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【The Pentangle】(1968)卓越した技術の孤高の英国フォークバンド1st

今回は少しマニアックに英国フォークのバンドを取り上げます。
1960年代末に英国では重要なトラディショナル・フォークバンドが3つ誕生しました。
フェアポート・コンヴェンション、スティーライ・スパン、ペンタングルです。

3バンドとも女性ボーカリストを擁したことで共通しているのですが、超絶技巧から繰り出されるクールなサウンドで飛び抜けた存在だったのがこのペンタングルです。
記念すべきこのデビュー盤は、英国フォークの歴史にユニークな形を提示した名作と言えます。

ペンタングルは、バート・ヤンシュ、ジョン・レンボーンという英国きっての卓越したギタリストを中心に、紅一点のジャッキー・マクシー(Vo)、ダニー・トンプソン(B)、テリー・コックス(Dr)の5人で1967年に結成。72年の解散までに6枚の作品を残しています。

フォーク、ブルース系のバート・ヤンシュと古楽、クラシックにも傾倒するジョン・レンボーンの2人に、ジャズ畑のリズムセクションを加えた異色の編成で、英国トラッドやオリジナル楽曲を軸に独自の解釈で活動を続けました。
ストイックな姿勢はややもすれば学究的で孤高のフォークバンドのイメージが強いのですが、彼等のこのデビュー作の衝撃度は圧倒的です!

本作を分かり易く説明すれば「英国フォーク+ジャズ」。
ダブルベースの豊かな低音が鳴り響き、ブラッシング主体のドラムがビートを刻む。そこに2本の超絶アコースティックギターが絡み、ジャッキーの澄みきった歌声が重なる…。
そんな、いも言われぬスウィンギーで凛としたフォークミュージックを聴かせています。
演奏は全て生楽器。ピンと張り詰めた空気がスピーカー越しにも伝わってきます。

フォークとジャズをブレンドして即興演奏も加えた彼等の音楽は、当時としては相当に斬新なものだったと思いますね。


〜英国トラッドフォークとロック〜

ところで英国トラッドとロックの繋がりはやはり深いです。ブリティッシュロックの作品にはトラッドからの引用が多いことは良く知られていますが、米国SSWにもかなり影響を与えています。

【バート・ヤンシュ】(1965年)

これはバート・ヤンシュのソロデビュー作。ここに収録された "Angie" という曲の作者は英国フォーク界でも崇拝されるギターの達人デイヴィ・グレアムという方なのですが、同曲はサイモン&ガーファンクルのアルバム【サウンド・オブ・サイレンス】(66年)にも収録されているのです。

デュオを一時解消していた頃、ポール・サイモンが渡英の際に覚えた曲だろうと言われています。ちなみに有名な"Scarborough Fair"も英国の伝承バラッドです。確かに彼のギターって米国フォークにはない湿り気がありますよね。

またギター奏法に関しても、ジョニ・ミッチェルやスティーヴン・スティルスらが好んだ変則チューニング「DADGADチューニング」(6弦からの調音で命名)などは、元々英国やケルトのギタリストが使っていたものです。
ボブ・ディランも英国の伝承曲を取り上げていますし、両者の関係は奥深いですね。

私は歴史に詳しくありませんが、古くはヨーロッパの移民がアメリカ大陸に渡ってきた時にトラディショナル曲や霊歌を持ち込んできて、それがやがて米国ルーツ音楽として発展していった…というようなことを読んだことがあります。
そうしてみると、音楽の歴史そのものが異種交配の歴史なのでしょうね。

(アナログレコード探訪)
〜東芝盤を左右する運命の別れ道!〜

東芝音楽工業の日本盤、こちらA面
B面にまとめて曲名が表記

本作の日本初回盤は日本ビクター。1969年に発表していたようです。
私のは東芝音楽工業に版権が移ってからの再発盤。ライナーの内容から判断して73年の発売と推測しました。ネットで調べてみたところ7月20日発売。

レーベルデザインは本作の原盤である英国トランスアトランティック・レコードがこの頃に使用していたものに倣っています。

この東芝盤、驚くほど音が良かったです。
高音も低音も張りがあって、こんな日本盤があるのかと思う程シッカリした音でした。

内周部に「TRA-162」と刻印

内周部には英国盤の規格番号が刻印されており、英国マスターの2次コピーで作製したか、或いは英国スタンパーから直接プレスした等が良音の原因なのかなと想像しています。
JISマークがあるので日本で生産されたのは間違いないですね。

ちなみに東芝音楽工業は、この年1973年10月に英国EMIから資本参加を受けて、東芝EMIと社名が変更。本盤はその直前のものです。

アナログ盤を収集する者として、私の場合、少しでも古い盤が欲しい。少しでもマスターが新鮮な内にプレスされた盤が欲しいのです。
東芝音楽工業なのか?東芝EMIなのか?ここは非常に大事(!!)だったりします。レコ屋で東芝盤を見つけた際は、必ずジャケット裏を確認してしまう私です💦


〜曲紹介〜

Side-A
① "Let No Man Steal Your Thyme" 2:37
英国トラッド曲。冒頭からダブルベールを弓弾きする低音が轟いて、一気に緊張感漲るペンタングルの世界に引き込まれます。
ジャジーな演奏をバックに、ジャッキー・マクシーの澄んだ歌声が英国フォークの陰鬱なメロディを歌い上げています。

② "Bells" 3:52
彼等の演奏技術の高さを示すオリジナルのインストゥルメンタル。
映像はデビュー間もない1968年のTVライブ。左端ジョン・レンボーン、右端バート・ヤンシュ。2人がテーマを弾き終えると、テリー・コックスをフューチャーしたドラムソロ。完全なジャズですね。歌と即興演奏を両立させるバンド方針がよく分かります。

③ "Hear My Call" 3:01

④ "Pentangling" 7:02
プログレッシブ・フォークと呼べそうな彼等のオリジナル曲。白熱した演奏です!
物哀しい歌メロディに、緊迫したギターとベースの即興パート。終盤はエスニックなノリも加えた別の曲調へと目くるめく七変化。かなりスリリングな内容はほぼロックですね。


Side-B
① "Mirage" 2:00

② "Way Behind the Sun" 3:06

③ "Bruton Town" 5:05

④ "Waltz" 4:54

本作発表の1968年にはフェアポート・コンヴェンションもデビュー。翌年エレクトリック楽器を使ってトラッドを演奏するという画期的な発想に向かっていきます。
この時代は保守的なフォークの世界にも変革の波が押し寄せており、ペンタングルの本作にもその予兆がシッカリと感じられます。

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