【Back in the High Life】(1986) Steve Winwood メインストリームに打って出た勝負作
英国ロッカーの重鎮として60年代から活動を続けるスティーヴ・ウィンウッド。70年代後半からはソロに転向しましたが、そのキャリア最大のヒット作となったのが本作【バック・イン・ザ・ハイ・ライフ】です。
私は冬になると必ず聴きたくなる曲があって、本作収録の "Higher Love" がその1つなのです。曲が持つ都会的な感触、ジワジワと心踊ってしまうノリがこの季節にピッタリ。インドア派の私が思わず、年末の華やいだ街を闊歩したくなるような、非常に気分が上がる曲なんですよね〜。
本作はスティーヴ・ウィンウッドの通算4作目の作品。一聴して感じるのが「抜け感」です。きらびやかで洗練されたサウンドが特徴的で、ポップなセンスも熟れて、売れる為に作られたレコードという感じがしますね。
ウィンウッドは若い頃から天才少年と謳われて、楽器は何でもこなすような才人です。ヒットした2nd【アーク・オブ・ア・ダイヴァー】(81年)、3rd【トーキング・バック・トゥ・ザ・ナイト】(82年)は彼のマルチぶりを発揮した良質なアルバムでしたが、本作ではさらに突き抜けた感じが伝わりますね。
マルチな作業と共に、有能なミュージシャンをバックに起用。またウィンウッド作品には珍しく多彩なゲストを迎えたことが、それまでになく生身の音楽らしい感触に繋がっているように思います。
今聴くと、プログラミングされた80年代風な音が気にはなりますが、それでも本作のベースにあるのはやっぱりリズム&ブルース。
スペンサー・デイヴィス・グループの頃から培ってきたルーツ、またトラフィック風に様々に音楽要素を隠し味に加える所もウィンウッド流です。本作は彼なりにアップデートしたブルー・アイド・ソウルのアルバムという気がしますね。
(アナログレコード探訪)
〜DMMの高音質なレコード〜
本作のアナログ盤は素晴らしく良音です。ドイツ盤もそこそこ良いですが、圧巻なのが米国盤。音量レベルがかなり大きい上に、全ての音が明瞭。ウィンウッドの歌もダイレクトに飛び出してくるようでした。ただし明らかにハイファイな音なのは、きっとこの時代はデジタル録音なのでしょう。それでも音の粒子の細かさはアナログ盤ならではという感じがします。
良音な理由がもう1つ、ダイレクト・メタル・マスタリング(DMM)という技術です。これはレコードの製作過程において、
ラッカー盤(マスターテープからカッティングした盤 凹)→ メタルマスター盤(凸)→ メタルマザー盤(凹)→ スタンパー(凸)→レコード(凹)
と版型を繰り返す作業の中で、最初の2つを省略してしまい、メタルマザー盤に直接カッティングしてスタンパーを作成するというもの(らしい)。80年代後半の盤にはよく見るDMM刻印ですが、この技術によりレコード製作の短縮化だけでなく、よりマスターテープの再現性が高まったようです。
本作の米国盤はまず3桁で買えます。興味のある方、是非オススメします。
〜番外編〜
90年代終わり頃、中古で投げ売りされていた12インチ盤です。"Higher Love" リミックス。勿体ぶった展開、バックトラックを抜いた箇所、残響音を繰り返すダブ風ミックスなど…今聴くと時代を感じますね〜。
ちなみにB面は"Higher Love"のインストと前作から "Valerie" 収録。カラオケでウィンウッド気分を味わえます(笑)
Side-A
① "Higher Love"
ウィンウッドに初の全米No.1をもたらした代表曲。イントロからエキゾチックなラテン風のドラムで胸が高鳴ります。シンセ中心のアレンジなのに躍動感あるのが、この曲の魅力ですね。
ウィンウッドはシンセベースも担当。歌もバッチリ。バックコーラスはチャカ・カーンですが、やたら目立ってます(笑)。終盤には前へ出て超ハイトーンのシャウトで絡むところはこの曲のハイライト。最高にソウルフルな2人の歌声にシビレまくりです。
PVの若干チャラいウィンウッドも御愛嬌。
② "Take It As It Comes"
アレンジはアーバンですが、オーソドックスなリズム&ブルースを感じるのがこちら。ランディ・ブレッカーがサックスで参加。80年代ブルー・アイド・ソウルと言った趣きですね。
④ "Back in the High Life Again"
本作のもう1つの代表曲。大らかでレイドバックしたミディアムテンポのメロディが沁みます。ウィンウッド自ら弾くマンドリンが牧歌的な風情を醸して良い味です。コーラスにジェイムス・テイラーが参加。いい曲です。
Side-B
③ "Split Decision"
本作で唯一トラフィック時代を思わせるのがこの曲でしょうか。何とジョー・ウォルシュとの共作。イントロからジョーのヘヴィなギター、ウィンウッドのハモンドが唸りを上げてスリリング。ブリティッシュロック魂を感じる重厚な一曲です。
ポピュラー音楽を生業にするミュージシャンたる者、一度は売れなきゃいけないだろうと私は思います。売れることは決して悪いことではないはず。
ましてや才能、キャリアに恵まれたスティーヴ・ウィンウッドのような人ならば、一度は天下を取るべきです。それを実現した本作は私は価値ある作品だったと思うんですよね。