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盗賊団の顛末

「アリババと40人の盗賊たち」といえば、千一夜物語(アラビアンナイト)の補巻に収録されている有名な物語だ

1番の勝者は、モルディアナ

盗賊がアリババの屋敷の扉にマークをつけたとき、直ちに同じマークを他のあらゆる家の扉につけてかく乱した
ついに盗賊団が油商人を装ってやってきたとき、39個の甕に隠れていた盗賊たちに熱い油を注いで全滅させた
そして復讐のために盗賊の首領がやってきたとき、舞いを披露して接近し、短刀で刺し殺した

盗賊団はやられっぱなしだ
彼らは洞窟のなかに金を隠し、そこに侵入したアリババの兄カシムを殺した
だが、そこから先は、すべて未遂に終わっている
賢くて勇敢なモルディアナが機先を制したからだ

主人公アリババは何をしたか

盗賊団が洞窟に金を隠していることを目撃した
その決定的な暗号、開けゴマを入手した
殺されたカシムを洞窟から運び出して葬儀をすませた
カシムが運ぼうとした金をそのまま自分のものにした
使用人モルディアナの大手柄を認めて、カシムの息子の嫁にした

なんだ
アリババ、たいしたことない
財産は盗賊たちからの横領だ
どこにも知恵と力の優れたところはない

物語りが終わったあと、重要なポイントが1つ残る
アリババは、開けゴマを知る唯一の生存者だ

カスピ海に面したザンジャーン近くに岩塩で知られるチェヘラーバード鉱山がある
そこで、アケメネス朝ペルシアの頃の人の遺体が発見された
文字通り、人の塩漬けだった

賢いモルディアナのことだ
40人の盗賊たちの遺体の後始末もぬかりはない
あの最後の日、塩のはいった食事を辞退した首領を刺した後、ためらうことなく、食事に入れずに余っていた塩を遺体処理に使ったのではあるまいか

たいした努力もせず、知恵も力もないにもかかわらず、偶然のラッキーで大金を手にしたアリババはどうなったか

ある日のこと、例の洞窟を訪れた
超久しぶりの開けゴマだ
だが、その後出てくることはなかった

暗号が無効になったのか、カシムのように忘れてしまったのか、今となっては知る由もない

こうしてアリババも40人の盗賊も結局は岩塩鉱山に埋もれてしまった
塩漬けの人、Saltmen (塩人)である

彼らは、最初は運命が大きく分かれたが、それはモルディアナを味方につけたか、敵に回したかの差でもあった
だが、結末は、どちらも塩人だったのである
(951字)

2022年8月20日から、以下の企画に参加させて頂いています。1年ぴったり、毎週続ける予定です。このところは月曜日に投稿、今回のお題は「塩人」でした。どうぞよろしくお願いいたします。


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