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【Led Zeppelin Ⅱ】(1969) アナログ盤で辿ってみたZEPⅡ妄想記

デビュー作で新しい時代のハードロックを切り拓いたレッド・ツェッペリン。そこからたった9ヶ月後に発表された本作【Led Zeppelin Ⅱ】は彼等の人気を決定づけた作品と言えるかもしれません。
ギターリフを中心に据えたエレクトリックな重量感、静と動の対比で浮かび上がるダイナミズム。混沌としたカッコ良さがありますね〜。

ブルース、フォーク、エスニックなど様々な要素を、計算し尽くされた構成で圧倒するのがデビュー作ならば、本作2ndはライブバンドとしての猛々しいエネルギーを盤に封じ込めた…私にはそんな印象なんですよね。

今回はアナログ盤で見てみる【Led Zeppelin Ⅱ】。当時のエピソードを交えながら、本盤から窺えるツェッペリンについて考えてみました(^^)

ツェッペリン作品のリリースデイトを見てみると興味深いです。1stも2ndも英国より先に米国で発売されているんですよね。
発売元のアトランティック・レコードが米国資本だったことが一番の要因なのでしょうがヤードバーズからの経験を踏まえて、米国で一気に勝負をかけてやろうというジミー・ペイジの狙いもあったかと思います。
ペイジにとって米国市場の制覇は悲願だったに違いありません。

〜米国初回プレスは轟音盤〜

ハードロックバンドとしての足場を固めた本作【Led Zeppelin Ⅱ】ですが、米国での初回盤が轟音盤としてマニアの間で知られていることを御存知でしょうか?

通称「HOT MIX」と呼ばれるこの初回盤は、通常のレコードより音圧高めにカッティングされたそうです。レコードの鋳型番号となるマトリックスはA〜Cまでの3種類、担当エンジニアだった名匠ボブ・ラドウィックの署名「RL」が内周部に刻印された盤、これがHOT MIXに相当するという事です。現在の市場価格で数万円のレアアイテム。私は未聴ですが中古屋で尋ねたところ、確かに音はデカいという話でした。

このHOT MIX、実際に発売当時は安物のプレイヤーだと針飛びを起こす程だったらしく、クレームもあったらしいです。
やがてアトランティックレコード重役の令嬢が自宅にあった本盤を学校で流したところ、やはり針飛びが発生。これが決定打となり、HOT MIXは直ちに回収騒ぎへと発展、という逸話が残されています。
以降、【Ⅱ】は別のエンジニアが起用され、米国盤は音圧を抑えてカッティングしたものが流通。マトリックス「D」以降がそのプレスという事になっています。

さてここで私の所有する【Ⅱ】を紹介します。米国アトランティック盤のオリジナルですがあくまで初期盤の1枚です。

緑&赤レーベルで、下部にBROADWAYの表記
は1973年までのプレス

この盤はマトリックスがA面「T」B面「U」。初期盤といっても後発のプレスでした。
HOT MIX回収後、最初のマトが「D」なのでアルファベット順に数えるとD……T、Uは17、18番目!! つまり米国では回収以後、73年までに少なくとも17、18回はラッカー盤を切っていたことになります。1枚のラッカー盤からプレス出来るレコードは数万枚。全米中の工場が稼働したことを考えると猛烈な勢いで売れていたんですね、本作は💦 

ちなみに私のこの盤、何故かB面が音圧高め。HOT MIXを連想させるような大音量でした。 "Heartbreaker" のイントロが部屋中に響き渡る快感……あぁ音の洪水。


〜英国盤が抱えたクレジット問題〜

一方、同じ頃に英国盤はクレジットで厄介な問題に直面していました。

A面の3曲目"The Lemon Song"が、シカゴブルースの重鎮ハウリン・ウルフの"Killing Floor" に酷似していると出版社からクレームが入りやむなく2ndプレスから一時期 "Killing Floor" と変更せざるを得なくなったのです。(後に和解して作者にウルフの本名チェスター・バーネットを加えて"The Lemon Song"に戻る)

英国アトランティック盤、マトA/5 B/4
A面3曲目が"Killing Floor"の表記

この他にもヒットした"Whole Lotta Love" がマディ・ウォーターズの歌った"You Need Love" から歌詞を引用したとされ、80年代に作者のウィリー・ディクソンから訴えられて敗訴。(賠償金を支払った上に以後ディクソンも作者に併記)

ジミー・ペイジの作曲における、盗作か?モチーフか?の微妙な匙加減は、英国フォークから黒人ブルースまで広く問題視されましたが、ツェッペリンの桁違いの成功が、この頃から既に金銭にまつわる裁判沙汰へと繋がっていたようです。



〜英米盤の音質の違い、再発で消えたプラントの声〜

米国盤と英国盤をそれぞれ聴き比べてみると随分と感触が異なります。
米国盤は中高音が上ずったようなメタリックな音色。ロバート・プラントの歌が前にせり出して、全体に派手な印象。
一方、英国盤は低音が際立つヘヴィで沈んだ音色。プラントの歌も控え目。やや暗い音像の中をジョン・ボーナムのドラム、ジョン・ポール・ジョーンズのベースが地鳴りのように響きます。

さて、ここで興味深い盤を紹介します。アトランティックの米国再発盤です。

下部にROCKFELLERの表記とワーナー・ブラザースのロゴマーク(W)も付いた1975年以降のプレス

規格番号がSD 8236→SD 19127へと変更しており、ジャケットにはバーコードは無かったので、多分1977年から数年間のプレスかと思われます。A面はコロンビアの委託プレス。 B面はマスタリングを担当したジョージ・ピロスのAT/ GP刻印。

音が全然違います。米国初期盤から更に高音を引っ張り上げたような感触で、とにかくクッキリと明瞭な音。そしてプラントのボーカルがやたらとデカい!ハイハットもシャンシャン聞こえて、ある意味Hi-Fiな【Ⅱ】。

そして、聴き逃しそうになった一点が。 "Whole Lotta Love" のド頭で聴こえたプラントの笑い声? or 咳払い? みたいな音がカットされているのです!しれっとギターリフからスタート。勝手に消したのでしょうか??(CDでもちゃんと収録されています)
再発盤とはいえ大雑把な米国人らしい。音も軽くてちょっと疑問の残る1枚でした。


〜ジミー・ペイジが示した結論〜

2014年に開始したジミー・ペイジ監修のツェッペリン新規リマスターシリーズ。一説にはペイジが厳重に保管してきた当時のメタルマスターを用いて手掛けた?とも噂される、渾身のプロジェクトでした。

私は最近この新装版を聴いて納得しました。
重く沈んだ鉛のような音。轟く低音。リマスター盤はまさしく英国盤を下地にしたサウンドだったのです。あー、やっぱりペイジが望んだ音はこれだったのだなぁ〜。

侮れない2014年リマスター盤なのデス

HOT MIXの一件に関しても、アトランティック側が意図的に操作したとしか考えられません。名匠ボブ・ラドウィックも何らかの指示を受けた可能性もあるでしょう。

これは私の想像ですが、プロデューサーのジミー・ペイジも与り知らぬ所で、ツェッペリンは「ただの音のデカい轟音バンド」として米国で売り出されようとしていたように思うのです。それこそザ・フーにも匹的するようなギネス級の騒音バンドとして。

個人的な感想ですが、ツェッペリンのレコードは3枚目以降、英米で音の差が随分となくなった気がします。ライブ盤をなかなかリリースしなかった事実も踏まえると、一連の出来事をきっかけに、ジミー・ペイジはバンド経営には音源管理が不可欠だと痛いほど思い知ったのではないでしょうか。

〜最後に〜

ツェッペリンは本作で遂に全米チャートを制覇します。ビルボード1969年12月最後の週のアルバムランキングは何とも象徴的です。
1位【Led Zeppelin Ⅱ】2位ビートルズ【Abbey Road】3位ストーンズ【Let It Bleed】…。
60年代の最後の最後で、名実ともに世代交代をイメージ付けた訳なのです。皆さん、最後まで読んでくれてThank you!

本作のラウドで野太いハードロックサウンドは、少々の困難など薙ぎ倒していくような勢いがあります。
音を浴びる、とはこういうアルバムのことだなぁ、などと思いながら今、爆音で本作を聴いているところです(^^)


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