダイエットをするなら食生活からのアプローチに比重をおく方が効果的だ。そう、ダイエットの基本は食事なのだ。
 
今思い返すと、帰宅途中ついついルートを外れ、ミナミや新世界に立ち寄って飲み食いすることは一度や二度ではなかった。つまり、事実として誘惑はコンビニだけではなかったのだ。その意味では、4キロ増で済んだのであれば、むしろ上出来といえなくはないか?
 
地形的に、確かに大阪は自転車通勤がしやすい。でも、食の誘惑に負けないタフなメンタルがないと自転車ダイエットは難しい。

(終)



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