大人はもっと綺麗だと思ってた⑶
翌週、私たちは夜景をリベンジする為、車を走らせていた。
「疲れたら変わるからね?」
お互い免許を持っていたので、車の運転は交代交代で行こうと話していた。
「俺の最近ハマってる曲流してあげる。」
彼がおもむろに曲を選んだ。
歌詞が今の二人をそのまま表しているようで、少し気まずくなった気がした。
私だけだったろうけど。
「ここから山道だね、道細いな…」
山の麓につき、車のライトをハイビームに切り替えて狭い道を進んで行った。幸いにも対向車がおらず、すいすいと山道を登って行った。
「何かお化け出そうだよ…明るい曲にしよ!」
私がアップテンポの曲に切り替えて、二人でその曲を口ずさむ。
山頂につくのは思っていたより早かった。
外に出ると一気に寒さが二人を襲い、私たちは寒い寒いと身を寄せながら夜景の見える場所へ向かった。
暗い道を抜けると、一気に視界が広がる。
「えっ、めっちゃ綺麗…!」
二人の声が重なった。
目を合わせて「シンクロしたね」と笑い合う。
誰もいない山頂で、その景色を二人で眺めた。
「…来れてよかった、
一緒に来てくれてありがとう。」
彼が少し照れくさそうにそう呟くので、変にドキドキしてしまった。
こんなの、付き合ってるようなもんじゃん。
心の中に少しだけモヤついた感情が残る。
目の前の彼の姿を信じて、気づかないフリをした。
今は隣にいれるだけで充分。
これだけで私は充分幸せだ。
その気持ちを噛み締める。
「次はどこ行こっか。」
そんな感情は露知らず、彼はそう続けた。
「どこでも行こうよ、きっと楽しいから。」
私は笑ってそう答えた。
彼は嬉しそうに頷いてくれた。
しばらく景色を堪能し、寒いのもあって私らはすぐに山頂を後にした。
車に戻る短い山道を二人で背中を押しあったりして子供のようにじゃれあいながら歩いた。
不意に彼が私を後ろから抱きしめる。
「ねぇ歩きづらいよ〜!」
笑いながらも、不意打ちだったので少しドキッとした自分がいた。
「今日も泊まってくやろ?」
泊まらない訳がなかった。
「もう歯ブラシとか置いてっちゃおうかなぁ」
冗談めかして言うと、彼は「いいやん、置いてきなよ。」と返してくれた。
二人で帰りにコンビニへ寄り、アイスを買った。
「この時間のアイスは太る〜」
「俺は運動してるから平気、お前はやばいな」
「自分からアイス買おうとか言ったくせに!」
後に私を苦しめる要因になるとも知らずに、私はその会話を心の底から幸せだと感じていた。
彼の部屋に戻り、私らはまた一緒にシャワーを浴びる。
「ねぇこの傷どうしたの?」
体を洗っていると、私の腕に出来た複数の痣を見て彼が言う。
「これ?何か最近知らないうちに色んなとこぶつけて痣出来ちゃってるんだよね」
「無理してフラフラになってる訳じゃない?」
「うん、体は元気だよ」
「そっか、頑張ってるな。」
過去に倒れた話を知っている彼は、
よく過保護だよ、と言いたくなる程心配してくれる。
私の体に出来た痣をしばらく眺めて、その痣に彼がキスをした。
「頑張ってるよ、本当に。」
ぽつりとそのセリフを繰り返し彼が呟く。
かつて私の体にこんなに暖かく触れてくれた人はいただろうか。
今まで頑張ってきたことがじんわりと心の奥から報われた気がして、私は少し泣きそうになった。
「ありがとう」
微かに震えた声で答えた。
彼とずっと一緒にいたい。
彼の彼女になりたい。
「大好き」
口の中で小さく呟いた言葉は、
彼に届く事なくシャワーの音で掻き消された。
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