ピラミッド型組織の性能限界
企業は個々の社員の担当業務が縦横に結びついて構成される《系=システム》です。この視点から、伝統的なピラミッド型組織が「部分最適」の温床であることを示しました。(『拙稿『「全体最適」を実現しやすい組織』2022年3月21日18:04)この投稿では、臨床心理学者ハリー・レビンソン『Management by Whose Objective』の視点を借りて、ピラミッド型組織には、その構造からくる性能限界があることを示します。
1. 『Management by Whose Objectives?』について
ハリー・レビンソンの論文『Management by Whose Objectives?』は、『ハーバードビジネスレビュー』(米国版)の1970年7月号で発表されたものです。それから50年以上経ってもその内容は古びることがなく、過去半世紀に『ハーバードビジネスレビュー』(米国版)誌上で動機づけに関して発表された名論文の一つとして、『新版 動機づける力』(日本版2009年第1刷、2020年初第9刷)に所収されています。
ところが、この論文には、論文の本旨にそぐわない『MBO失敗の本質』という邦題がつけられています。これでは、MBO(Management by Objectives =目標管理)批判の論文ととられかねません。この論文の本旨はピラミッド型組織の限界を指摘することであって、MBOを批判することではないと、私は考えます。
MBOは「組織全体の目標から各構成員がそれぞれの職務について具体的な個別目標を設定し、自己統制によって目標達成に向け努力し、結果を自己評価する(コトバンク)」という組織運営の仕方です。
MBOはピラミッド型組織で構成員の目標が上位者からから下位者へと一方的に与えられることを批判し、部下が自主性・自発性を発揮できる目標の設定と実行を提唱したものです。つまり、上意下達式の設計思想で組み立てられたピラミッド型組織というハードを、構成員の自主性・主体性を活かせるソフト(OS)で動かす試みです。
しかし、ハードの性能限界をOSで克服しきれるものではありません。MBOを適切に運用したとしても、ピラミッド型組織の構造からくる性能の限界を突破することは極めて困難である。そのことを、ハリー・レビンソンは指摘したのです。
第2章では、ハリー・レビンソンが指摘したピラミッド型組織の本質的な限界を、彼自身の言葉によって見ていきます。
2.ピラミッド型組織の構造からくる性能限界
ピラミッド型組織は、下のイメージ図に示すように、「職務記述書」で規定された職務をレンガのように積み上げて作り上げられています。
厳密に設計されたレンガの積み上げであるという構造が原因で、ピラミッド型組織は、次の3つの性能限界が現れます。
第一に、静止的(スタティック)なもので、動的に(ダイナミックに)自己変革することが困難です。
第二に、状況に応じて即興で業務遂行することができません。
第三に、社員の仕事を狭く限定し過ぎることになりがちです。
ほとんどの日本企業もピラミッド型組織を採用してきました。しかし、上述の3つの性能限界は、あまり問題視されてきませんでした。それは、日本企業が主として「メンバーシップ」型の雇用形態をとってきたからです。
「メンバーシップ型」は社員がメンバーとしての身分を保証される代わりに担当職務についてはマネジメント側の自由裁量に任せる雇用形態です。ですから、個々の職務は変形できない硬いレンガ製ブロックではなく、その時々のマネジメントの都合で変形させやすい粘土製ブロックです。
現在、日本企業の間では「ジョブ型」導入の機運の高まりが見られます。「ジョブ型」の原則は、個々の職務が「職務記述書」で厳密に設計されたレンガブロックであることです。ですから、日本企業においては、上で取り上げた3つの性能限界が、これから顕在化してくる可能性があります。
3.ピラミッド型組織の性能を超える
「ピラミッド型組織の限界を超える」と書きましたが、性能の限界が構造自体から来ている以上、ピラミッド型組織をこれ以上、どういじっても性能の限界は突破できません。
MBOの適切な運用で構成員が自主的・主体的に自らの目標を設定できる余地を持たせることが、可能な最大限の性能向上です。
企業を取り巻く環境は、以前に増してスピーディにかつ大きく変化するようになってきています。そして、この傾向は今後強まりこそすれ、弱まることはないでしょう。
企業がこうした環境変化と切り結んで自己変革し続けるためには、組織の作り方を、構成員同士の関係が硬直化しやすいピラミッド型から、構成員同士が相互に影響し合い柔軟に関係を変化させていけるネットワーク型に転換させる必要があると私は考えています。具体的なイメージを下の図に示します。
ネットワーク型の組織では、一般社員はお互いに働きかけあい即興的に役割を変えながら業務を進めていきます。中間管理職は、ピラミッド型組織の場合と同様に一般社員を指導・支援すると同時に、一般社員相互の関係の調整も行います。
そして、中間管理職は、中間管理職の間でお互いに働きかけ合い、その相互関係を上級管理職が調整していく。
このように指導・支援、相互作用、調整の3つを重層的に組み合わせ、この組み合わせに即興性を加味することで変化し続ける環境とスピーディに切り結びながら自己変革していくのがネットワーク型の組織なのです。
組織のマネジメントにおける「即興」と「相互作用」の重要性については、GAVIさんが示唆に富んだ記事を投稿していらっしゃいます。拙稿と併せて、ご一読ください。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
『ピラミッド型組織の性能限界』おわり
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