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佐藤佐吉賞2021受賞結果のまとめと感想。

佐藤佐吉賞の受賞作が発表されました。
佐藤佐吉賞とは王子小劇場の上演作品(および、関連公演)の中から現役の演劇人である劇場スタッフが年間最優秀作品を選ぶ。王子小劇場は東京の若手劇団が目標にする劇場で、実力派がどんどん集まる。なのでこの賞の一覧を観れば今の演劇シーンが丸わかりなのだ。
なお、今年はコロナの影響もあって作品数が少なかった昨年と合わせて2年分先行している。
なお、最優秀と優秀賞しかないのだがノミネートを優秀賞という感じが嫌いなのでここではノミネートと書く。

特記していなければ全員初ノミネート

          【最優秀作品賞】
     『エレモア・ムーブ』バンタムクラスステージ
(初ノミネート初受賞)

【作品賞ノミネート】
『ルースター』劇団スポーツ
(初候補だが、主宰は過去に演出賞での候補経験あり)
これしき』ほりぶん
『どうしよう 孤独だ 困ったな』 第27班
『永遠チェリーボーイ』 サルメカンパニー

全劇団が初候補となった今年。その中では
2012年に最優秀作品賞を受賞したナカゴーの鎌田順也が別ユニットで手掛けた、ほりぶん。
若手演出家コンクールを受賞し、MITAKA "Next" Selectionにも選ばれた第27班 。
今回最多ノミネートのサルメカンパニー。辺りが、有力だったのだが今年で結成22年目のベテラン劇団がギャングと組んで一発逆転を狙う落ち目のハリウッドスターを描く犯罪コメディで受賞。
ここ最近は結成10年以内の若手が獲ることが多かったのだが、20年以上のベテランが獲るのは2009年の菅間馬鈴薯堂から13年ぶり。

            【最優秀脚本賞】
   笠浦静花(やみ・あがりシアター)『完全な密室』
(4年ぶり2回目の候補にして2度目の最優秀脚本賞受賞。)

【脚本賞ノミネート】
國吉咲貴(くによし組)『人人』
(3年ぶり2回目。女優として2度候補。くによし組は2018年『ヘレン・ケラー』で最優秀作品賞受賞)
大石晟雄(劇団晴天)『劇団晴天の曇天短編集 vol.2』
(6年ぶり2度目。スタッフ賞での候補アリ)
吉祥寺GORILLA『誰か決めて』
人格社『グッド・バイ』奥山諒太郎

と、候補歴のある実力派3人に初候補の若手が下克上を目指すという構図。特に人格社の奥山はこれが旗揚げ公演という超若手。しかし、笠浦静花が2度目の受賞を手にした。
内容はやみ・あがりシアターの笠浦が死体で発見されたことから劇団員の加藤が犯人探しをするというフェイクドキュメンタリー風の、ミステリー味の、ファンタジーとなっている。


           【最優秀演出賞】
   石川湖太朗 (サルメカンパニー)『永遠チェリーボーイ』

【演出賞ノミネート】
佐藤辰海 (guizillen)『土木座』
川上一輝(TOKYO笹塚ボーイズ)『朝の気配』
河村慎也(南京豆NAMENAME)『朝焼けの向こうのトランジスタ』
(2回連続2度目)
藤田恭輔(かるがも団地)『意味なしサチコ、三度目の朝』
(2回連続2度目)
 
 演出賞は受賞歴のある人はおらず、若手同士の戦いといったところ。結果的には最多ノミネートのサルメカンパニーから石川が初ノミネート初受賞。
童貞とコールガールの恋愛を煙草と硝煙にまみれて描き出す。タランティーノ脚本の『トゥルー・ロマンス』をインスパイアした危険な恋愛演劇。
  
          【最優秀主演俳優賞】
     川久保晴『ルースター』(劇団スポーツ)

【優秀主演俳優賞】
高山璃子『朝の気配』(TOKYO笹塚ボーイズ)
さんなぎ 『ロケットペンシル×ドレッドノート』(やみ・あがりシアター)
加藤睦望『完全な密室』(やみ・あがりシアター)
前田隆成『世別レ心中』 (ハコボレ)
内藤ゆき『LOVEマシーン2021』(宇宙論☆講座)
庄田侑右(BOW) 『TABOO』(TEAM 空想笑年)
永井一信『バクで、あらんことを』(くによし組)
福地教光『エレモア・ムーブ』 (バンタムクラスステージ)
遠藤広太『永遠チェリーボーイ』( サルメカンパニー)

 今回から男女の区別をなくし、主演・助演部門だけになった俳優賞。つまり、受賞人数も4人から2人に減りより狭き門になったわけだ。全員初候補のフレッシュな並びになったわけだ。
 そんな新ルール1回目の受賞者は、川久保晴。一人芝居で活躍し、2019年には優秀なコメディエンヌに授けられるエミィ賞グランプリを受賞した実力派俳優が勝利。

         【最優秀助演俳優賞】
  末原拓馬(おぼんろ)『蝶の筆』 (CROWNS)


【助演俳優賞ノミネート】
西連寺亜希『土木座』(guizillen)
李凌寒『aube版 銀河鉄道の夜』(aube)
加茂井彩音 『人人』(くによし組)
大垣友『特殊になれなかった者たちへ』(マチルダアパルトマン)
鈴木彩乃『劇団晴天の曇天短編集 vol.2』(劇団晴天)
ナオフクモト『ファンタスペタクルファッキンファッキンファムファタールファンダムファンタジー』(ヴァージン砧)
ぺけ『LOVEマシーン2021』 (宇宙論☆講座)
小川夏鈴『ガムガムファイター』佐藤佐吉賞Reborn
佐藤一馬『僕らの爽やかな深爪』(南京豆NAMENAME)
辻響平(かわいいコンビニ店員飯田さん)『どうしよう 孤独だ 困ったな』(第27班)
成瀬志帆『どうしよう 孤独だ 困ったな』( 第27班)

助演男優賞も全員初候補。
受賞した 末原拓馬は劇団おぼんろの主宰として路上から始まった劇団を4000人動員する人気劇団にまで成長させた男。また一人芝居では全国11か所のツアーを行うなど精力的に活動。そんな人物が作・演だけでなく純粋な俳優としての評価を獲得した。

主演・助演共に一人芝居で評価を得ている実力者が安定の受賞という感じか。

          【最優秀照明賞】
    CROWNS『蝶の筆』阿部将之(LICHT-ER)

【照明賞ノミネート】
やみ・あがりシアター『アン』黒太剛亮(黒猿)
知らない星『だったらもう、どうにでもなれよ』阿部麻純
TEAM 空想笑年『TABOO』西重明博
バンタムクラスステージ『エレモア・ムーブ』谷川裕俊(劇団ラパン雑貨ゝ)

           【最優秀音響賞】
サルメカンパニー『永遠チェリーボーイ』稲葉美穂・バンド隊


【音響賞ノミネート】
aube『aube版 銀河鉄道の夜』イサカトモフミ・吉平真優
CROWNS『蝶の筆』田島誠治(SoundGimmick)
知らない星『だったらもう、どうにでもなれよ』岡田悠
バンタムクラスステージ『エレモア・ムーブ』丸山慶将(劇団ラパン雑貨ゝ)


            【最優秀舞台美術賞】
サルメカンパニー『永遠チェリーボーイ』佐藤麗奈・阿部一郎


【舞台美術賞ノミネート】
aube『ビストロ・オーブへようこそ』谷佳那香
OMEGA CRUE ARTISTS『VILLAINZ』いとうすずらん
PLAN N『風ながるる』西部守(batsu-gumi)
劇団 俳優難民組合『絢爛とか爛漫とか』鎌田朋子

        【最優秀衣装賞】
       ほりぶん『これしき』


【衣装賞ノミネート】
劇団アレン座Lab『熱海殺人事件 -ザ・ロンゲスト・スプリング-』
ハコボレ『世別レ心中』高橋可奈
ほりぶん『これしき』
劇団フェリーちゃん『Ma les me Role 〜マルムロール〜』すみよしこ
FEVER DRAGON NEO『想路列車』

          【最優秀宣伝美術賞】
サルメカンパニー『永遠チェリーボーイ』坂本彩美・小林央菜乃


【宣伝美術賞ノミネート】
やみ・あがりシアター『完全な密室』Erina
かるがも団地『意味なしサチコ、三度目の朝』古戸森陽乃
アンティークス『未来からの手紙』東かほり
劇団 俳優難民組合『絢爛とか爛漫とか』um method

【特別賞】 劇団アレン座「秘密基地」映像演出効果に関して


というわけで、作品賞候補に挙がった作品の候補と受賞状況は

『エレモア・ムーブ』 4部門候補(作品・主演・照明・音響)→作品賞受賞
『永遠チェリーボーイ』 6部門候補(作品・演出・主演・音響。舞台美術・宣伝)→4部門受賞(演出・音響・舞台美術・宣伝美術)
『どうしよう 孤独だ 困ったな』 3部門候補(作品・助演×2)
『これしき』 2部門候補(作品・衣装)→衣装賞受賞
『ルースター』2部門候補(作品・主演)→主演俳優賞受賞

そして作品賞候補作以外で3部門以上の候補に上がったのは
『蝶の筆』3部門候補(助演・音響・照明)→2部門受賞(助演・照明)
『完全な密室』 3部門候補(脚本・主演・宣伝)→脚本賞受賞

因みにやみ・あがりシアターは『完全な密室』の他に『ロケットペンシル×ドレッドノート』で主演男優賞、『アン』で照明賞のノミネートを受けているのでやみ・あがりシアターという劇団では5つの候補を受けている訳である。ただそんなやみ・あがりも作品賞にはノミネートされず。
逆に作品賞を受賞した『エレモア・ムーブ』は演出と脚本にはノミネートされず。
良い演劇というのは演出・脚本・役者が何より大事だが、そのうち2つ落として作品賞は獲るというのを不思議に思う人はいるんじゃないかしら。
佐吉賞は割と意図的に候補をばらすため、こういうことが起きたりする。
主要部門を20年選手のバンタムクラスステージが獲って、脚本賞が2回目の笠浦と獲る中、2018年旗揚げのサルメカンパニーが最多受賞からの演出賞受賞なので、中々頼もしいなと思う。

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