大人はもっと綺麗だと思ってた⑹
翌朝。
「おはよう」
まだ日が登りきっていない薄暗闇の中、
私はアラームで目を覚ました。
まだ半分夢の中にいる彼に一声掛けて、
私は一人で身支度をする。
「ねぇ」
彼が私を呼んだ。
「ん?」
「こっちきて」
ベッドに近寄っていくと、彼が私の腕を掴んでベッドの中に引きずりこんで行った。
「わっ!ちょっと、何するの!」
笑いながら彼の腕を力なく押し返した。
「私もう時間だよ?」
「まだ時間じゃない。」
駄々をこねる彼が愛おしくて仕方なかった。
ベッドの上で二人向かい合ってじゃれあう。
「ねぇ、君に言わなきゃいけないことがあるの」
気づいたら口に出ていた。
私の心は、彼との関係の結論を急ぐ。
「なに?」
彼の表情が瞬時に曇り、私は一瞬躊躇った。
二人の時間が終わりを告げる音が、
少しずつ近づいてきている恐怖が襲う。
私はゆっくりと声を出した。
「…私、前の飲み会で先輩に告白されたんだ。」
彼の表情が更に曇る。
「でも、断る。」
「なんで?」
彼がすぐにそう聞いた。
私は深呼吸をして、彼の目を真っ直ぐ見た。
「好きだから、君のこと。」
時が止まったように思えた。
彼の目の奥に戸惑いが見える。
言ってしまった。
もう後戻り出来ない。
変な汗が止まらなかった。
何ならもう涙だって溢れだしそうだった。
なんで何も言わないの?
何か言ってよ、笑うなら笑ってよ。
「………そーなん」
彼は乾いた言葉で私を突き放した。
ありがとう、でも、俺も好き、でもなかった。
告白に対する返事じゃないだろう、と思った。
「…もう、行くね。」
長い沈黙に耐えきれず、私は立ち上がった。
彼は黙って玄関先まで着いてきた。
「じゃあ。」
そう言って部屋の外に出て、振り返った瞬間。
「俺はまだ、友達としてしか見れてない。先輩の事がすきなら、先輩と付き合えばいいと思う。」
「…え?」
「じゃあ部活頑張って。ばいばい。」
「え?待って、ちょっと…!」
私の手が彼に伸びる前に、
無惨に扉が閉められた。
魂が抜けたまま、私は車を発進させた。
友達としてしか見れてない?
あれだけ一緒に過ごして?キスをして?
手を繋いで眠って?色んな所行って??
それでも私はまだ、友達止まりだったの?
疑問文で頭が埋まって、パンクしそうだった。
「……なんで?なんでこうなるの?」
目の前の景色がぼやけて、心が締め付けられた。
大粒の涙が止まらなくなった。
こんな運転していたら事故ってしまう。
それでも私は泣き止むことなんて出来なかった。
「どうして…何でよ…?」
今までの思い出に訴えかけるように、
私は泣き続けた。
気持ちが整理出来ぬまま、
車を運転し続けた。
彼と二人で会ったのは、その日が最後だった。
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