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【Blue River】(1972) Eric Andersen 不運のシンガー エリック・アンダースンの名作

シトシトと雨が続く日には、深く心に沁み入るような静かな音楽が似合います。

米国フォーク系SSWの系譜を辿っていくと必ず目にするエリック・アンダースンのこの【ブルー・リバー】という作品。
誰にも知られた作品という訳では無いのですが、これが何とも素敵なんです。最近の私のお気に入り。
先日、雨降りの薄暗い昼下りに自宅でまったり聴いていたら雰囲気がピッタリ。その美しさについ魅了されてしまいました。。

エリック・アンダースンを調べてみると1943年生まれ。65年にフォーク、ブルース系のレーベル、ヴァンガードからレコードデビューしますが、当初は弾き語りのローカルシンガーだったようです。世代的にもボブ・ディランからの影響を受けていたのでしょう。

その後なかなか芽が出ないところを、コロンビア・レコードが彼の才能を見込んで契約。1972年に発表したのが本作【ブルー・リバー】です。

録音はカントリーの聖地ナッシュビル。
David Briggs (key),  Weldon Myrick (steel gt), Norbert Putnam (b)、Kenny Buttrey(dr)といった地元の伝説的スタジオバンド、エリアコード615出身のメンバーを中心に、ナッシュビルのセッションミュージシャンが名を連ねています。プロデュースもNorbert Putnam。

本作はシンプルに楽曲、演奏が美しいです。エリックの内省的な感性で紡がれた作品が、プロ集団の控え目な演奏によって引き立てられ、1つ1つ繊細な輝きを放っています。
作品全体にも流れがあって、まるで一編の物語を聴いているようです。


(アナログレコード探訪)
〜エリック・アンダースンの歴史〜

名作【ブルー・リバー】を世に送り出したエリックですが、決して恵まれた音楽人生ではなかったようです。
コロンビア2作目となる予定の作品【ステージズ】を録音後、マスターテープが紛失してしまうのです。エリックは意気消沈で活動も停滞。音楽シーンは移り変わり、コロンビアとも解約。ミュージシャンとして一番油の乗っていた時期を奪われてしまったのでした。何という不運…。

エリック・アンダースンのキャリアに興味が湧いた私は、昨年彼のLPをいくらか集めてみました(非常に安い)。簡単にご紹介します。

【'Bout Changes 'n' Things Take 2】 (Vanguard, 1967年) ジャケットが若い!弾き語りだった第1集に伴奏を加えて再録した作品。フォークロック的な内容です。プレスリーも歌った"That's All Right Mama"など収録。
【A Country Dream 】(Vanguard, 1969年)
ナッシュビル録音でバックはエリアコード615。
長閑なカントリーフォークの好盤です。オーティスの"(Sittin' on) The Dock of the Bay" の朴訥としたカバーなどアーシーな魅力の1枚。
【Avalanche 】(Warner Bros., 1969年)
大手ワーナーに移籍した1作目。一部に大胆なストリングスが施されて、曲も精彩に欠ける印象。
サントラのようなジャケットも違和感アリです。
【Be True To You】 (Arista, 1975年)
アリスタ1作目。幻の【ステージズ】楽曲の再録も、加飾なアレンジで雰囲気は一変。シーンの潮流には逆らえない音楽ビジネスの非情を感じます…。
【Sweet Surprise 】(Arista, 1976年)
アリスタ2作目。前作の延長で、快活な西海岸カントリーロック志向。曲もアレンジも良いけれど、【ブルー・リバー】とは別の人です。

小さなレーベルから大手へ渡り歩いた実績はエリックに才能があった証拠ですが、作品ごとに方向性が異なるなど、きっとプロダクション、音楽シーンに翻弄されたキャリアだったのでしょう。
でもエリック本人も意外と環境に順応出来るタイプだったのかもしれませんが…。

ピュアな輝きが保たれた【ブルー・リバー】は奇跡の1枚だったと言えます。


〜曲紹介〜


Side-A
①"Is It Really Love at All" 5:21
アコースティックギターを爪弾きながら素朴な歌い口は、何処かジェイムス・テイラーを彷彿とさせます。バックはエリックの歌に寄り添うようなシンプルな演奏。コーラスとピアノは当時のエリックの奥さんが担当。


②"Pearl's Goodtime Blues" 2:21
本作で唯一のロックナンバー。バックビートが効いてカッコいい。エリックはナッシュビルのミュージシャンと相性が良かったのでしょう。タイトルからしてズバリ、ジャニス・ジョプリンに捧げた曲らしいです。彼女とはカナダを旅する演奏旅行、フェスティバル・エクスプレスで共演した仲間でした。思い出もあったのでしょう。


③"Wind and Sand" 4:30
ピアノの弾き語り。美しく切ないメロディはダン・フォーゲルバーグが書きそうです。
本作のプロデューサーNorbert Putnamは同じ年にダンの1stもナッシュビルで手掛けています。不思議な共通点を感じます。

④"Faithful" 3:15

⑤"Blue River" 4:46
エリックがピアノで弾き語る美しき表題曲。内省的な彼のパーソナルを写し出した静かな世界。サビ部でカウンターメロディを歌うのはジョニ・ミッチェル。彼女はエリックからギターの変速チューニングを教わったそうです。後半はアコーディオンの音色が侘しさを添えます。


Side-B
①"Florentine" 3:31

②"Sheila" 4:37

③"More Often Than Not" 4:52

④"Round the Bend" 5:38
エンディング曲はちょっとゴスペル風。静かな歌い出しから、オルガン、コーラス隊が重なって徐々に荘厳なアレンジ。でも大袈裟にならないのがミソです。何と美しい。神妙な気分でアルバムを締め括ります。


内袋もブルーリバー

シトシトと今日も雨が降っています。
スピーカーからエリックの歌声が、湿った部屋の空気を震わせています…。
純真なSSWが放つ輝きは儚くて美しいもの。一瞬の眩い光だから余計に愛おしさを覚えます。【ブルー・リバー】はひっそりと一人で聴いていたい、そんな作品です。

さて、これで今回の【ブルー・リバー】はおしまい。いかがでしたか。本作が皆さんのライブラリーの大切な1枚となることを祈って…。昭和のライナーノート風に締めます💦

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