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【読書ノート】BUTTER/柚木麻子


BUTTER/紬木麻子 新潮文庫


タイトル:BUTTER
著者:柚木麻子
読了日:2024.3.17
時間:約10時間
ページ数:521ページ

あらすじ
連続殺人事件の容疑で逮捕された女、梶井真奈子。
週刊誌の記者の町田里佳は梶井の独占インタビューに挑む。
梶井と言葉を交わすたびにその欲望への忠実さに振り回されのめり込んでいく里佳。
ミステリーとグルメが融合したページを巡りながら喉奥が渇き潤う濃厚な長編小説。

感想
実際に起きた事件が背景にあるからかリアリティがある印象を受けた。
物語というよりドキュメンタリーみたいな感じ。
ハラハラドキドキの展開やどんでん返しの展開は全くないのに続きが気になって早くページをめくりたくなる作品だった。
話が進むにつれ、登場人物の行動や心情がどう動くのか気になって夢中になってしまった。
主人公の里佳も、友人の玲子も、恋人の誠もそれぞれの過去は壮絶なものがあれどなにか特別なものがあるわけではないのに一人一人にとても惹き込まれた。
おそらく、身近にもいそうだし、自分に置き換えることもできそうな親近感が魅力を引き立てているように感じた。

物語の中で、里佳の出す結論には日頃感じているモヤモヤが言語化された感覚があり嬉しくなった。仕事にたいしても家庭にたいしても自分に投影して解釈することができた。

梶井の本性や本当の気持ちが明らかになるにつれ心がすーっと軽くなった。
私も里佳と同様に梶井に取り込まれそうになっていた。


タイトルのバターは梶井の欲を表す象徴だろう。
バターは溶けてすぐなくなってしまう。そうするともっと欲しくなり欲深くなる。
溶けてすぐなくなるバターは満たされない欲の象徴だ。
その欲は食であり、性であり、愛、家族、友人だろうか。
ずっと満たされない梶井を可哀想だと瞬間に思ったが、梶井はきっと私自身だとも感じた。
誰にでもある満たされない欲は梶井だけのものではない。
その欲望にたいしてどんな行動を取るかで私と梶井の線引きがある。

印象に残った言葉が2つある。
『私が欲しいのは崇拝者だけ。 友達なんていらないの』
梶井の言葉だ。彼女の自信に気高さを感じ、私も崇拝者の1人になりかけた。
が、同時に淋しくて心が苦しくなった。
私は心が弱いから、友達が必要だ。この弱さが私自身を救ってくれた。
だから独りよがりの気高い梶井は淋しかった。

『自分のために作る』
私は料理が嫌いだ。最も、誰にも言ったことはないが、主人のために作る料理が大嫌いだ。
理由は明確にある。だからこの言葉がとても心に刺さった。
最も単純なことなのに。それができないのは妻だからか、私という女の性格からか。
解釈が大きくなるが、女の在り方ってなんだろう。
いろいろ考えるけど、この言葉通り、「自分のため」が1番しっくりきた。
自分のためか、、、心が軽くなった。


この本を手に取ったきっかけは「なんとなく」でしかないが、
なんとなくの出会いが表現を豊かにしてくれた。


生き方の道筋になるような作品に出会えたことに感謝し結びにしたい。


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