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2023年4月に読んだ本

1 水野しず『親切人間論』★★★★★

この本、ずっと待っていた。水野しず氏のnoteが好きでよく読んでいるのだけど、これ紙で読みたいなとずっと思っていたのだ。面白い。言わずもがな面白い。映画を楽しむコツは全部ちゃんと見ようとしすぎない、というのはnoteで読んでから「なるほど」と思って、以後映画体験が少し変わった気がする。片づけは動線の確保が最重要課題、というのも目から鱗だった。「人生に絶対的な安心がないから脳は常に完璧な命を希求するしそれは「死」のことである。だから生きようとするあまりに絶命に至る神経は点滅を繰り返し、結果としてグラグラの積み木の頂点に仕上げの三角だけ載せようとする行為が蔓延する。」の章は特に好きだ。

自分がマシになるのが一番話が早い、これしかありません。マシになりたいという動機は、必ず人の心に存在の動機を与えてくれます。

2 又吉直樹『月と散文』★★★☆☆

小説よりエッセイの方が難しいと書いていたのは室生犀星だったか。村上春樹は小説は賢すぎる人は書けない、ちょっと馬鹿な方がいい、という旨のことを書いていた。このエッセイ集を読んで、私は又吉って小説の才能はあるけどやっぱ馬鹿なんだなと思ってしまった。なるほどそう考えるか、みたいな気づきとか、エピソードトークの上手さに舌を巻くとか、そういうのがない。
一点だけハッとしたのは、「肉食系」や「草食系」という表現について書かれた「少なくとも、恋愛や性愛という尊い関係性のもとで成り立つはずのものを、「捕食」を連想させるような言葉で喩えるのはやはり下品だと考える。」という一文。言いたいことは分かるのだけど、私は恋愛や性愛をそもそも尊いものだと全く思っていないので、ああ今までこれらの話題で何か話が嚙み合わないと思っていたのはこの前提が共有できていなかったからかー、と気づきを得た。みんな基本恋愛や性愛を尊いものだと思っているのだね。改めて言われなくてもまあそうだろうという気は薄々していたのだけど、こうやってはっきり書かれるとなんかショックだ。

3 菊竹胡乃美『心は胸のふくらみの中』★★★★★

ふつうの女の子が女の身体で生きていく痛み、傷、涙を率直かつラフ歌っている歌集。女性とセクシャルマイノリティはほぼ絶対に身体性と向き合わなくてはならない、一方男性は怪我や病気によってやっと向き合うことになるというこの身体性に関する不平等に対して、かなり強い憤りが私にはある。身体性に関して男のあまりの鈍麻さよ。腹立たしいな。

おんなというもの野放しに生きるには多すぎる爆撃機

少女が女になったところで何なの水を蹴っていきたい力

セクハラに逃げ惑いいつか私も愛するひとへ生贄になる

死にたいと思ったり死んでくださいと思ったり生理どでかくなる胸

どんなときも生きていかなければならぬ喪服の元気なふくらはぎ

懸命に食べながらえて生きてきた 祈りがあなたをころす波になるまで

「永遠に噛めないフランスパン」より抜粋

内側からも外側からも女の身体というものに振り回されて傷つき、それで欲するのがメンタルの強さや社会的な女の地位向上とかではなく「柔道めちゃ強男」や「津波のようなパトロン」という要は身体能力と経済力という男性性なのは率直だなと思う。私は絶対こんなこと書けない。自分一人が強い身体とたくさんのお金を持って弱い側から強い側に移動しても構造そのものが変わっていないのだから無意味だと思うからだ。そういうロジックとは別にパッと思ってしまうことはあって、それを素直に書いているのがこの歌集の良さだと言えるだろう。身体に振り回され悩み涙しても身体の健やかさに救われているあたりに、ふつうの若い女性らしさがある。

4 T.S.エリオット『荒地』西脇順三郎訳★★★☆☆

有名なエリオットの詩集。西脇訳は馴染みがないな。

5 小指『人生』★★★★☆

漫画半分、エッセイ半分。漫画は絵が可愛い。結構エグめの話も可笑しみがあってよい。仕方のないことではあるのだけど自費出版は誤植がつらいね。商業出版でリイド社あたりから短編集とか出ないかな。

6 中尾太一・金川晋吾・川口好美・田中さとみ『Hector』★★★☆☆

表紙に犬のぷっくりした加工があるのがかわいい。中尾太一の詩は個人の単著の詩集に入っている詩より隙がある感じはするのだけど、これはこれでよさがある。あとがきに改めて恋愛詩が多いと自分で書いているのも何かいい。

7 石田夏穂『ケチる貴方』★★★★☆

2編入っていてそれぞれのテーマが冷え性と脂肪吸引。面白いのだけど、どうしてもその症状のあり様が極端すぎる。リアリスティックな描写なのに設定だけがとても過剰で、これ本当なのかな、こんな人現実に存在しないよね?と本筋と関係のないところで引っ掛かってしまった。でも考えてみれば冷え性や太い太腿の症状だけじゃなくて、彼女たちの内面も相当極端だ。自分の悩み・コンプレックスにここまでガチンコで向き合っている人って、整形以外だと現実にはそういない。しかしまた身体性を問題にするのは女性だ。

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