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『汝、星のごとく』感想:強さと弱さが織りなす人間模様

イントロダクション

 2023年の本屋大賞に輝いた凪良ゆうさんの傑作、『汝、星のごとく』を読み終えました。この記事では、物語に対する私の感想を述べますが、オープンにされている情報以上のストーリーの内容に関するネタバレは含まれていないため、安心してお読みいただけます。

わたしは愛する男のために人生を誤りたい。

風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。

ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。

生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。

ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。

本の帯に記載されていた本書のあらすじ

 まず、凪良ゆうさんの文体は非常に読みやすく、現代社会で生き抜くために必要とされる心構えや、強さとも言えるしなやかさを感じさせてくれました。個々の登場人物がどのように成長し、互いに影響を与え合っていく過程が丁寧に描かれており、読者にも自己省察を促す力がある作品だと感じました。

 以下では、私が本書を読んで感じた、人間の強さや弱さについて触れていきたいと思います。

強さとは何か、弱さとは何か

 『汝、星のごとく』では、さまざまな人物が登場し、それぞれが固有の強さや弱さを持っています。物語を通じて、これらのキャラクターが試練に立ち向かい、苦悩しながらも前進していく姿が見事に描かれています。その中で、強さとは単に肉体的な力や知識だけではなく、自分の信念に従って行動し、他人に対して思いやりを持ち続けることであることが示唆されています。

 一方、弱さは人間の根本的な部分にあり、時には他人や状況に流されることがある。しかし、この物語では、弱さを受け入れ、それを自分の成長の糧に変えることが重要であることを教えてくれます。

人の強さとは:自由と責任

 『汝、星のごとく』を読んで感じたことの一つに、人生において誰もができる限り自由でありたいと願うことが挙げられます。しかし、自由であることは、それ相応の責任が伴うものであるという点についても考察してみました。

真の自由とは

 真の意味での自由とは、自分で選択し、そして選んだことに対する責任をしっかりと自分で背負うことです。大人になる、自立するとは、そうした姿勢が求められるものでしょう。しかし、我々はどこかで他人に甘え、その責任を他者に委ねがちです。確かに、それは楽な道かもしれませんが、その瞬間に自由ではなく、他者に依存することになってしまいます。

 自分の選択に責任を持ち、自分の人生に責任を持つ覚悟を持ってこそ、人は真の自由を手に入れることができるのではないでしょうか。本書を読んで、このような考え方に改めて気づかされました。

人の弱さとは:責任の逃れと依存

 『汝、星のごとく』を読んで、私が現代社会において問題だと感じることの一つは、責任を他人に押し付けるという行為に対して、認められない方向性が存在することです。

責任の押し付けの例:親子関係

 特に、立場的に上位の者が下位の者に責任を押し付けることが問題だと感じます。例えば、子供が親に依存するのは当然であり、産んだ以上、親は子が成人するまでその責任を持つべきです。しかし、その逆である親が子供に依存することは、非常に不自然であり、親が持つべき責任を子供に押し付けたり、将来を子供の稼ぎに依存したりすることは適切ではありません。親子であっても、基本的には他人であり、子供側には親を選ぶ権利がなく、本来責任は発生しないはずです。

責任の逃れの例:職場

 また、親子関係に限らず、職場でも最近、上司と部下の関係において、部下に責任を押し付け、本来取るべき責任から逃れようとする上司が見受けられます。会社のミーティングに参加していると、責任を取るべき人が取ろうとしないため、話が進まず、議論が発散し、進むべき方向が定まらず滞ることがあります。

自分の立場で責任を果たす意識

 私も気づけば大人になっており、負うべき責任をきちんと取り、自立して自由を謳歌し、人に恥ずかしくない生活を送りたいと思います。
 この考え方を人に押し付ける気は全くありませんが、私が社会の一員として成長し、誰かと互いに助け合いながら前進するために重要なものだと考えています。

まとめ

 現代は多様性が叫ばれる時代であり、個々人が自由に生きることが求められている。しかし、それに伴って「人は人、自分は自分」という考え方を一人ひとりがしっかり理解する必要がある。
 日本社会では、同調圧力を感じることがしばしばあるが、多様性と同調圧力は全く別の考え方である。
 他者と同様であることに安心感や優位性などないのだ。
 他者と同様であることに安心感を求めるのではなく、「自分で選んだから良い」という考え方を大切にすべきだ。そして、違う方向性を進んでいる人が居たらそういう考え方もあるのかと称賛すべきだ。
 その上で、漸く同じ方向性を向いている人が居たときに、数多ある選択肢から同じことを選んだ人が居たことに嬉しいと思うことができると思う。

 本書では、二人の男女の高校生時代から大人までの人生を追随する形で物語が進む。彼、彼女を取り巻く人々の暖かさ、強さ、を、ぜひ本書を読んで感じていただきたい。

 個人的に本屋大賞は、ここ数年大賞を取った本をとりあえず無条件で読む習慣があるが、今年の作品もまさに名作であり、大賞に相応しいと言える。この素晴らしい作品が、多くの人に読まれることを心から願っている。


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