【Hejira(逃避行)】(1976)Joni Mitchell 気高き天才の到達点
70年代に活躍した女性シンガー・ソングライターの中で、私が最も好きなのがジョニ・ミッチェルです。理由はズバリ言ってこのアルバム【逃避行】を作ったからです!
ジョニの作品にも色んな人気作があります。【ブルー】じゃないの?とも言われます。
でも私にとっては本作が問答無用の大名盤。生涯5本の指、いや3本の指に入る傑作として長く愛聴してきたアルバムです。
ジョニとの出合いは、遥か昔、雑誌「チケットぴあ」の懸賞で、映画「ラスト・ワルツ」のVHSが当たり、そこでザ・バンドと共演する彼女の姿を観たのがキッカケでした。
劇中で演奏する「コヨーテ」を聴いた瞬間、あぁ自分はきっとこの人の音楽を好きになるだろうな、と直感したんですよね。
実際に数年後、ジョニのCDを買い揃えていました。
数多い作品群の中でも、ダントツに惹き込まれたのがやはり「コヨーテ」収録の本作でした。心酔したと言った方がいいかも知れません。
カナダ人だからなのか、元々冷ややか感触の作風の方ですが、本作では更に醒めたようなドライな寂寥感があります。
【コート・アンド・スパーク】(74年)からジャズ、フュージョン路線に踏み込んでいった彼女が、誰も辿り着けない領域の音楽へと到達したような印象のアルバムです。
・米国盤レコード
米国アサイラム・レコードのUS盤。
冬のカナダでしょうか?雪原をバックにジョニの姿を、さらにハイウェイの写真をコラージュした芸術的なジャケットです。ノーマンシーフとジョエル・バーンスタインの写真。
彼女の感性と本作のテーマでもある旅を匂わせる素敵なデザインです。
ダブルジャケットの裏側は実は正面と繋がっていて、花嫁とアイススケーターが写るややシュールなショット。求愛とか何かテーマがあるのかもしれません。
しかし物凄く広い雪原ですね〜。
ジャケット内側にはジョニ本人が滑ってる姿が。さすがカナダ人。
全曲の歌詞、参加ミュージシャンのクレジットが掲載。
アナログ盤の本作ですが、他のジョニの作品より若干音量が小さい気がします。たぶん収録時間が52分と、アナログにしては長いからかと思います。
長時間を盤に刻むと溝が隣り合って針飛び等の原因になるらしく、技術的な問題でレベルを落としたのではと推測します。
・英国盤レコード
こちらはUK盤。紙質が少し違うだけでジャケットもインナーも全てUS盤と同じです。
さて音に関して私の場合は、US盤の方がクリアでMIXバランスも整って良かったです。
UK盤は両面マト1ですが、音がこもり気味で何故かボーカルが大きめで聴いていて気になりました。
【Hejira(逃避行)】(1976)
A-①「Coyote」
②「Amelia」
③「Furry Sings The Blues」
④「A Strange Boy」
⑤「Hejira」
B-①「Song For Sharon」
②「Black Crow」
③「Blue Motel Room」
④「Refuge of the Road」
リズミカルなギターのストロークから始まるA-①はギター、ベース、パーカッションだけの簡素なアレンジ。これが本作の特徴的なサウンドです。何と言ってもゲスト参加のジャコ・パストリアスのベースが素晴らしい!
本作で4曲参加してますが、彼のフレットレス・ベースから奏でられる自由自在なフレーズが本作の浮遊感ある音像を決定づけています。ちなみにジョニの弾くギターはアコギに聴こえて、実はホロウボディのエレキだそうです。
A-②は米国の女性飛行士アメリア・エアハートをモチーフにした曲。後に飛行中に音信不通となるアメリアへの想像フィクションを加えながら、自分自身を重ねていく私的な歌詞です。
幻想的な響きのギターが素晴らしいですが、ジョニの変速チューニングのギターサウンドも本作で遂に極めた感があります。
冬の寒々しいイメージが湧き上がる美しいメロディとサウンド。全編に渡って美しい装飾音はラリー・カールトンのギター。いい仕事してますね。名曲です!
A-③はメンフィスの黒人繁華街に年老いたブルースマンを訪ねていく視覚的な歌詞がドキュメント映画のような哀歌。憐れみとも尊敬とも取れるような心情が、荒涼とした曲調に乗ってリアルに伝わってきます。
バックはL.A.エキスプレスのリズム隊。寂しげなハーモニカを吹いてるのは同郷のニール・ヤング。泣けます。刺さります…。
タイトル曲のA-⑤。ジョニのギターとジャコのベースが叙情豊かに音楽を描いて行きます。浮遊感あるサウンドが延々と続いていくよう…。
心地良い音とも違う、何処か哀しげで荒涼としたこの音世界が本作の最大の魅力だと思います。寒い日に独りで聴くと沁みますね…。
当時ジョニ本人が大陸横断の旅を続けながら自己を見つめ直した告白調の歌詞もこの音楽とマッチしてるように思います。
B-③はオリジナルなのに古いジャズスタンダード曲のような趣き。本作で唯一暖かみを感じる曲です。演奏も渋いですが、ジョニのジャズシンガーぶりもこなれていて、つい聴き入ってしまいます。
ラストB-④もジョニのギターとジャコのベースが共演するナンバー。
邦題 "旅はなぐさめ" 通りに傷心の旅を終えてやがて日常に帰っていくような、そんなイメージの曲調と歌詞です。アルバムのクロージングにはピッタリな気がします。名曲!
やっぱり何度聴いてもスゴいアルバムだなぁと思ってしまいます。言葉では言い表せません。既成の枠を超えて、彼女だけの高みに昇華した音楽のように感じるんですよね。厳しさがあります。
90年代以降の作品にも本作と共通した感触があるのですが、きっとこの作品で手に入れた音楽的手法はジョニにとっても大きな収穫だったのでしょう。あのプリンスもジョニには影響を受けたと公言してるんですよね。
強烈に非日常を感じるアルバムです。一人旅でもした時には向き合いたくなる作品です。
けど毎日聴きたいとは思わないんですよね笑
ちょっと重すぎる…。
本当に心に染みる音楽って、たまに聴く位で丁度いいのかなぁと思ってます。セラピーみたいなものなんですよね。
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