大人はもっと綺麗だと思ってた⑷

それから毎週のように私たちは会っていた。

会う度に彼は、
「次はあそこ行きたい」「これ食べ行こう」
と次の話をしてくれた。

ある日いつも通り二人で部屋でくっつきながら、紅葉の特集をしているテレビ番組を見ていた。

「ねぇ私、紅葉が終わる前に見に行きたい」

私なりに勇気を振り絞って誘う。

「ええやん、行こう、どこが綺麗かな?」

嬉しそうにスマホで調べ出す彼に、
すぐにでも気持ちを伝えたくなった。

でもまだ気持ちを伝えて、関係がこじれて会えなくなったら…という怖さが勝っていた。

「次会う日までに探しとくね。」

私は笑ってそう答えた。

私たちが会う翌日は決まって私が部活の日。
彼の胸元で私は早朝に目を覚ます。

まだ外が暗い。

それでも彼は眠たい目を擦って一緒に起きる。

「もう行くね」

そういうと彼は首を横に振り、
私を時間ギリギリまで抱きしめた。

「もう行かなきゃ」
「ううん…まだ5分時間ある。」

そう言って私を離さない彼が、
私はとても好きだった。

「じゃあ…行くね。」
「うん、頑張って、また来週。」

ギリギリまで手を振って見送る彼が愛おしくて、
どうしてこんな時間を一緒に過ごしているのに彼女になれないんだろう、と疑問だった。

名前の付けられない関係を続けて三ヶ月。
季節は冬へと切り替わっていく。

来週会う時に紅葉の予定決めて、
再来週が紅葉見れるラストチャンスかな。


そんなことを考えながら、私は彼に会う二日前の夜、部活の飲み会に参加した。

『今日部員たちと飲んでくる!』
『楽しそう、気をつけてね』
『ありがとう〜!たのしむ!』

『今週も家来るよね?』

彼のLINEを返さずに、私はお酒を飲んだ。
酔った勢いで電話でもしようかな、なんて浅はかな考えがあったから、あえて返さなかった。

「久しぶり。」
「あ!先輩、飲み会来たんですね!」

飲みの席で声をかけてきたのは、
引退した先輩だった。

現役の時は大して関わりはなかったが、
かっこいい先輩だなという憧れは少しあった。

「先輩飲み会参加するの珍しいですね」
「確かに、基本あんまり参加しないかな?」

騒ぐ男達の声をBGMに、
私は先輩とお酒を交わした。

飲み会も終盤、みんな二次会に行くか行かないかとわいわい話していた。

二次会は行かずに帰ろうかな。

そう思って彼のLINEを開こうとした時だった。

「待って。」

私の腕を引っ張ったのはさっきの先輩だった。

「…どうしたんですか?」
「ねぇこのまま抜け出そう、二人で話したい。」

予想外の言葉だった。
先輩は現役時代から女の影が一切なく、他の部員たちからミステリアスな人と言われていた。

「ごめんなさい私…」

憧れていたこともあり、少し揺らいだ。
それでも私はすぐに彼を思い浮かべ後ずさりした。

「彼氏、いないんでしょう?」

お酒が入ってるのもあり、先輩は強引だった。

「可愛いと思ってたんだ、ずっと」

その言葉は、目の前に居る女を抱きたいが為の嘘だと私は知っていた。

「あれ?あの二人いなくない?」

不意に誰かの声が耳に入った。

「ほら、早く行かなきゃバレちゃうよ」

意味の通ってない理論に流されて、私は先輩に肩を抱かれながらその場を離れてしまった。

「先輩、どこ行くんですか…」
「分かってるでしょ」

私も大分お酒を飲んでおり、抵抗力がなかった。
そんなもの、言い訳でしかないのは知っている。

私は馬鹿だった。

床に散らばった私と先輩の下着。
ベッドの上で私はずっと彼の事を考えていた。

彼との関係に名前があれば、私はもっとはっきり断れたのかもしれない。
私が彼の彼女なら、そもそもこんな所にも来ない。

「…会いたい」
「え?」

気づいたら口に出ていた。

何でこんなにも会いたい人がいるのに、
どうして私はこんな所にいるの。

「…誰を思い浮かべてるの?」

私は気づいたら泣いていた。
その涙を先輩は手で拭いながらそう言った。

「…ごめんなさい」

返す言葉がそれ以外見つからなかった。

「…俺と付き合う気とかは…なさそうだね。」
「付き合う…?」

あんなに一緒に過ごした彼が絶対に言わなかった言葉を、先輩はたった一夜過ごしただけで口にした。

「うん、俺は付き合いたいと思ってるよ。」

もうお酒が残っている様子はなかった。
何も喋れない私を見て、先輩は優しく頭を撫でた。

「返事は待ってる。ゆっくり考えて。」

先輩は仕事があるから、とお金を置いて帰った。

一人残されたホテルの一室で、私は魂が抜けたように動けなくなっていた。

「馬鹿だ…本当に馬鹿だ…」

一時間程一人で泣きじゃくって、
私はとぼとぼとホテルから出て家に帰った。

「あ、LINE…」

『今週も家来るよね?』
『メッセージの送信を取り消しました』

飲み会前に見ていた通知の後ろに、
私のモヤモヤを悪化させる文字が並んでいた。

「追いLINEしてきてたの…?
それでも返ってこないから消したの…?」

また涙が出てきた。

私は急いで返信しようとキーボードを打つ。

『返信遅れてごめんね。
今週も行く、次会ったら話したい事がある。』

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