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第14回せんがわ劇場演劇コンクール の感想

若手演劇人三冠最後のせんがわ劇場演劇コンクールが開催された。

三冠中最もノンジャンル、ルール無用の異種格闘技戦
去年の

今年も全団体を見たのでその感想を書く。


喜劇のヒロイン『いない、いない、いないっ!』

作・演出/新宮虎太朗
一人芝居の上演中、舞台に子供が上がってきてしまった。俳優は見ないふりにして上演を続け。終演後に劇場職員に伝えるとそんな子はいないと言われて。
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とぼけた味わいの不条理演劇。子供がいたと主張しているのに頑なに認めようとしない職員。次第に認識されない者の存在論のような話になっていく。ドタバタコメディタッチも混ぜ込んで、ゴミ捨て場やパン職人など笑いどころもたっぷり。しかし、外部の女性が登場したあたりから不条理の向こうの現実が見え始める。パン(ヘンゼルとグレーテル)のメタファーもそうだが、作品全体を貫くテーマの描き方が上手い。ステイホーム中という意味、断続的に鳴る音の正体、上から落ちる物、天井の大穴、破壊された舞台美術。伏線を見事に回収して明言せとも現実を浮かび上がらせる。
面白く鑑賞も、戯曲の完成度に比べ上演が傑作にいかない。その理由は、テンポ感がギクシャクしているように感じたの原因か。不条理は早すぎでも遅すぎでも良くない。そこにコメディとメッセージ性も織り込んでいるので難易度が高く、また落下物も存在感が弱かったりで舞台装置も十全の力を発揮できたと言えない。
この戯曲、この劇団ならもっともっと面白く上演できたはず。


屋根裏ハイツ『未来が立ってる』
作・演出/中村大地
内見中のカップル。喋りすぎの不動産屋から事故物件の詳細を聞いている。そんな時に謎の男が現れる。彼は未来からやってきたと自称して。
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ゆるゆるの雰囲気から面白が立ち上がってくる。ちょっとズレた口語演劇から、未来人登場でコメディにドライブしていく。honninman(本業はミュージシャン)演じる未来人がいい人なんだけど見事な個性で一言喋るだけで笑いを生み出していく。あなたは幽霊ですか?とか、i(未来ではもうphoneは付かない)とか笑いどころを外さない。事故物件の詳細話がちの不動産屋もいい。次第に、物件の未来を知ってしまった彼女と彼氏の間に価値観の溝ができていく。
コメディからドラマへのシフトがスムーズ。ここで描かれる軋轢は誰かにとってはしょうもないものかもしれない。未来人も不動産屋も置いて、でもこれからの未来というのは二人にとっては何より大事な話なのだ。ただ恋人同士のじゃれあいに陥る危険を見事に回避、丁寧に二人の心情を描いて人間の姿を浮かび上がらせる。
また、舞台中央に置かれたフローリングの四角形を軸に上演するが、後ろのエリアから四角に飛び乗ることで未来人突然出現を表したり、心理的距離をその四角形に乗る乗らないで視覚的に表す。上手いなぁと唸る。


バストリオ『セザンヌによろしく!』
作・演出 今野裕一郎
山の風景を描いたセザンヌ、街に住む人々の断片。
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 一目見て、仕込みに制限時間のあるコンテストとは思えない美術量。舞台下に机と絵描きセット一覧があり、そこでのペインティング映像はリアルタイムにスクリーンに映され、ドラムに水槽、生木。本編が始まると、舞台上だけでなく客席側から俳優が現れ、会場飛び出し劇場ロビーからもセリフが聞こえる。ドラムにアコーディオン、サックスは自然音のように響く。40分、手数の多さが凄い。濁流のように現れる演出アイデアの数々。
物語というよりイメージのコラージュに近く、山を描いたセザンヌと自然を切り開き作られた町に住む人々。自然の中の人間を、水を水槽に入れる、小麦粉で粘土を作る、戯れのような動きで表現する。このイメージの連なりを難解ととらえるかどうかは人によるが圧倒的な洪水によって皆美を見出すだろう。
ただ終盤、唐突に戦場への言及は人間と自然のコラージュの中で浮きすぎている。これが中盤に置かれていたら、もっと自然になじんでいたのでコラージュは置き方が難しいなぁと。


佐々木すーじん『kq』
作・演出・出演/佐々木すーじん
会場に響く呼吸音。彼の口から発生する音は、徐々に姿かたちを変えていく。
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パフォーマンスはパフォーマンスでも、サウンドパフォーマンス。コンサート会場でもあるせんがわ劇場に響く呼吸音。マイクを通し大音量で聞く呼吸音はこんなにドラマティックなものなのかと。第一楽章、第ニ楽章のように呼吸音で展開を作り出し、現れるは絶対音楽。また、上演時間中しゃがみ続け少し手を動かすだけだがその動きは上品。ダンスで最も難しいのは動くことより動かないこと、という持論があるのである意味コンテンポラリーダンスとしても鑑賞した。30分近く舞台右側でしゃがむだけの光景が続くが終盤になって、空白だった左側にスーパーボールを投げる。なんて劇的な。
ただ。劇場でやるにはミニマルすぎた。眼科画廊やイズモギャラリーでやったら空間が圧縮され最高なんだが、劇場でやるには空間で希釈され長すぎる。少ない手数で勝負するにはスーパーボールだけではまだ弱い。このミニマルアートをせんがわ劇場でどうremixするか楽しみにしていたが。劇場空間に適応していたら優勝候補筆頭もあると思っていたが。でもその一方でミニマルを貫き通す姿に、魅力も感じる。


ポケット企画『さるヒト、いるヒト、くる』
作・演出 三瓶竜大(ポケット企画/劇団清水企画)
森の管理をする男性の話を聞く女性、彼女は好きな漫画の話をする。勉強をする女性は友人に話しかける。やがて北海道という土地の戦争の記憶につながり。
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戦争をどう描くかという問題に意欲が止まらなかったのだろう。物語はいくつものレイヤーが重ねられ、舞台美術は風船やキノコの意匠の舞台美術。木の成長を付箋と糸で表す表現は素晴らしい。勉強と漫画から戦争へスイッチング、過酷な戦場からソーラン節に。戦争という主題をどう描くか、とにかく詰め込んだ渾身の作品だったと思う。
でも空回り。
複雑な構造やアイデアがまとまることなく、関係性や意味が分からないまま最後まで行ってしまった。この作品はコラージュではない、物語である。作者はピースがすべて戦争という軸でまとまる計画で作ったはずだが、作者が思っている以上に要素ごとに隙間があった。繊細なバランス感覚か圧倒的なパワーが必要だが、丁寧な演劇作りだけではどちらも足りず。
赤坂嘉謙の素朴かつパワフルな存在感は目を引いた。

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という訳で全団体見た後の予想はこんな感じ

はっきり言って、バストリオが圧倒的だった。個人的には有名団体よりもっと若い団体に勝ってほしい気もあるが流石のクオリティでねじ伏せてきた。
しかし、決して他団体が劣っているわけではないため他団体も受賞すると予想。
高いクオリティでユーモアと人間関係を描いた屋根裏が観客に愛されるはずとオーディエンス賞。
伏線回収で展開を転換させた喜劇のヒロインが劇作家賞。(また、5団体中3団体が戦争を描いたが唯一戦争という主題を描き切れていたのも加点)。
俳優賞は、honninmanのインパクトで予想。ただ佐々木すーじんのソロパフォーマンスを評価するならばここだろうとは思った。赤坂嘉謙も魅力的だったが他2人と比べると役柄の小ささが気になった。
という訳で、割と固めの予想。さて、結果は





グランプリ/ バストリオ
オーディエンス賞/ バストリオ
演出家賞/ 今野裕一郎(バストリオ)
劇作家賞/ 中村大地(屋根裏ハイツ)
俳優賞/ バストリオ出演者全員

まぁでしょうねぇ・・・えっ俳優賞まで!

圧勝するとは思ったけど、ここまでの圧勝とは思わんかった。オーディエンスにも受け入れられるとは思ったが、優れたストレートプレイがある中ではそちらにも票が別れるんじゃと思ったが、そんなことなかった。
俳優賞は、本当意外。。。アンサンブル評価だったとは思うが、このアンサンブルはグランプリ評価で回収されるのでわざわざ全員を評価するほど圧倒的だったか、疑問。
とはいえ、クオリティのTOP2が受賞したので納得。

せんがわの優勝予想が当たったのはこれが初めて。
圧勝だと思ってたのに無冠を2回繰り返し(盛夏火、せのび)。せんがわと相性が悪いなと思っていたがようやく当たった。
しかしまぁみんな意見は合うだろうなという感じ。











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