読書感想文・林真理子さん「成熟スイッチ」
娘は生後11ヶ月で保育園に途中入園しました。早生まれでまだまだ小さい娘は、他の園に慣れた子たちとうまくやっていけるのだろうか、私がそばにいないと泣くのではないか、と不安に押しつぶされそうになりました。
しかし、私の不安は外れました。見送りのタイミングは両手で私の服を掴んで「ママ」と泣きじゃくった娘ですが、私の姿が見えなくなると、スッと泣き止んで遊び始めるそうです。新しく平均台が導入されると、誰よりも先に登り始め、先生たちにも笑顔で手を振って、愛嬌を振りまいています。天性の社交的な一面を保育園入園によって爆発させたのです。
親としては保育園のアイドルの座におさまった娘を頼もしく思うと同時に寂しさは拭えません。仕事の移動時間、電車で娘と同じくらいの月齢の子をベビーカーに乗せたお母さんを見ただけで、涙が溢れました。これではマズイ。無理矢理子離れモードに切り替えるために、林真理子さんの「成熟スイッチ」を手にしました。
20代の私にとって、林さんの作品は上の世代が読むもの。周囲にも読んでる人はいなく、馴染みはありませんでした。しかし、スポーツ観戦が趣味の私にとって日大アメリカンフットボール部の選手による、悪質な反則行為を発端とした一連の騒動は大変胸が痛くなりました。そして、3年後に前理事長が逮捕され、かのブチギレ司会者の「日大ブランドは落ちません」が、悲しいほどに頭の中を響き渡りました。
そういえば、林さんが理事長に就任して…そのあとは?ニュースの続きが気になりましたし、帯には「仕事をどう面白がるか」と書かれていましたので、仕事復帰直後の私にはいいかもしれないと思い、とりあえず読んでみることにしました。
エッセイを読み始めてすぐに気付きました。林さんの手のひらで転がされていることを。エッセイの始めに日大理事長就任の話がきているのです。きっと私と同じように日大事件の野次馬がわくことは、想定済みだったのでしょう。そんな冒頭で、以下の言葉が胸に残りました。
林さんは責任ある立場に憧れながらも、上手に立ち回れず、悲観したことがある過去をエッセイの中で振り返っています。しかし、現在は思いがけずに訪れた大きな門出を「運命」と捉え、前を向いて歩こうとしている。予想だにしない出来事に悩み、円形脱毛症になったことのある私にとって、その身と心の軽やかさは憧れざるおえません。
書籍には大学をより良くするために行っている改革から、嫌な思いをしたことまで赤裸々に書いてあります。また、お目当ての仕事に関する記載でもノックダウンしました。
正直に言えば、仕事復帰しましたが、やる気が出ません。時短、子どもの発熱など突破的なことも多く、思うように進みません。出産前のようにバリバリ働くことは無理です。それでも頑張ろうと思っていたところ、後輩が私の育休に迷惑している趣旨を他社の方たちに言いふらしていたことをいろんなところから聞いてしまいました。仕事でお荷物になっていることを突きつけられ、精神的にも参ってしまい、いっそ辞めようかしらと考えましたが、スーパーのレシートの合計金額がどんどん高くなっていることに気づき、踏み出せません。
働く意味を見出せない今だからこそ、林さんの言葉が身に沁みました。きっとここで逃げたら、私は自分が好きじゃなくなる。私は人間力を鍛えるために働いているのだと思ったら、少しはやる気が芽生え、今では妊娠前と少し働き方を変え、私にしかできないアプローチ方法を見出そうと意識改革ができました。
「成熟スイッチ」を読み終えた次の日、娘はついに見送りの時に初めて自分から0歳児クラスの部屋へ入りました。自分の部屋かのようにくつろいで座り、空気入れのようなポンプのおもちゃを足でリズミカルに踏みながら、私に「ばばい」と言って、手を振って別れを告げてきました。また一つ成長した娘に、驚かされるばかりです。親としては寂しいですが、私も保育園生活を満喫している娘に負けないように、ワーママという運命を楽しみたいと思います。
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