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「やれないとは言えない」ことの罪深さ
企業の組織運営にとっての重大課題を提起した記事を紹介します。『弁護士JPニュース』が12月26日から27日にかけて掲載した記事で、4人の人事および組織運営のプロが2023年に起こった企業不祥事を分析しています。以下に、若干の私見も加えつつ、紹介したいと思います。
画像提供:K_Kameno https://note.com/k_kameno
4人のプロは、次の方々です。
新井 健一 氏(私の記事中では「新井 さん」と表記)
経営コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役
一松 亮太 氏(私の記事中では「一松 さん」と表記)
経営コンサルタント、株式会社KakeruHR代表取締役
角渕 渉 氏(私の記事中では「角渕 さん」と表記)
経営コンサルタント・産業カウンセラー/アクアナレッジファクトリ株式会社代表
二野瀬 修司 氏(私の記事中では「二野瀬 さん」と表記)
経営コンサルタント、株式会社ウィズインテグリティ代表
『弁護士JPニュース』の記事は、次の2つです。参照の都合上、それぞれを【記事1】・【記事2】と表記します。
【記事1】
【記事2】
1.「やれないとは言えない」せいで戦争までしてしまった
【記事1】のなかで、角渕 さんは太平洋戦争中に7万人以上の死者を出し“史上最悪の作戦”とも呼ばれるインパール作戦と日野自動車を 三菱ふそう との統合という解体的出直しに追い込んだデータ改ざん事件を例に、次のように指摘していらっしゃいます。
どちらも根底にあるのは、「できないとわかっているけど、やれないとは言えない」ということです。
作戦を考える人やその実現をどうするかを考える人たちからみると、「とてもじゃないけど、これはできない。だけどやらなきゃいけない」。そういう状況下で、上の人がやれと言ったら、やれることにしてしまう。しかし、結局やりきれなかった…。
角渕 さんのご指摘から、私は大岡昇平『レイテ戦記』の次の一節を思い出しました。
海軍は昭和十九年には、日米戦力の比が一〇対一になることを知っていたといってよいくらいまで、的確に予想していた。それなのに開戦に対して「否」といえなかった。今さら軍備が不十分だ、とは天皇と国民の前でいえなかったからだといわれる。
太字化は楠瀬
日本海軍はアメリカを仮想敵国として、大平洋を渡って来る米国艦隊を砲撃戦で撃滅する想定で巨額の予算をとりつけ艦隊を増強していました。
海軍に対し国民が多大な期待を寄せたとしても無理からぬことでしょう。予算をとりつけ自組織を発展させるために、海軍があたかも不敗であるかのようなポーズをとっていた可能性も否定できないと思います。
太平洋戦争の開戦には、明治維新以来の日本の歴史が生んだ諸々の要因が絡んでいますが、海軍が「否」と言わなかったことが最終的な決定打のひとつであることは間違いありません。
責任ある立場の人間が「やれないとは言えない」ばかりに、戦争すらしてしまうことがあるのです。
2.なぜ、「やれないとは言えない」状態になるのか?
組織は個人の集団です。組織のなかの個人に目を向けたとき、なぜ、組織の一員は「やれないとは言えない」ようになってしまうのでしょう?
この疑問に関しての、 新井 さんのご指摘がこちらです。
なんらかの圧によって組織に押し込められると、もう抗えなくなる。たとえその状況が自分たちにとって不利益な環境であっても、そこでなんとか生き延びようとする。
では、この”圧”とはいかなるものなのか? それについて、 一松 さんが、非常に誠実かつ率直に語っていらっしゃいます。
私自身の企業での業務経験も照らしながら考えてみると、その組織にいるためとか、自分の居場所を守るためとか、本意ではなくても、従わなければそこに居づらくなる風潮が全体で作られてしまうことも影響を与えているのではないでしょうか。そうなると判断が狂ったり、麻痺したりすることはあるかもしれません。
組織が大きくなるほど、よりそうしたしがらみからは逃れられにくくなる気がしています。私自身、組織の一員だったころはかなりもがき、苦しんだ経験があるので。
私は19年間大企業に勤務しましたが、係長に昇格したころから転職するまでの10年間、ずっと 一松 さんと同じことを感じていました。今から振り返ると、”圧” の中身は、主に次の3つだったように思います。
《圧1》評価への懸念
「やれない」=「能力不足+やる気不足」と評価されるのではないかと恐れていた。
《圧2》人間関係のしがらみ
"同じ釜の飯を食った” 先輩・同僚・後輩・部下が「やれる」と言っていることには協力すべきと感じていた。
《圧3》居心地が悪くなることへの恐怖
上記の1・2と関連して「やれない」と言うことで自分が社内での居心地が悪くなることを恐れていた。
【記事1】・【記事2】は、ジャニーズの不祥事も取り上げています。ジャニーズ事務所は通常の企業とは大きく異なる組織ですが、その中にいる人間は、私が挙げた⦅圧1》・《圧2》・《圧3》を感じていたに違いないと思っています。
社員が重要な局面で合理的に「NO」と言えるためには、こうした"圧”を生じさせない組織運営が必要です。
3.「やれないと言える」組織にするためには?
二野瀬 さんは、社員が言うべきときに「やれないと言える」組織にするためには、コンプライアンスとハラスメントという2つの問題事象に一元的に取り組む必要があると指摘していらっしゃいます。
企業によっては、ハラスメントは総務系の部署の所管、コンプライアンスは法務系部署の所管であることがあります。
なぜ2つを線引きすることが問題かというと、どちらかが遂行されたとしても問題が起こらないわけではないからです。どういうことかというと、例えば、業績面での過度なプレッシャー、パワーハラスメント等により、やむなく、不正行為を行ってしまった。逆に言えば、ハラスメントによって、遵守されるべきコンプライアンスが無視されてしまった。こうした法令遵守どころではない「圧」が、社員を不正に走らせるケースが本当によくあるんです。
【記事2』から抜粋/太字化は楠瀬
かつて、東芝の不適切会計が、まさしく"法令遵守どころではない「圧」”によって引き起こされたことが明らかになっています。
上記の記事は、社長が事業部門にかけた強烈な”圧”を生々しく記述しています。
「『チャレンジ』への回答になってない。まったくダメ。やり直し」
2012年9月20日の月例会議。東芝の社長がカンパニー社長と面談する通称「社長月例」で、パソコンやテレビ事業を運営するデジタルプロダク ツ&サービス(DS)社に、佐々木社長(当時)が激しく迫った。
続く9月27日には社長月例が再度開かれ、DS社の上期赤字見込みは248億円に拡大。その場で佐々木氏は何と、残り3日間で120億円の改善をDS社に強く求めた。無理な要求を「気に病む部下もいた」(ある東芝OB)
『「東芝不適切会計」とは何だったのか』から抜粋
/太字化は楠瀬
強烈な”圧”によって"無理な要求”を受けてしまったDS社は、結局、帳簿上のごまかしで「チェレンジ」を達成したように見せかけてしまったのです。
残念ながら、社会から信用されていた企業の社員が「やれないとは言えない」ばかりに、不正に手を染めてしまった事例は、数多く見られます。
コンプライアンスを損ねるような”圧”を生じさせない組織運営は、企業にとって喫緊の課題であると考えます。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
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