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白昼の金縛り

これは整骨院の先生をしているSさんが実際に体験した話。

7年くらい前に働いていた、ある整骨院で出来事。
その整骨院では、午前診と午後診の間の時間は、主に各々の事務仕事をこなしたり、休憩をしたりして過ごすのが基本だった。
その日はいつも通り午前診を終え、何故か職員全員で昼寝をしていた。
普段から昼寝をすることは珍しくなく、誰かが寝ていることはたまにあったが、こんな事はこの日が初めてだった。

施術台の上で横になり、うとうとし始めた時、Sさんの耳にタイピングの音だけが入ってきた。
Sさんは特に気に留めることもなく、「あ、院長が事務仕事してはるな~」と思って眠りに落ちた。

その時、Sさんは今までに見たこともないような悪夢を見た。
それは全く面識のない髪の長い女に自分の足を切断される、というなんとも気味の悪い夢だった。
切断された瞬間に目が覚めたが、それと同時に体が動かなくなった。
金縛りだった。

夢の内容が内容なだけに怖くはあったが、Sさんは普段から金縛りにあいやすい体質で、自宅でもよくなっていたので「またいつもの金縛りか。」と思い、気にはしなかった。
「とりあえずは寝たら治るし。」と思い、もう一度寝ようとしたがいつもの金縛りとは何かが違う。
寝よう寝ようと目を閉じるが、頭元で何か人が居るような気配がする。

タイピングの音は聞こえ続けており、今起きているのはパソコンの前にいる院長だけのはず。
「ここにいるのは誰やろ?」
Sさんは気になって目を開けた。
視線の先には真っ黒な影がいた。影はSさんを覗き込むようにして立っている。
シルエットしかわからないが、その影は髪が長い女であることが分かった。

Sさんは驚いてとっさに目を瞑った。
とても怖かったが、金縛りを解くこともできず、気づけばまた眠りに落ちていた。
その日はその後、何も起こることはなくそれで終わった。

次の日もSさんはまた同じ場所で眠ってしまった。
前日のように悪夢を見ることはなかったが、また金縛りにあった。
嫌な予感がした。
今日は自分が最後に寝たから誰も居ないはず。
とはいえ、この日は特に頭元に気配を感じたわけでもなかった。
昨日のことがあるので、恐る恐る目を開けて確認するも、やはり何もいない。

Sさんは「いつもの金縛りか。」とホッとして、金縛りが解けるのを待つことにした。
何気なく視線を落とした時、足元の方に人影が立っていることに気が付いた。
恐る恐る目を凝らして見ると、そこには昨日見た髪の長い女の影と、もう一人子供のような影が。

認識したと同時に女の声が「お前の中にこの子を入れてやる。」と言って、Sさんの足をグイッと強い力で引っ張った。
必死に抵抗するも、Sさんは施術台から落ちてしまった。
その音を聞きつけ、ほかの先生方が「大丈夫か!」と駆けつけてくれ、その時初めて昨日のこと、今日あったことを話した。

院長はSさんの話を聞き、「ここができる前は墓地やったから、なんかあるんかもしれんなあ。」と言った。
そして最後に「あと、俺昨日パソコンしてへんで。」と。

あの前日のパソコンのタイピングの音は結局何かわかることはなかったが、不思議な出来事はその二回限りで、その後は嘘のように何かが起こることはなかった。

このことが原因かは不明だが、Sさんはその二週間後、足が原因で高いところから落下し、骨折。
入院して手術をする事態になったのだという。

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