正しい方がいいですか・・ 幸せな方がいいですか・・
毎日つかう言葉
毎日どんな言葉をつかって生活していますか?
家庭での話し方、職場、友人、サークルなどなど、知らず知らずそこにある人間関係に合わせて言葉を選んでいるのではないでしょうか。
前回「敬語はとっても便利な言葉で、つかうだけで得しますよ」・・というコラムを書きました。
なぜ便利で得するのか、それは敬語できちんと話すだけで、
1.相互尊敬を表すことができる
2.上下関係を示し礼儀ある姿勢を示せる
3.相手の心証がよくなり会話の潤滑油になる
4.自分の品格や社会人としてのレベルを表わすことができる
といった効用があるからです。
会ってすぐにはお互いどんな人間かわかりませんから、まずは礼を尽くして「いい人間関係をつくりたいと思っています」という意思を相手に伝えるのです。そうやってお付き合いが始まっていくのですね。
親しみとなれなれしさは違う
医療機関ではアットホームな雰囲気がいいと言われていて、時々ご高齢の方に若い医療従事者の方が、
「ここに座ってくれる? 少しの間動いたらだめだからね~」
「オシッコしとく? 今出る?」
「薬ここに入れとくからね。わかった?」
といった「幼児言葉」で話しかける方がいます。
もし自分が高齢になって、若い人からこういった話し方をされたらどうでしょうか・・・
親切にしてくれるのは嬉しいけど、子ども扱いは嫌だな・・と感じるのではないでしょうか。
私も随分前ですが、保険証を忘れて受診した時、若くて笑顔のステキな受付の方に、
「保険証忘れちゃったんですね。おうちにはあるんですね。診察はできるんで大丈夫ですよ~」
と言われました。感じはとてもよかったのに、なんだか子ども扱いされて、
「私はあなたより年上です。それに最初から友達じゃないよ」と思ってしまいました。
まずは敬意を表し、
「保険証をお忘れになったということですね。ご自宅にはお持ちなんですね。今日は自費診療となりますがよろしいでしょうか」といった話し方で言ってほしいものです。
その内、距離が近づいてきたら、「保険証忘れたんですね。お忙しかったんですね。今日は全額お支払いとなってしまいますけど、どうしましょうか」といった感じになっていくでしょう。
ただ調子に乗ってくだけすぎてはいけません。親しみとなれなれしさは違う・・ということを忘れないように。
正しいことと感じが良いこと
逆に、「敬語はとっても上手なのに、ちっとも感じが良くない」・・っていうこと、ないですか?
こんな時、話している方は「敬語で話していればそれで大丈夫」といったスキル重視型になって、なぜ敬語で話すのかという大事なことが二の次になっているのかもしれません。
病院での検査時、 「検査しますのでこちらにおかけください。申し訳ございませんが少しの間動かないようにお願いします」
という言い方はすごく正しい敬語で、途中“申し訳ございませんが”というクッション言葉までついていますが、もし相手を思いやる気持ちがなければ、とても事務的で無機質に感じてしまうでしょう。
思いやる気持ちは、話す人の表情や声のトーン、ちゃんと相手を見て話しているかといったいろんな要因(言葉以外のコミュニケーションスキルで”ノンバーバルコミュニケーションスキル”と言われます)が合わさって表現されます。
敬語は、人間関係を良好にするためにつかうのですから、何よりもこの「相手のことを思いやる気持ち」がなければ、“上手すぎて冷たい”になってしまいます。
「テキパキと仕事をこなしていくベテランスタッフよりも、必死になってくれる新人スタッフの方が感じがいい」という話をよく聞きます。
新人さんは、まだスキルの面で十分な知識がないため、その分心で一生懸命カバーしようとしてくれているのだと感じるからです。
少々たどたどしい接客態度であっても、一生懸命対応しようとするその誠意が、「ちょっとくらい変な敬語でも全然気にならない」となるのです。
ちょっとした思いやりが言葉になると・・
先ほどの検査時の話し方ですが、 「こちらにおかけ下さい。少しの間じっとしていてほしいんですけど大丈夫ですか。できるだけ早く終わるようにがんばりますね。きつい時は休憩しますから教えてください。今きつくないですか。では始めますね。よろしくお願いします」
こんな風に接してもらえたら、なんだか嬉しくなって、イヤな検査も我慢しようとなりますね。私の歳だとなんだか孫が一生懸命に心配してくれているように感じるでしょう。
相手のことを自分の家族や大切な人だと思える、そんな気持ちが言葉になるとこんなにも温かくなるのです。
ぜひ「相手のことを大切な人だと思う」ことを意識してみて下さい。言葉も変わってくるのではないかと思います。
ことばで誰かを幸せにすることができる
正しい敬語が話せるに越したことはありませんが、そこに気持ちがこもっていることが何よりも大切です。相手のことを大事に思う気持ちが「ことば」を通して形になっていくのです。
ずいぶん昔ですが、あるコンサルタントの講師の方が、 「正しい方がいいですか? 幸せな方がいいですか?」と言われました。
ハッとしました。
人は幸せになるために生まれてきた・・
生きていると毎日気になること、思いどおりにならないことが一杯。 正しいことは大事かもしれないけれど、それで不幸だったら、何のための正しさなのか・・
そんな中で、何気ないことばが幸せをくれることがあります。 ちょっとだけ気持ちをこめるだけで、相手が幸せを感じることができる。 とってもいいですね。
日本語がだんだん変わっていると言われる中で、若い皆さんには、話をするとき、何よりも心をこめることを忘れず、相手がちょっぴり幸せな気分になるような言葉を選び、そして日本人の美しい言葉を大切にしていただけたらと思います。
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