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vol.5 パネキット

 パネキットはプレイステーションで発売された物理シミュレーションを行うソフトである。早い話が仮想空間で行うレゴブロックだ。なお筆者はダイヤブロック派だったが知名度でレゴブロックで喩えた。くやしい。

 パネキットとの出会いは「電撃プレイステーション」のディスク版に収録された体験版だった。このゲームはさすがに体験版がなければ入口がなかっただろう。遊ばなくては魅力は通じない。

 本ゲームの体験版の非常にうまかったところは「絶妙にパーツが足りない」ところである。車はギリギリ作れるが、それ以上のことはほぼできない。後段で更に詳しく触れよう。

 このゲームはパーツを組み合わせてオリジナルのモデルを作成し、作成したモデルを使用してマップの探索、または様々なルールの競技に挑む。探索や競技によってモデルの「プリセット」や、追加のパーツを手に入れることができる。

 なおマップ移動は現代でのオープンワールドのようにシームレスで広大なマップを移動できる。当時を考えれば驚きの技術だ。

 オリジナルモデルを作成するにはエディットモードを使う。パーツは中心部である「コア」、機能を持たないがエネルギー供給を行う「パネル」、X軸Y軸Z軸に曲がる「ジョイント」、エネルギー供給で動く「タイヤ」「モーター」「ジェット」「シューター(砲台)」を合計最大100個まで組み合わせて作成する。

 パーツ同士の折り曲げ、ジョイントでの角度の変化がつけられ、パネルは色も指定できるのでかなり幅広いエディットが可能だ。さらに各ボタンでの挙動や、説明文までも作成することができる。

 「エディットに時間をかける」タイプのゲームなので、エディット画面のBGMは嫌でも心に残る。むろん名曲である。

 なお、プリセットモデルを呼び出し、プリセットの完成品から修正を行うこともできるので、自分好みの車を作りたい、などの時には1から作ることも、既存モデルから改造することも可能だ。

 プリセットモデルも豊富に用意されている。作成したオリジナルモデルはメモリーカードにセーブし、いつでも好きな時に呼び出すことができる。

 ゲーム中の競技には二種類のクリアレベルがある。たとえば車両でレースをするような競技の場合、より早いタイムでクリアしなくては完全にクリアしたことにならない。

 完全なクリアをするには、プリセットのモデルにエディットでもう一工夫加えるなどで目指す。よくできたサイクルになっているのだ。競技も実に様々で、ひととおり遊びきればパネキットでできることのほとんどは理解できる。

 モデル作りはもっとも簡単な「車」からスタートする。マップを探索するのであるから、常識的な移動ができなくてはいけない。まず必要なのはタイヤ。そして左右に曲がるためにX軸方向のジョイントが必要になる。

 地上の次は空を飛ぶ手段が必要になる。ジェットだ。ジェットは単純に推進力なので、車の加速にも使える。飛行機を作るには角度をつけたパネルで翼を、地上での速度を獲得するためにタイヤを、そして設置していなくても発生する運動エネルギーでジェットを搭載する必要がある。

 が、体験版ではジェットは1つしか手に入れることができず、空を自由に飛べるまでには少し至らない。だが、ここまででパネキットの趣旨は十分理解できるようになっているため、パネキットの面白さが刺さった場合には製品版を買いたくなってしまうわけだ。

 さて、さらにその次の段階では「ジェットを使わずに」空を飛ぶことを目指す。プロペラ機である。モーターを使用してプロペラを作成するが、モーターはパーツの中でも重たく、バランスを取ることが難しい。

 ここまで作れば一つの到達点と言えるだろう。もちろん、水上、雪上で活躍するモデルを作成することもできる。

 さらに面白いのは競技や機能性とは何も関係のないモデルを作ることだ。この領域になると想像力がものをいう。プリセットモデルにも「カセットコンロ」とか「二層式洗濯機」などとバラエティ色豊かに用意されている。パネキットに許されている機能でどこまでモノを作るかに挑戦するのだ。

 これにはたくさんのお手本に触れることも必要だろう。パネキットの攻略本「完全設計マニュアル」には大量のモデルレシピが収録されているので、当時はプリセットモデルとこの攻略本、そして友人らのプレイデータによって想像力を拡げていった。

 このパネキット、発売当時の環境だったから面白かったのだろうと今は思う。パネキットは当時から隠れた名作の扱いで、身の回りにプレーヤーを見つけることは難しかったが、インターネット、特に動画サイトが普及したあとには全国のユーザーの力の入ったモデルが多数動画投稿されている。

 これらはとても技術力が高く思わず見入ってしまうが、果たして発売当時にこれを観ていたら、当時と同じ気持ちでモデル制作に取り組んだだろうかと思うのだ。見て満足してしまい、自分の中のパネキットワールドを育てることにはつながらなかったのではないか。

 現代の技術で作られたとしたら、MMO的に自作モデルが同じネットワーク空間で共存する世界になるかもしれない。パーツは無限に使えるかもしれない。それは楽しい体験になっただろうか。

 筆者としては、身の回りの友人や家族以外に見られることはない箱庭が、どこか不完全で、絶対的な制限のあるゲーム的な世界が、意識はせずとももっとも心地よかったのではないかと思う。

 現代で同じ仕組みで作ったとしても、ゲーム外の環境で絶対に同じ体験にはならない。非常によい時代、タイミングよく素晴らしい体験をさせてもらったゲームであった。


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