大人はもっと綺麗だと思ってた⑺

彼に会えなくなって一ヶ月が経った。
彼には何をLINEしても会えない趣旨の返信しか返ってこなかった。

先輩の告白は適当に断った。

私の心はあの日から、何も動いていなかった。

何度も何度も彼と交した最後の言葉を思い出しては涙を流す繰り返しだった。

会いたい。

あれだけ呆気なく突き放されたのに、
彼を追いかける価値などないと分かっているのに、私は彼に会いたくて仕方がなかった。

次の恋など、出来るはずもなかった。

そんな中、大学の友人が出会い系アプリを始めたという話を聞いた。
本気で彼氏を作りに行く、と彼女は燃えていた。

そんな話を聞きつつ、私もつられて自分のスマホのAppleストアで出会い系アプリを検索した。

どれも本気で彼氏を作れるアプリなのかなぁ。

まだ心にいる彼の存在が大きかった私は、彼氏を作りにいく気持ちなど出来なかった。

いっそTinderとかで割り切りの関係とかなら…

私は何も考えずに、ダウンロードボタンを押した。

天国のように見える地獄の始まりだった。

最初に会った男の人は二つ上の医大生。
綺麗な顔立ちに、元陸上部のスラッと長い脚。

ネットを通して人と会う事が初めてな私は、ガチガチに緊張していた。

彼はそんな私を見て、

「緊張してる?行こっか」

そう笑った。
彼は私の手を握り、家へと誘導した。

会って30分足らずで家…?
Tinderってこういうものなのか…?

戸惑っているのも束の間、あれよあれよというまに私はベッドの上で押し倒されていた。

「まだ緊張してる?可愛いね。」

大好きだった彼とのキスを、目の前の男はいとも簡単に上書きしてくる。

フラッシュバックする彼との時間。
私は何度もやめて、と言おうとした。

が、段々彼の存在が薄くなり、単純な私は次第に目の前の男に夢中になり始めた。

事後、無造作に脱ぎ捨てられた自分の服を眺めながら私は呆気に取られていた。

一瞬、ほんの一瞬だけど、彼を忘れられた…?

とんでもない荒治療な事は分かっていた。

だが新しい彼氏を作る気にもなれない私の心の穴を埋めるには、それはとても都合が良かった。

味をしめた私は、そこから次々に新規を漁る。

もちろん外れもある。
ホテルから走って逃げ出したりした事もあった。

遊び初めて一ヶ月、最初に会った男から再び連絡があった。

「いつ暇?また会いたい。」

ワンナイト前提で遊んでいた私は、何とも言えない高揚感で満たされた。

また会いたいと思ってくれる人もいるんだ。

その時の嬉しさから、彼とはその後もしばらく一ヶ月に一度会う仲になった。
私にとって出来た初めての固定セフレであった。

数ヶ月した頃、新規を漁りつつ、何度も会ってくれるセフレが7人ほど出来上がった。

寂しい夜は誰かを召喚して、ベッドの上で満たされて、そんな生活を繰り返し続けていた。

けれど私はまだ、彼と夜景を見に行く道中で車内で二人聴いていた曲を消せることなく、

何度も何度も涙を流しながら聴き続けていた。

男を召喚しても、それは本当に一時的な効果しかない。だって応急処置だから。

継続的な私の彼への未練は、応急処置程度では簡単に消えるものではなかった。

そんな情緒不安定な私の前に、
1人の男の人が現れた。

その男の人は、私の次の依存先となった。

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