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【The Yes Album】(1971) Yes シンフォニックな大作志向への転換作

中学の終わり頃、友人に借りた【危機】にドハマりしました。大袈裟ではなく、まるで死後をイメージさせるような夢想の音世界。
世の中にはこんな音楽があったのかと心底酔いしれたものです。
以来、イエスは自分でも買い集めたいとせっせとレコードやCDで揃えました。が、しかし本作の存在を侮っていました。買ったのは随分経ってからのこと。初めて聴いた衝撃と言ったら…。
シンフォニックなイエスはこのアルバムから始まっていたんですよね〜。

本作は英国のプログレッシブロック・グループ、イエスの3枚目。デビューからのメンバーだったピーター・バンクス(guitar)がバンドを離れた最初の作品となります。
メンバーは、
ジョン・アンダーソン(Vocal)
スティーヴ・ハウ(Guitar)
トニー・ケイ(Piano, Organ)
クリス・スクワイア(Bass, Vocal)
ビル・ブラッフォード(Drums)

初期2枚では今一つ音楽的な方向性を掴みきれなかったイエスですが、ここに来てハッキリとプログレサウンドへと変貌。本作ではバンドの個性となるシンフォニックなロックを早くも確立しつつあるのが分かりますね。

その立役者となったのが新加入のスティーヴ・ハウです。ジャズ、クラシック、カントリー、スパニッシュなど高度なギターテクニックを誇る彼は、多様なスタイルでバンドの音楽性に貢献。アレンジの幅を飛躍的に広げました。これにはきっとメンバーも創作意欲を掻き立てられたことでしょう。

全6曲のうち3曲が9分前後の長尺。各メンバーが持ち寄った曲の断片を連結したのでしょうが、その際の言わば「つなぎ」の役割をハウが果たしており、彼の加入によってどんな曲でもパッチワークのように繋いでいける方法論をバンドは得たのだと思います。


(アナログレコード探訪)

本作はイエスにとって初のヒット作(英国4位、米国40位)。
前作【時間と言葉】完成前にピーター・バンクスは脱退しており、バンドは直後にスティーヴ・ハウを迎えてライブ活動をスタートさせていたようです。本作までにはたっぷりと時間をかけ、入念なリハーサルで新しいサウンドを練り上げていったのでしょう。

〜英米盤の音比べ〜

英国アトランティック初回盤 マト1/1

英国盤はドッシリ低音重視の重い音です。クリス・スクワイアのベースがゴリゴリと鳴って、やたら目立ちます。5人の誰がリーダーなのか良く分かる音です(笑)。各メンバーのソロが適宜前に出てきて、全体が非常にバランスの取れたミックスと言えます。

米国アトランティック初回盤 マトB-1-1/B-1-1

一方、米国盤は音量が大きく迫力抜群。一聴して分かり易い音ですが、ずっと聴いてると、うるさいですね。まるでミキサー卓のツマミを全部マックスにしたみたいで、全ての音が主張してきます。しかも高音域がキンキンしてちょっと疲れるかも💦

盤の内周無音部には「AT/GP」とジョージ・ピロスの刻印。この方、アトランティック盤に良く出てくる名前で、同社のエンジニアだったようです。彼のカッティングした盤はツェッペリンの記事でも書きましたが、高域を引っ張り上げた派手な音が特徴的。

正直、音なんて好みです。だけど私は最近、レコードの音って結局バランスが大事だなぁと思うようになりました。音がデカければイイってもんじゃない。アナログの奥義です。
ん〜、去年辺りに偉そうに書いてた事と違っててスイマセン💦

見開き内側は何故かトニー・ケイが大写し


〜曲紹介〜

Side-A
① "Yours Is No Disgrace" 9:40
新生イエスの方向性を示す疾走感あるナンバー。歌唱部分はごくシンプルな繰り返しですが、間奏で毎回違ったセクションが登場。
この頃のイエスは幾らでも曲を膨らますことが出来たのでしょう。映像はビートクラブ。長尺ですが、ハウの細かいギター捌きが演奏をリードしていますね。


② "Clap" 3:16
ハウ独壇場のアコースティック・インスト。クラシック、ラグタイム、スパニッシュ…色んな要素が満載。映像では余裕で弾きまくる姿が拝めます…圧巻。

③ "Starship Trooper" 9:29
a. "Life Seeker"
b. "Disillusion"
c. "Würm"

Side-B
① "I've Seen All Good People" 6:55
a. "Your Move"
b. "All Good People
キャッチーなメロディが印象に残る重要なレパートリー曲。イエスはコーラスワークも上手く、アカペラから始まるこの曲などはその実力の程が窺えます。前半は牧歌的なアレンジ、後半はロックアレンジ。前半の "Your Move" の箇所を。

② "A Venture" 3:20

③ "Perpetual Change" 8:57
シンフォニックなイエスの到来を告げた長尺曲です。ジョン・アンダーソンの伸びやかな歌声とファンタジーな音世界が広がって何とも夢心地、私大好きです。
面白いのが5:10辺りから。新しいリズムセクションが登場するもゆっくりと左側へパン。メインフレーズが右側からフェイドインすると、正面からハウの歪んだギターが加わり、3つの異なるメロディが同時に流れるというプロデューサーのエディ・オフォードによる奇天烈なテープ編集。よく考えたなぁ…。
イエスは演奏力だけでなく、スタジオギミックも最大限に駆使したバンドだったことを証明しています。


長い歴史のイエスですが、彼等のサウンドの源泉は間違いなく本作です。ここから鍵盤がリック・ウェイクマンに替わって【こわれもの】【危機】と連なるスリリングな作品群こそ、イエスが真にプログレッシブだった時代だったと思います。

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