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【Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band】(1967) Beatles アナログレコードで聴いてみた万華鏡のポップワールド

ビートルズの金字塔とも呼ばれる本作。私が初めて聴いたのは1987年でした。忘れもしません。何故ならビートルズが初CD化された記念すべき年だったからです。本作は英国発売日(当時は6月1日と言われていた)から丁度20年後に合わせてのリリースでした。

深夜番組《11PM》でもビートルズ特集があったんです。司会は浅田美代子、松金よね子、ゲスト加藤和彦。マニアを自認するファンが100人ほどスタジオに結集しており、【サージェント・ペパーズ】を50枚程所有していると豪語する猛者も居りました。何故そんなことまで憶えてるか?私、ビートルズが好きで番組を録画したからです。

今ではストーンズ派ですが、私だって最初はやっぱりビートルズ。ジャケットも中身も華やかな本作が大好きで、ひと頃は繰り返し聴いていましたね〜。

本作についてのレビューは私などより詳しい方にお任せして、ここではいつも通りアナログレコードで聴いた私の雑感など記していきます。

先ず始めに、本作に関して私の中で長年解けないでいる謎を紹介させて下さい。本作CD化の直後(1987, 88年ごろ)、FM雑誌《FMステーション》の誌面において今も忘れられない読者投稿がありました。その内容とは、本作1曲目 "Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band" 冒頭の雑踏SEの中に「ポールのアホ〜!」との叫び声が聞こえる、と言うものでした。

街の喧騒が流れる0:09辺り。演奏が始まる直前です。イヤホン、スピーカーで聴いてみてください。耳を澄ますと男性の声で奥から「ポールのアホ〜!」と言ってるのが確かに聞こえるのです。どうでしょう??

この雑誌投稿の一件、私の友人もしっかり憶えておりました。でも不思議とそれ以降は誌面でも一切話題にならなかった。素人が偶然に気が付いた空耳だったのかもしれません。

しかしビートルズといえば、現役時代から何かにつけてポールに曰くが付いて回ったことを忘れてはいけません。やれ【マジカル・ミステリー・ツアー】のポールだけが胸に黒いバラを刺していた。やれ【アビー・ロード】のジャケットのポールだけ裸足で横断歩道を渡っていて、駐車してある車のナンバープレートが彼の年齢と一致していた。だからポールは死んでいる!といったコジツケのような死亡説です。

その線でいけば、この「ポールのアホ!」も日本のビートルズマニアが、「実は来日時に日本語を覚えたジョン・レノンが面白がって入れた」、なんていうデマで盛り上がっても良さそうなものです。でもビートルズ学問の書籍でも触れられていない所をみると(多分)、やっぱり空耳だったのでしょう。
それでもこうした深読みすら許されてしまうのがビートルズ。やはり天下のビートルズです。こんな小ネタは世にごまんと溢れているのでしょうね。

ちょっと一曲。

サイケデリック期に入ってからのジョン・レノンは、いよいよ奇才ぶりを発揮してきた感があります。 "Lucy in the Sky with Diamonds" のファンタジーな浮遊感。この時代でなければ書けなかった曲でしょう。

(アナログレコード探訪)
〜①良質な東芝音工のビートルズ〜

先日、気になる記事がありました。

ginger.tokyoのオーナーさんが【サージェント・ペパーズ】の日本盤レコードを、東芝音工盤、東芝EMI盤で聴き比べてみたところ、圧倒的に前者の音が良かったという投稿です。東芝が英国EMIとの合弁会社、東芝EMIと社名変更したのが1973年10月のこと。これを跨いだ前後2枚の音比べのお話でした。

私の日本盤【サージェント・ペパーズ】

実はgingerさんがお持ちの東芝音工盤、私が持っているものと同じでした。
品番「AP−8163」、黒盤、定価2000円

本作の日本初回盤はオデオン盤と呼ばれ、品番「OP−8163」、赤盤仕様。私のはアップルレーベル、黒盤ですから、1970~73年の再発盤だろうと推察しています。確かにこれは音が良いと私も思っていました。シッカリ音が出ています。

内周無音部「YEX−637」刻印

その理由は、おそらく良質な英国マスターコピーからカッティングしたからだろうと思われます。内周部に原盤マスターらしき番号が刻印されているのが何よりの証拠。勿論、東芝エンジニアの技術力が素晴らしかったことは言わずもがなです。
ドッシリとした【サージェント・ペパーズ】。今回はこの「東芝音工AP盤」の音を基準に各国盤を比べてみます。


〜②【サージェント】は果たしてモノラルなのか?〜

東芝EMIのモノラル復刻盤(86年発売) 

その前にモノラル盤について考えてみます。
写真は80年代の東芝モノラル盤(Red Wax)。東芝では82年、86年の二度に渡りビートルズファンのリクエストに応える形でモノラル盤を復刻しました。世界的にも評価されたシリーズです。
針を落とすと、異常に低音が大きくてベースは地鳴り状態。音塊がひと纏めにスピーカーからせり出してくる感触は、体感として迫力満点ではあります。

本作の逸話として、録音後のビートルズはモノラルMIXしか立ち会わなかったという話があります。ステレオMIXは不在だったとか。しかしどうもこのエピソードに引っ張られるのか、マニア諸氏を中心に、本作はモノラルMIXで聴くべし、みたいな風潮を強く感じるのですが、私は疑問を感じます。

本作の魅力は多重録音です。ひと纏めのモノラルMIXではやはり勿体無い。そもそもサイケデリックとは音響技術の発達に伴ったムーブメントです。左右分かれたステレオMIXで聴いてこその醍醐味だと私は思うのです。たとえそれが稚拙で古臭いステレオ定位だったとしても…。


ここで一曲。

クラシカルな弦楽奏のアレンジも堂に入った "She's Leaving Home" 。ポール・マッカートニーの麗しき一曲です。メロディ・メイカーぶりもさることながら、ジョンが歌うカウンターコーラスも素晴らしい。古城に迷い込んだ気分です。


〜③キャピトルの横暴に対するビートルズの挑戦〜

米国盤ジャケットは発色がやや濃い目
上下は黄色と白色で縁取り
ペッパー提督のキット
これで仮装した人はホントにいたのでしょうか?
米国キャピトル・レコードの初回盤
マトリックス10/10

ビートルズの米国盤はキャピトルです。音は東芝盤と比べて全体的に高音がキツめ。シャリシャリしてます。米国ではラジオ放送を念頭に置く為なのか、こうした音が多い気がします。ずっと聴いてると耳が疲れます。

キャピトルではビートルズのアルバムを独自の内容で発売していました。英国盤は完全に無視。シングル曲を挿し入れ、収録曲数を減らすなど自由勝手な編集なので、必然的にリリース数が多く、ショービズの国らしい商品の捌かれ方をしていました。

以前、元音楽ディレクターだった方から伺った話ですが、ビートルズはこの乱暴なキャピトルのやり方を快く思っていなかったそうです。けれども、当時のミュージシャンにはレコード会社に対しての発言力が無かった。
そこで何とか、自分達が創った作品をそのまま出させる方法はないか?と、考えに考えた末に辿り着いたのがトータルアルバムという概念だったそうなのです。
そしてついに【サージェント・ペパーズ】はビートルズにとって初めて全世界共通の作品となります。

あくまで仮説ですが、ビートルズがライブ活動を停止して、スタジオ作業に集中した理由も、もしかしたら自分達の作品は自分達で守る、といった決意表明でもあったのかもしれません。
時折しも、世のトレンドはサイケデリック。音楽シーン全体がアルバム・オリエンテッドな考え方に移行する中で、サイケデリックがトータルアルバムに与えた役割を考えると、実に絶妙なタイミングだったとしか思えません。

なお、1987年のビートルズ初CD化は、世界的に英国盤をオフィシャルと定める重要な取り決めだったことも付け加えておきます。


また一曲。

 ジョージ・ハリスンのインド音楽趣味を反映した"Within You Without You" 。中学の頃、母親が運転する車のカーステレオでこの曲を流していたら「これ、誰?」と母親。ビートルズだと私が答えると、「この人達はこんな難しい事までやるのかい。凄いんだねぇ」と。
美空ひばりしか認めない母親が初めて他を褒めた瞬間でした。ジョージ、あんた凄いよ。


〜④リスキーなビートルズ英国盤〜

英国盤ジャケ、少し発色が薄め
英国パーロフォン・レコード初回盤
マトリックス1/1

さて最後です。イエロー・パーロフォンと呼ばれる60年代のビートルズの英国盤がこちら。
ちょっとここで、ビートルズ英国盤の刻印データについて説明します。

「YEX−637−1」

マスターテープ番号の末尾にあるのがマトリックス番号。私のは「1」。つまり、最初にカッティングされたラッカーマスターからプレスされた盤ということです。
この刻印の位置を時計の6時方向として…

「2」

9時方向に刻まれた数字がメタル・マザーの番号。ラッカーマスターから複製した鋳型の番号です。私のは「2」。

「GMP」

さらに3時方向にあるのがスタンパー番号。レコード盤になる直前の鋳型の番号です。EMI系はグラモフォン・コードというもので記されており、「GRAMOPHLTD」の10文字を十進法の数字に見立てたローマ字で刻印されています。
私のは「GMP」ですから、
G→1、M→4、P→6
つまり、146番目のスタンパーからプレスされた盤、ということになるのです。へー。

いかがでしたか?強者ビートルズコレクターは、こんな所まで拘ってチェックする訳ですね。ハァ恐ろしや…💦

肝心の音ですが、東芝盤と比べても遥かに音圧があって野太く、なおかつ音も鮮明。さすが本国盤といった音です。しかも意外とラウドな音だということも発見でした。

英国パーロフォン・レコード再発盤
(1974~79年のプレス)

実はもう一枚、英国盤を持っています。通称「2EMI」と呼ばれる再発盤。似た音ではありますが音抜けが良く、雑味が消えてスッキリした分、若干音が細くなっています。
発売から10年ほど経過してマスタリング機材の性能も上がり、音の主流も変わったことでハイファイで、よりソリッドな【サージェント・ペパーズ】を感じます。

英国盤は音は良いですが、リスクが高いのも確かです。多くの盤は、60年代のティーンが粗悪なプレイヤーで聴いていたもの。ビートルズの初回盤はキズ物が多いのです!

私はこの初回盤、慎重に念には念を入れて、なるべく安くて傷の少ないものを選んだつもりです。正直に言うと、数年前に9000円程で買いました。しかし、実際にはうっすらノイズも入ってますし、周回ノイズのキズもあります。
ストレス無しで、気楽に楽しむならば、東芝音工AP盤で良いんじゃないかと思っている所です。

アルバムのラストを飾る "A Day in the Life" 。ジョン、ポール、再びジョンと歌い繋げていくアイデアが秀逸。徐々に迫り来るオーケストラアレンジが緊張感を高めます。そして、20数台重ねたという最後のピアノのブロックコード音でジャーン!!ハッと夢から醒めたような気分…。

いつも脱力感に襲われます。【サージェント・ペパーズ】を聴いた後は、現実に戻されたみたいで、暫く何もしたくないですね。

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