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「なしで済ます」も、あり

夢を実現するのに必要な条件をすべて洗い出し、一つひとつクリアしていくのが夢を実現する「王道」ですが、必要と思われる条件を「なしで済ます」アプローチもあるのではないか?――というのが、今回のハナシです。なお、ここでは企業の戦略目標の達成ではなく、個人の「夢」の実現に絞ってお話しします。

1.「逆算思考」の落とし穴

 
 ほとんどの自己啓発本は、夢を実現する過程を次のように説明していると思います。

  (1)漠然とした夢を「具体的にどういう姿になっていたい」・
    「具体的に……が出来るようになっていたい」という目標として
    明確にする。

  (2)目標の実現に必要な条件をすべて洗い出す。

  (3)条件を、比較的満足しやすいものから順にクリアしていく。

 確かに、これが「夢」を実現する「王道」であり、だからこそ、ほとんどの書籍がこの進め方を教えているのです。

 しかし、実は、この「王道」には、ひとつの「落とし穴」があります。それは、

【夢を実現する「王道」の落とし穴】
条件を綿密に洗い出せば出すほど、夢の実現が困難に思え挫けてしまう


 なぜ、こういうことになるか? 理由は簡単で、やらなければならないことが増えるからです。
 やらなければならないことが増えると挫けてしまうのは、次の2つの理由によります。

(1)「夢」は出来るだけ早く実現したいというのが私たちの本音だと
   思うのです。条件がたくさんあると、「夢」を実現できる日が
   遠くに見えてしまう

(2)世間の常識の影響を受けやすく、その結果、とうてい満足できそう
  にない条件を設定してしまう

(1)は、直感的に分かりやすいと思います。人間は、基本的には楽をした
い生き物ですから、しなければならないことが多いと面倒くさくなってしまいます。

(2)は、少し補足説明が必要だと思います。これから達成したい目標は、自分にとって未体験ゾーンの出来事です。ですから、その達成に必要な条件も、体験からでなく外から得た知識に頼って洗い出すしかありません。

 すると、そこに、「こういうことが出来るためには、こういう条件が揃っている必要がある」という世間の常識が入り込みやすくなります。
 ところで、常識というのは最大公約数ですから、常識以上に条件を満足することが必要な場合もあれば、常識以下の条件を満足するだけで目標を達成できてしまう場合もあるのです。

 次に、常識以下の条件を満足するだけで目標を達成し、しかも大成功を収めた、古典的といってもよい事例を紹介します。


2.⦅常識⦆以下の条件で大成功した映画『ロッキー』


  シルベスター・スタローンの出世作『ロッキー』が、超低予算でミニマムのスタッフとエキストラで作られながら大ヒットしたことは、映画ファンの間ではよく知られた話で、ネットにも色々な動画や記事が投稿されています。

 私が今日みつけただけでも、これだけありました。

〈参考資料A〉

〈参考資料B〉


参考資料C〉

〈参考資料D〉

 
 〈参考資料D〉 Wikipediaの「撮影」という項目がうまくまとまっているので、これをベースに見ていきます。

ステディカムを本格的に導入した、その最初期の著名な作品としても知られる。フィラデルフィア美術館前庭の階段、いわゆるロッキー・ステップをロッキーが駆け上がるシーンなどがその代表である。

Wilipedia『ロッキー(映画)』から引用

 ステディカムは手持ちカメラです。当時、映画は据え置き式の大型カメラで撮影するのが常識でした。カメラ自体は据え置きですから、移動する被写体を撮影するときは地面にレールを敷き、そこに台車を載せた上にカメラを固定して撮影していたのです。『ロッキー』の制作では、このような段取りをする予算も人手もなかったので、当時登場したばかりの手持ちカメラを使ったのです。


撮影を市内でおこなった際、ステディカムを使った小規模の撮影クルーだったため映画のロケとは思われず、果物屋の店主が撮影中のスタローンを本物のボクサーと勘違いしてオレンジを投げてよこした。その光景を、そのまま映画の場面に使用している。[要出典]

Wilipedia『ロッキー(映画)』から抜粋・一部改変

 [要出典]となっていますが、〈参考資料A〉・〈参考資料B〉にも登場するエピソードなので事実と見てよいと思います。映画づくりの常識からすると、こういう予定外のハプニングはNGです。『ロッキー』では、それを映画の場面として採用しているのです。

メイク代を節約するために、負傷したロッキーの特殊メイクを少しずつはがしていくことで、最終ラウンドから第一ラウンドへと逆方向に撮影する変則的なやりかたをとった。[要出典]

Wilipedia『ロッキー(映画)』から抜粋

 これも[要出典]ですが、〈参考資料B〉・〈参考資料C〉にも出て来るので、事実とみてよいでしょう。無名のボクサーであるロッキーが世界チャンピオンと闘うのですから、もう、ボコボコにされるわけです。それを表現するのに特殊メイクが必要なのですが、これにはお金がかかる。それを節約するため、時系列を逆にして撮ったわけです。

 〈参考資料B〉は、お金がないのでフライド・チキンを報酬に集めたエキストラが長時間の撮影に付き合ってくれるとは期待できなかったことも、逆時系列撮影の理由に挙げています。

エキストラやカメオには、節約のためスタローンの家族や友人達が出演している。弟のフランク・スタローンは序盤に登場する街頭で歌を歌って屯する若者達の一員として、父のフランク・スタローン・シニアはゴングを叩く役として出演した。スタローンの愛犬・バッカスも出演している。その他、ジョー・フレージャーがカメオ出演している。当時のスタローンの妻サーシャはスチル写真のカメラマンとして参加した。

Wilipedia『ロッキー(映画)』から引用

 家族と友人の協力で完成させた。手作り映画だったのですね。この中で、ジョー・フレージャーだけは有名な元プロ・ボクサーで、大物です。

 
 スタローンが「映画はこうして作るものだ」という常識に従っていたら、この映画史に残る傑作は生まれていなかったはずです。


3.まず、「なしで済ます方法」を考えるアプローチ


 私は、個人的な夢を実現する上では、世間の常識が唱える色々な条件を真に受けずに、まず、そうした条件なしで済ます方法を考えてみるのが得策だと思っています。

 今そろっている条件だけで、ともかく「夢」に向かって歩き出す。歩いていく過程で、さらに前に進むために必要な条件が見えてきたら、そこで初めて、その条件を満足することに取り組む。このような方法を採ったほうが、歩き出す前に気が遠くなって挫けてしまうことを避けられると思うのです。

 そんなやり方をしていたら、手の届くところにあるちっぽけな「夢」しか実現できないという反論があると思います。それは、その通りだと思います。
 けれども、たとえダウンサイズした「夢」であっても、それを比較的近い将来に実現することが出来るのであれば、それは幸せなことだし、幸せでいることは人生にとって、とても大事なことだと、私は考えています。

 今回は、「夢」を実現しようとするときには、常識的に必要とされる条件を「なしで済ます」アプローチもあって良いというハナシでした。

 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

『「なしで済ます」も、あり』 おわり


 

 

 

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