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ピンクの空の散歩道

朝から晩まで1日中、仕事と家事と育児がシームレスにやってきて、気持ちは少しささくれ立っていた。

今思えば午後の打ち合わせでは、イライラして口調が少し荒かったかもしれないなと反省する。


定時を少し過ぎたくらいにパソコンを閉じると、そのまま長男を誘って散歩に出る。

電車を見に行こうと言うとまず間違いなく付いて来てくれる。

僕から言わせると、寝るまでに少しでも疲れさせ、妻を料理に集中させるための散歩だ。

坂を登った踏切まで行って、電車を3本見送ったら戻ってくる。そのために僕は彼を連れて玄関を出る。


2歳を超えた彼は、ようやく文章らしい話を話すようになってきた頃だ。それでもまだまだ新しい言葉を欲している。

散歩の間、新しいものを見つけて名前を教えてあげると、繰り返し繰り返し、何度もその名前を発声する。

今日は「じっとはんき!(自動販売機)」から上達することは無かったけど。


姿は見えないが、遠くから犬の吠える声が聞こえてくる。

「この吠えているワンワンは大きいのかな?小さいのかな?」少しいじわるな質問をしてみる。

答えられず「んん?」と笑ってごまかす。最近よくあるやつだ。

でも後から同じような質問をするとさらっと返してきたりするから驚かされる。

もしかして本当はちゃんと理解しているのかもしれないな、なんて思う。


僕らは踏切を目指して坂を登っていく。

「坂つらい!坂つらい!」と彼は言う。

ママが自転車で坂を登るときに言っていたのを真似ているらしい。

「坂つらい!でもがんばる!がんばって登ろうね!」と彼の方から声をかけてくる。


予定通り、踏切で3本電車を見送ると帰路につく。

西の空が夕日で赤らんでいるのが見える。

「見て、ぴんく」

はじめは何がピンクなのか分からなかったけど、西の空を指して言ったらしい。

「そうだね、空がピンクだね」と僕が言う。

ぐっとつないでいた手が引かれる。

「とまって見る」

僕たち2人はしばらく足を止めて、ピンクの空を眺める。

「きれいだねー」彼が言う。

空がきれいだなんて、きっと誰も教えていないのにな。


僕は彼に倣って、今本当に思っていることを言おうとしてみる。

誰も近くを通らないことを確認したけれど、それでも少し恥ずかしさを感じている。

「一緒に見てるからきれいだって思うんだよ」

「んん?」彼は笑って返す。

彼のいたずらな笑顔を見てから、再び手を引いて僕たちは歩き出した。




読んでくださって、ありがとうございました。








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