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【Fahrenheit】(1986) TOTO 黄昏色のTOTOサウンド

私が中学生だった1986年(確か11月)、初めてTOTOなるバンドをTVで目にしました。歌番組《夜のヒットスタジオ》にてアメリカから衛星生中継で出演したのです。
海外特派員?の服部まこさんが流暢な英語でメンバーに話を聞きながらバンドを紹介。高層ビルの屋上で "I'll Be Over You"を演奏する姿(今思えば完全な口パク)を空撮するという凝った演出だったことをハッキリ思い出します。

翌日の学校で男子はTOTOの話で持ち切り。「昨日夜ヒット観たか?」「TOTOってトイレだがや」「いや、あのバンド、グラミー獲っとるらしいぞ」。
そう、このとき我々の洋楽体験にTOTOが加わったのでした。

私より先輩の世代からすれば笑われるようなTOTO初体験かもしれません。しかし、ひよこが最初に見たものを親と思うのと同じ。私にとっては本作は忘れられない作品なのです(^^)

本作「ファーレンハイト」はTOTO通算6作目のアルバム。この作品からリードボーカルが3代目のジョセフ・ウィリアムスに交替しています。
TOTOはAORな音に転向した【聖なる剣〜Ⅳ】(82年)でクラミー賞7部門を獲得しますが、初代ボーカルのボビー・キンボールが脱退。続く【アイソレーション】(84年)にはファーギー・フレデリクセンが後釜に収まるも一作で解雇。本作はTOTOにとって再度仕切り直しといった状況の作品です。

今、改めて聴き直してみると、なかなかバラエティに富んだ内容です。でもサウンドはアダルト。初期の熱いロック魂とは違った大人の音ですね。メロウ、ハードの両面を巧みに融合したところなど、ヒットした【Ⅳ】の音作りを狙ったようにも思えます。それでも本作は不発。全米54位。初期が好きだったファンには、既に別のバンドという扱いだったのかもしれません。
私はこのアルバム、曲の出来栄えも良いし、今でもTOTOの良作の1枚だと思ってますね。


(アナログレコード探訪)

インナースリーブ
コロムビアレコードの米国盤 1A/1A
マスタリングは名匠ボブ・ラドウィック

本作のアナログ盤、非常に音が良いです。CDが普及し始めて徐々に隅に追いやられていくアナログレコードですが、最終期のこの頃は技術も格段に進歩して、高音質な作品が多いです。一方で初期のCDは音が細かったりとまだまだ発展途上でした。

2005年紙ジャケットCD

試しにリマスターされたCDと音を比べてみました。確かにCDにはクッキリした音の良さがありますが、隙間がなく厚塗りの印象です。アナログ盤には粒子の細かさ、凹凸ある音像、残響音の豊かさなど、やはり格別な魅力がありますね。

当時買った思い出深いシングル盤です
B面の "In A WORD"は未収録曲


Side-A
① "Till the End"

オープニングは力強いロックナンバー!新参ジョセフ・ウィリアムスの歌唱力のお披露目といった自信の一曲だったのでしょう。
作曲もこなすジョセフは本作で5曲にクレジットと貢献。ここではデヴィッド・ペイチ(keyboard)との共作です。ダイナミックなアレンジでバンドの新生面をアピールしていますね。

② "We Can Make It Tonight"

こちらもロックしてます。初めはシットリ、サビでハードに展開するTOTOらしいナンバー。リズムパターンをいちいち変える辺りが技巧派集団らしいアレンジです。王道アメリカンロックなサビメロでのジョセフの声の伸びが素晴らしい。聴き惚れます。


⑤ "I'll Be Over You"

AOR系SSWランディ・グッドラムとスティーヴ・ルカサーが書いた本作からのヒットシングル。ルカサーはリードボーカルも担当。
夕暮れの摩天楼が思い浮かぶような都会的な雰囲気の極上バラードです。コーラスには適任、マイケル・マクドナルドが参加。
私は昔、好きだった女の子にこの曲を入れたカセットテープを贈ったことがありました。反応はありませんでしたが、今も私にはウットリする名曲です。


Side-B
④ "Lea"

本作のもう1つのバラード。これまた名曲です。ガット張りのギターでしょうか、リズミカルな爪弾きとパーカッシヴなアレンジが異国情緒を醸します。サックスはデビッド・サンボーン。美しい歌メロの旋律にムードを添えます。さらにバックコーラスにはドン・ヘンリーと豪華。優しく沁みるバラードです。


⑤ "Don't Stop Me Now"

最後は夜の闇に溶け込むようなジャズ。泣き咽ぶようなトランペット……何とゲストはジャズの帝王マイルス・デイヴィス!
メンバーがマイルスの作品に参加したことから実現したようです。もうこれは完全にマイルスの世界ですね、彼が主役。こうして夜の帳が下りて、本作は幕を閉じます。

本作は他にも打ち込みを取り入れた曲など、果敢に新生面を打ち出した内容が好みを分けたかもしれませんね。が、個人的には《夜ヒット》の衝撃もあって、洋楽体験の思い出深い作品です。売れ線と云われようが、これもまたTOTO。ビバ、産業ロック!

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