見出し画像

【Song to a Seagull】(1968) Joni Mitchell カナダの天才SSW処女作

明けましておめでとうございます。今年も
どうぞ宜しくお願いいたしますm(_ _)m

年が明ける直前の雰囲気って良いですよね。私は《ゆく年くる年》のあの厳かな感じってとても好きなんです。雪が少し積もった何処かの寒そうなお寺で、住職が鐘をついてるシーンなんかはたまらなく情緒を感じます。

しんしんと冷える正月は、耳にする音楽も静寂なのが良い。凛とした本作などはピッタリかもしれません。
今年最初に取り上げるのはジョニ・ミッチェルのデビュー作です(^^)

昨年《ローレル・キャニオン 夢のウエストコースト・ロック》という映画を観てきました。
1960年代後半、アメリカ西海岸LAのハリウッド・ヒルズにある自然豊かで長閑な地区、ローレル・キャニオンの地に次々と移り住む新進気鋭のミュージシャンたちが、自由なコミュニティの中で音楽を創り出し、西海岸のロックを牽引していく様子を描いた映画です。

ザ・バーズ、バッファロー・スプリングフィールド、モンキーズ、ママス&パパス、ジャクソン・ブラウン、イーグルスなどローレル・キャニオンの住民たちの写真や映像と共に、当時を回想する関係者の証言ナレーションも興味深くて、ロックファンにはかなり楽しめる内容でした。

この映画で一際目立って見えたのがジョニ・ミッチェルです。ロングヘアで金髪のルックス。瑞々しく気品ある彼女の存在感は特別でしたね。
ジョニはローレル・キャニオンに訪れると、早速皆の前で自作の曲を聴かせるのですが、その場に居合わせたエリック・クラプトンが彼女の歌声と変則チューニングのギターに聴き入り、マジマジと凝視している写真が可笑しくて、なかなか貴重なひとコマとして印象に残りました💦

圧倒的な自己の世界観を歌い上げるジョニの姿は、ローレル・キャニオンでもちょっと次元の違う才能が現れた、という感じだったのだろうと思います。

彼女のデビュー作である本作は1968年3月に発表。
プロデューサーのデビッド・クロスビーは、ザ・バーズを辞めたばかりの頃にマイアミの小さなクラブで歌っているジョニを発掘。その時の感動をそのまま吹き込みたかったようで、余計なアレンジはせず、ただただジョニの歌と演奏だけを捉えた簡素なレコードとなっています。

少しモヤがかかった中、歌とギター、ピアノだけが神秘的に響き渡る凛とした世界。まるで彼女の中に渦巻く心的情景を描き出したような作風です。所謂スリーコードのフォーク歌手とは異なる佇まい。

やはり個性になっているのは変則チューニングのギターの音色です。ジョニはこれを同郷カナダの歌手エリック・アンダーソンから教わったそうです。
幼少期の病気で握力が弱いことも原因ですがジョニ本人によればレギュラーチューニングでは表現領域が狭くなるので変則チューニングを好んだらしい。
確かにこの独特な響きは、複雑で深みのある感情表現をイメージさせますね。カナダの作家特有の感性とも言えそうです。

ちなみに本作はA面が「街にやって来た」、B面は「街を出て海辺へ」とコンセプトで分けられています。

米国リプリーズ・レコードの後発盤。
通称タンと呼ばれる一色刷りのこのレーベルは1970~74年のプレスです。時代遅れのフォーク歌手と取られ、レコード会社契約も苦労したそうです。当初のモヤがかったミックスを、ジョニ本人は不満だったそうですが神秘的にも聴こえます。
画才にも優れたジョニらしい芸術的アートワーク。
新人には珍しくダブルジャケットで歌詞も掲載。
既に作家としての知名度もあったのでしょう。



Side-A (I Came to the City)
① "I Had a King" 3:37
冷たく張り詰めた冬の空気のような世界観が目一杯広がります。憂いを帯びたギターの音色、ソプラノの歌声。独創的な音世界が既に確立されてますね。
私には王様がいた。恋人を王様に喩えて、恋の終わりを歌っています。


② "Michael from Mountains" 3:41


③ "Night in the City" 2:30
本作で唯一ベースギターの入った曲。
録音中に隣のスタジオにいたバッファロー・スプリングフィールドのスティーヴン・スティルスが急遽担当。ピアノも入ってますね。
こちら当時のTV出演時の弾き語り映像。リズミカルなギターストロークにも非凡な才能を感じます。


④ "Marcie" 4:35


⑤ "Nathan La Franeer" 3:18


Side-B (Out of the City and Down to the Seaside)
① "Sisotowbell Lane" 4:05


② "The Dawntreader" 5:04
どこまでも美しい曲ですね〜。
ギターの低音と高音の弦をうまく響かせながら美意識のままに進んでいくメロディ。ジョニのソプラノボイスと溶け合って、抽象的だけど凛とした彼女だけの世界です。
歌詞に出てくる夢を追う海の男とは、当時恋人だったデビッド・クロスビーらしい。


③ "The Pirate of Penance" 2:44


④ "Song to a Seagull" 3:51


⑤ "Cactus Tree" 4:35
これまた美しい。朝もやの森の中を彷徨うイメージが湧き上がります。
どんなに恋に落ちようと、自由でいることを希求する女性が主人公の歌詞。まさしくジョニの生き方そのものですね。
こちらは本人監修で行われた2021リマスター版の音源です。


出発点から天賦の才を感じるデビュー作です。
ジョニがローレル・キャニオンに住んだのは1968~71年頃だそうで、おそらく本作発表した後くらいに訪れたのでしょう。

才能豊かなミュージシャン達との自由闊達な交流の中、ジョニも恋をしながら、自身のセンスにも磨きをかけて、これ以後素晴らしい曲を書いていきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?