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【婚約破棄になったぼくが恋愛工学を実践した理由】その2・初陣 〜Good GenesとGood Dad〜

前回↓
【婚約破棄になったぼくが恋愛工学を実践した理由】
その1・はじまりとおわりの始まり
https://note.mu/ksan/n/n5a53f6c64f41


「クソ、クソ………クソ!」


隣からは聞きなれない寝息が聞こえる。でも、おそらく起きているだろう。

それは僕だって同じだった。


失敗したーーーー


いまの僕なら、簡単に攻略できただろう。

その娘の口先だけの言い訳もかわし、シットテストもクリアし、自信満々に振舞えた。


でも出来なかった。

経験不足……も勿論あるが、恋愛工学のなんたるかを、ぼくはまだ理解していなかったのだ。

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婚約者(その時まだ婚約はしていなかったが)と付き合っていた時、一度だけその子と”過ち未遂”をしたコトがある。

婚約者と転職でもめたからだろうか、はたまた婚約者だけしか知らないのはイヤだなぁと思っていたのか。

おそらくその両方だが、年も明ける頃、ぼくはその娘と家で飲む事になった。


男の一人暮らしの自宅で、宅飲み。


そういう流れにならない理由がなかった。

僕らはその雰囲気のままハグをし、キスの後、ベッドで夜まで愛し合った……


となればよかったのだが、さぁこれから本番、という時

その娘の言葉でぼくの戦意は完全に喪失した。



「本当にするの?」



この後の対応なんて考えるまでもない。

黙って優しくキスをして、そのまま押し倒すだけだ。


でも出来なかった。


「付き合っている人がいるのに、こんな事しちゃまずいんじゃないか」


その娘はそう思ったろう。そして、ぼくも同じ事を思ってしまった。

そのままお互い同じ布団で、長い長い夜を過ごした。

そして僕ら2人は、眠い目をこすりながら

最寄駅で別れたのだった。

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1年前の記憶を振り返っていた僕は、とても気楽だった。

「今日は簡単に寝られるだろう。」

未遂とはいえ、一度は身体を許そうとした相手だ。

今度誘っても余裕でいけるに違いない。

僕は意気揚々と出る準備をし、自宅を後にした。



そしてベッドの上で、まさかの……いや、”そうされて当然”の拒否をされるのであったーーーーーーー


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食事での会話は問題なかった。

まだペーシングやバックトラックなどは上手く出来なかったが、そこは旧知の仲。

お互いの共通点で盛り上がり、まだ飲み足りないから家で飲もうよ、とも誘えた。

及第点でもないが、初戦にしては先ず先ずだ。


しかし、何も考えなさすぎた。


「そういえば、婚約者とはどうなったの?」

「実は、別れちゃったんだ」

こんなやり取りがあった。

この後のフォロー次第では、特に問題ないかもしれない。

でも僕は事細かに別れた経緯を説明し、いま彼女がいないんだよねアピールをしたのだ。

その結果、僕は「婚約した彼女と結婚できなかった、非モテの男」という印象を与えてしまうことになる。

そして他に相手がいないからこそ、私のトコロにきたのだーーーーーと。

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人間の脳は、根本的な部分は原始時代から変わっていない。

考えてみれば合点がいく。

原始時代は、とても不安定な環境だった。

狩りや災害、怪我や病気で簡単に命を落とす……

この時代に生きる彼らは、どうにか生きようと工夫してきた。


そんな中、女性たちは、出来るだけ優秀な遺伝子を残そうとしたのだ。

それは当然だ。狩りも下手、怪我や病気ですぐ死ぬような子供をもっては大変だ。大事な大事な自分のDNAが、後世まで引き継がれなくなるからだ。


だから、この時代においても、優秀な遺伝子を持つものはモテた。


また、優秀な遺伝子と共に、自分や子供を守ってくれるような存在も欲していた。

いくら優秀な遺伝子を残したとしても、飢餓で死なせたり、子供が生まれた後ほっとくような男性だと、獣や他種族に襲われて死んでしまうからだ。

具体的に言えば、集落の長や、地域の権力者だ。

彼らはその集落を納めているので、食べ物の管理は彼らの管理下。

当然、その権力者の下にいれば飢え死にすることはなくなる。

自分の子供……遺伝子は、残りやすくなる。


こんな状態が6000万年も続いたのだ。

現代の進歩は凄まじい。電気も通っていない江戸時代から、わずか400年くらいで環境は激変した。

パソコンはあり、世界各国行けるのは当たり前。一部を除けば飢餓で亡くなったり獣に襲われて死ぬことなど先ずない。


しかし、この時代の加速に僕らの脳は追いついていないのだ。

なにせ6000万年も、原始時代を続けていたから。

現代を生きる僕らの脳は、原始時代の本能がそのまま残っているのだ。

だから男は自分の子孫を出来るだけ残そうとし、未だに女性は出来るだけ優秀な男の子孫を残そうと行動してしまう。

優秀な遺伝子をもつ、モテる男と付き合いたい。

そして、その遺伝子をより安全に残していける男と結婚したい。


これが恋愛工学でいう、"Good Genes" と "Good Dad" だった。

だから世の女性は、優秀な遺伝子を持つモテ男(Good Genes)と付き合いたいし、安定して豊かな経済力をもつ男(Good Dad)と結婚したいのだ。


今の理屈では合わない部分も勿論ある。

でも、本能が女性たちにそう言っているのだ。


Good Genes と Good Dad をもつ男と付き合えーーーーーと。


そしてこの時の僕は、そのテストに不合格となったのだった。

子孫を残すに値しない、ただの非モテの男だ、と。

だから付き合うべきではないし、体を許す(=子供を作って遺伝子を残す)わけにはいかない、と。(もちろん、意識してそうは考えていないが)



そんなことはつゆとも知らないぼくは、なんともいえない敗北感を抱えながら

枕に顔を埋めるしかなかった。

かくして、ぼくの初戦は苦々しいスタートとなった。


しかし、このことでぼくの心に火がついたのも、また事実だった。


  = くまさん =

画像:無料写真素材AC

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