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柔よく剛を制す

マガジンご購読の皆様、2022年、新年あけましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になりました。本年もよろしくお願いいたします。

振り返れば、今から2年前、2020年は、21世紀前半の最初の波乱の幕開けの年でした。最初の激震が走った時、もともとリモートワークをなさっていたような業種、職種の方々のなかには、自分たちの時代が来たと思われる向きもあったかもしれません。こうした混乱をビジネスチャンスとして成功された方もおられるでしょう。また、2019年までのライフスタイル、ビジネス、習慣に早く戻って落ち着きたい、もうこれ以上翻弄されるのはこりごりと思われる方々は大勢おられるようにも思います。

しかし、2022年、それほど単純でわかりやすくないかもしれません。波乱はいっそう深刻になるのか、いったん落ち着くのか、あるいはまた別な何かがでてくるのか。それはわかりません。きっとこうなると決め打ちはしないほうがいいのではないでしょうか。柔軟な思考・行動が重要かな。ということで、今年、意識したい、漢字一文字は「柔」です。

「柔よく剛を制す」と言いますね。柔は、軟弱で頼りなく見えるでしょうが、それは文脈次第です。時に、剛を上回ります。柔術の精神的な起源はは、まさにこの点ではないでしょうか。

「柔よく剛を制す」の原典は、かなり古いです。太公望(呂尚)と言えば、紀元前11世紀頃の古代中国・周の軍師にして、後に斉の始祖になった英雄です。太公望の手によると言われる書のなかに「三略」という兵法書があり、その書き出し部分に「柔よく剛を制す」が出てきます。その当時、本来は、どんな文脈で語られていたのでしょうか。

さっそく、原文を見てみましょう。インターネットで無料で読めるページがあります。

https://urlzs.com/SVESr

「三略」は上略、中略、下略の3つのチャプターから成り立っており、その上略のほぼ冒頭に出ていますね。書き下してみましょう。

夫主將之法,務攬英雄之心,賞祿有功,通志于眾。故與眾同好,靡不成;與眾同惡,靡不傾。治國安家,得人也;亡國破家,失人也。含氣之類,咸願得其志。
《軍讖》曰:「柔能制剛,弱能制強。」柔者,德也。剛者,賊也。弱者,人之所助。強者,怨之所攻。柔有所設,剛有所施;弱有所用,強有所加。兼此四者,而制其宜。

それ主将の法、つとめて英雄の心をとり、有功を賞祿し、志を衆に通ず、故に衆と好みを同じうすれば、成らざるになびく。衆とにくしみを同じうすれば、傾かざるになびく。国を治め家を安んじるは、人を得ればなり。国を亡くし家を破るは、人を失えばなり。含気の類、みなその志を得んことを願う。
軍讖にいわく、「柔能く剛を制し、弱能く強を制す」と。柔は德なり。剛は賊なり。弱は人の助くる所なり、強は怨みの攻むる所なり。柔は設くる所あり、剛は施す所あり、弱は用うる所あり、強は加うる所あり、此の四者を兼ね、しかしてそのよろしきを制す。

例によって、私的超意訳します。専門的にはいろいろ異論、反論もあるかもしれませんが、そこはご了承ください。

指導者たる将軍の手法とは、優れた活躍をする者の心をつかむように心がけ、彼らの功績を評価し表彰するなどしつつ、自分の考えを広く浸透させるのである。従って、配下の者たちと好みを共通にすることにより、達成できないことなどなくなるし、憎しみを共通にすることにより、心を傾けてくれないことなどなくなる。国を治めることも家を安定させることも、人心をつかんでこそ達成できることである。国も家も亡くしてしまう原因は、人の心を失う点にある。人々は、本来、自分たちの思いを実現したいと願っているのである。
《軍讖》には「柔よく剛を制し、弱よく強を制す」とある。柔は徳と評価されるが、剛は賊として人心は離反する。弱には人が助けようという気持ちを呼び起こすが、強はうらみを買い、攻められる。従って、柔の観点で不測の事態に備え、剛の観点で積極的に動いて目に見える貢献をし、弱の観点で無理なく人を行動させ、強の観点でその影響力を大きくすることができる。柔・剛・弱・強の四者には、以上のような特徴があるので、上手に使いわけることが重要である。

いかがでしたでしょうか。原典に書いてある文脈を見ると、本質は、最後の一文です。指導者たるものは、人心を掌握するために、柔、剛、弱、強を巧みに使い分けよ、と言っていますね。単純に、柔 > 剛 みたいなことかと思えば、そうではないようです。

もっとも、柔、剛、弱、強を巧みに使い分けるほどのフレキシビリティこそ、もう一段上の「柔」とも言えるかもしれません。そのような一筋縄ではゆかない「柔」は、単純な剛より、もちろん強いでしょう。

2022年は、そんな一段上の「柔」を獲得する1年でありたいです。

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